KC Flightt - In Flightt (1989)
KC Flightt『In Flightt』(1989)について
KC Flighttの『In Flightt』は、1989年にUSのRCAから出たアルバムだ。ジャンル表記はElectronic、Hip Hop、スタイルはHouse、Deep House、Hip-House。いわゆるラップのアルバムというより、当時のクラブ・ミュージックとヒップホップが近い距離で交差していた時期の空気をそのまま閉じ込めた作品として捉えやすい1枚である。
KC Flightt名義では、クラブ向けの感触とラップの言葉数の多さが同居しているのが特徴だ。1989年という時期を考えると、ハウスやヒップハウスが都市部のダンスフロアで強く存在感を持っていたころで、そうした流れの中に置くとこの作品の輪郭が見えやすい。メジャー・レーベルのRCAから出ている点も含めて、アンダーグラウンド寄りの感覚と商業流通の回路が接続していた時代性がある。
収録曲「Planet E」とサンプリング
この作品で特に知られるのが「Planet E」だ。リリースノートにもある通り、この曲はThe Talking Headsの「Once in a Lifetime」からサンプルを使っている。原曲のリズム感やフレーズを参照しながら、都市生活の停滞感や社会的な視点を乗せている点がポイントで、単なる引用ではなく、元ネタをクラブ・トラックの中で再配置しているような作りになっている。
当時の資料でも「Planet E」は、白人ロックの素材を黒人音楽の文脈で再解釈する“creative recycling”として扱われていた。1980年代後半のヒップホップやハウスでは、こうしたサンプリングの使い方がすでに重要な表現手段になっていて、『In Flightt』もその流れの中にある作品と見てよさそうだ。
シングルの動きと作品の位置づけ
商業面では、アルバム全体よりもシングルの印象が強い。確認できる範囲では、KC Flightt名義でUKチャートに入ったのは「Summer Madness」で、最高位89位、チャート在位1週。大きなヒット作というより、クラブやダンス市場で存在感を残したタイプのレコードだと考えられる。
その意味では、『In Flightt』はアルバム単位で広く聴かれるというより、特定の曲がダンスフロアやDJの現場で機能していた作品に近い。収録曲の作りも、ラップの押し出しだけでなく、反復やビートの流れを重視した設計に見える。ハウス、ディープ・ハウス、ヒップハウスという複数の要素が、1989年らしい混ざり方をしている。
制作面のクレジット
「Planet E」はKC Flightt自身がプロデュースし、KC FlighttとCordell Tosonがミックスに関わっていたことがBillboardの記載から確認できる。作家クレジットにはDavid ByrneとBrian Enoの名前も入っており、サンプル元への意識がかなり明確だ。こうしたクレジットの並びからも、この曲が単なるビート物ではなく、元ネタの意味を踏まえたうえで組み立てられていたことがうかがえる。
RCAの当時の広告では、『In Flightt』は“verbal wit”のある作品として打ち出されていた。つまり、言葉数やフレーズの運び、コンセプトの立て方まで含めて売りにしていたわけで、1980年代末のラップ作品に求められていた要素がそのまま反映されている。
1989年の空気の中で
1989年は、ヒップホップがラジオやチャートの中で存在感を強める一方で、クラブ・ミュージック側でもハウスが拡張していた時期だ。『In Flightt』は、その接点に置くと見えやすい。ラップの形式を持ちながら、ビートや反復の感覚はダンス・トラック寄りで、都市の夜の空気に合う作りになっている。
同時代の文脈で見ると、サンプリングを前面に出した作品群や、ラップとハウスをつなぐアーティストたちと並べて語れるタイプでもある。大きく派手に市場を席巻した作品ではないが、1980年代後半のクラブ文化とヒップホップの接点を記録した1枚として、今見ても位置がはっきりしている。
まとめ
KC Flightt『In Flightt』は、1989年のUS盤RCAリリースとして、ヒップホップとハウスの交差点に立つ作品だ。特に「Planet E」のような曲では、サンプリングを使いながら都市的な視点を組み込む手つきが見える。チャート上の大成功作ではないが、クラブ現場とラップの感覚が近づいていた時代を知るうえで、押さえておきたいレコードである。
トラックリスト
- A1 Planet E (House Mix) 4:47
- A2 Let's Get Jazzy 3:53
- A3 Summer Madness 5:28
- A4 Bass Line 4:43
- A5 Let's Go 4:40
- A6 Jazz Player 6:28
- B1 Fantasy 4:27
- B2 She's Sexxy (Fantasy Mix) 5:23
- B3 Your Place Or Mine 6:14
- B4 It Goes Like This 5:27
- B5 Africa 4:19