Vinyl Record Reviews
Materialは、1970年代末のニューヨークで始まったアメリカの実験的なバンドだ。中心にいたのはベーシストのBill Laswellとキーボード奏者のMichael Beinhornで、活動初期はノーウェイヴ、ポストパンク、ファンク、ジャズ、ノイズが交差する場所にいた。
バンド名としてのMaterialは、同時にLaswellとBeinhornによる制作ユニット名としても使われていた。Afrika Bambaataa、Herbie Hancock、Nona Hendryxなどの作品に関わり、バンド活動とプロデュース作業が並行して進んでいた点が特徴だ。
Materialは1979年ごろ、ニューヨーク・ダウンタウンのノーウェイヴ〜ポストパンク・シーンから生まれた。Giorgio GomelskyのZu House周辺の流れとも重なっていて、当時の実験的な空気を強く受けている。
初期作のEP『Temporary Music』では、既存のロックやファンクの枠に収まらない構成が目立つ。続く1981年の『Memory Serves』では、ノイジーなノーウェイヴ色が前面に出ていて、演奏のぶつかり合いと音響処理の両方がはっきりしている。
1982年の『One Down』では、MaterialはファンクやR&B寄りの方向へ動く。ここでは、前作までの鋭いノイズ感に加えて、リズムの強さやグルーヴが前に出る。
この時期のMaterialには、Bootsy Collins、Nile Rodgers、Bernie Worrell、Robbie Shakespeare、Jerome Brailey、Ginger Baker、Sonny Sharrock、Fred Frithなど、多様なミュージシャンが参加している。メンバー表を見ても、ロック、ファンク、ジャズ、ワールド系の人材が混ざっていて、固定した編成というよりプロジェクト色の強い集まりだったことがわかる。
Materialの活動で特に大きな反響を残したのが、1983年のHerbie Hancock『Future Shock』のプロデュースだ。Bill LaswellとMichael Beinhornがここに関わり、収録曲「Rockit」はスクラッチ、ドラムマシン、シンセサイザーを組み合わせた作りで知られる。
この曲はヒップホップ史の文脈でもよく触れられる存在で、1984年のグラミー賞Best R&B Instrumental Performance部門を受賞している。さらにMTV Video Music Awardsでも5部門を獲得していて、音だけでなく映像面でも広く見られた作品だった。
この仕事によって、Beinhornはヒップホップやポップの制作面で重要な人物として認識されるようになり、1985年にMaterialを離れた。
1980年代後半以降のMaterialは、初期のノーウェイヴ/ファンク路線だけでなく、より広い地域音楽の要素を取り込んでいく。90年代には、ワールド、インド、アフロ、アンビエント、ダブ寄りの方向へ進んだとされている。
この流れは、Bill Laswellの制作活動全体ともつながっていて、単独のバンドとしてだけでなく、ジャンル横断の実験プロジェクトとして見たほうがわかりやすい。
Materialには、Bootsy Collins、Bernie Worrell、Nile Rodgers、Robbie Shakespeare、Ginger Baker、Henry Threadgill、Fred Frith、Robert Quine、Sonny Sharrock、Billy Bang、Graham Haynes、Simon Shaheen、Olu Dara、David Moss、Hamid Drakeなど、分野の違う演奏家が多数参加している。
この顔ぶれだけでも、Materialがひとつの固定ジャンルに収まらないプロジェクトだったことが見えてくる。ジャズ、ファンク、ロック、アフロ系、アラブ系、インド系まで、演奏者の背景がかなり広い。
まずはEP『Temporary Music』、次に『Memory Serves』、『One Down』の順で追うと、初期のノイズ志向からファンク寄りへの変化が見えやすい。あわせてHerbie Hancock『Future Shock』を聴くと、Materialの制作手法がどこで外に広がったのかもつかみやすい。
Materialは、バンドとしての作品とプロデューサー集団としての仕事が重なっている。1980年代のニューヨークの空気を知るうえでも、ヒップホップの制作史をたどるうえでも、触れておきたい存在だ。