Vinyl Record Reviews
KC Flighttは、Frank Toson Jr.の名でも知られるアメリカのMC/プロデューサーだ。Brothers In FlighttやFrank Toson名義、さらにAfricanismへの参加でも名前が見られる。活動の中心はヒップホップというより、ハウス・ミュージックの文脈にある。
KC Flighttは、1980年代後半から1990年代前半にかけて、ハウス/ヒップハウスのシングルを次々に発表している。
この時期の作品を見ると、KC Flighttがラップを前面に出しながらも、ハウスのビートやクラブ向けの構成を軸にしていたことがわかる。ヒップホップとハウスが近い距離にあった時代の空気を、そのまま作品に落とし込んでいる。
1991年の「Voices」は、KC Flighttを語るうえで外せない曲だ。The Policeの「Voices Inside My Head」をサンプリングし、印象的なコーラス部分にはSting本人のヴォーカルが使われている。プリミティブなドラムとチャント的なヴォーカルを組み合わせた作りで、トライバル・ハウスの初期形に近いサウンドとして扱われることが多い。
この曲はイギリスを中心に広くプレイされ、ジャンルを代表するアンセムの一つとして知られている。クラブ・ミュージックの現場で強く機能した曲として、KC Flighttの代表作に数えられる。
KC Flighttの音楽は、ラップを載せつつも、ハウスの反復するビートとクラブでの鳴りを重視している。特に「Voices」では、打楽器的なリズム、短いフレーズの反復、チャントのようなヴォーカルが前に出ている。
ジャンル表記としてはElectronic、Hip Hop、Deep House、House、Hip-Houseが挙げられるが、実際の活動を見ると、ヒップホップのラッパーというより、ハウス・シーンでのMC/プロデューサーとして整理したほうがわかりやすい。
KC Flighttは、アシッドジャズ・プロジェクトPushにも参加している。サックス奏者Bill Evansが率いるこのプロジェクトの1994年作『Push』に名を連ねており、ハウス以外のクラブ/ダンス系の現場にも関わっていたことがうかがえる。
こうした参加歴を見ると、KC Flighttは単独のヒット曲だけでなく、ハウス、ヒップハウス、アシッドジャズの接点にいたアーティストとして見ておくと整理しやすい。
KC Flighttを追うなら、まずは「Voices」から入るのがわかりやすい。そのうえで、80年代末の「She's Sexxxy」や「Planet E」、90年代の「Jump for Joy」「Magic Man (Abracadabra)」を並べて聴くと、彼がどの時期にどのタイプのハウスに寄っていたのかが見えやすい。
クラブ向けの機能性と、MCとしての存在感がどう組み合わさっているかを見ると、このアーティストの立ち位置がつかみやすい。