Material - For A Few Dollars More (1983)
Material『For A Few Dollars More』――ジャズ、ファンク、ノイズの境目を押し広げる1983年作
Materialは、ベーシストのBill Laswellとキーボード奏者Michael Beinhornを中心に立ち上がった、アメリカの実験的なユニットだ。パンク、ジャズ、ファンク、ノイズ、エレクトロの要素を横断しながら活動していて、単なるバンドというより、制作集団としての性格も強い。Herbie HancockやAfrika Bambaataa、Nona Hendryxらとの仕事でも知られており、80年代のブラック・ミュージックとアヴァン・ロックの接点を探る存在として見ておくと整理しやすい。
『For A Few Dollars More』は1983年に登場した作品で、日本盤も同年、CBS/Sonyの12AP 2757としてリリースされている。タイトルの初出年と盤の年が一致しているため、この作品は1983年のMaterialをそのまま反映した一枚として捉えやすい。Materialのディスコグラフィの中では、初期の実験性とダンス・ミュージック寄りの感覚が、かなり直接的に結びついていた時期の記録といえる。
作品の位置づけ
Materialは、のちによりワールド・ミュージック、インディアン音楽、アフロ、アンビエント、ダブへと広がっていくが、この時期はまだ輪郭が鋭い。音の作りは、演奏の生々しさを残しながらも、スタジオ処理や反復の組み立てが前面に出る。ジャズ・ファンクの流れを踏まえつつ、当時のエレクトロやポスト・ディスコの空気も吸い込んでいて、80年代前半の都市的なサウンドの一断面として聴ける。
Bill Laswellの作品群を追っていると、ここでは低音の扱いがかなり重要だとわかる。ベースが前に出るだけでなく、リズム全体の重心を決める役割を担っていて、上モノのフレーズがどれだけ変化しても、曲の芯がぶれにくい。Materialの中でも、後年の越境性へ向かう前の、比較的コンパクトな編成感が残る時代の記録として見るとわかりやすい。
サウンドの印象
この作品でまず目立つのは、リズムの粘りと、音色の切り替えの速さだ。ファンク由来のうねりがありながら、単純に踊らせるだけでは終わらない。電子的な処理や鋭いギター、シンセの配置によって、同じグルーヴが続いていても景色が変わる。演奏の熱量と、機械的な組み立てがぶつかる感じが、Materialらしさとして出ている。
また、当時のクラブ・ミュージックの文脈に近い手触りもある。とはいえ、整ったダンス・トラックというよりは、演奏の揺れやぶつかり合いが残っていて、そこに人力の強さがある。電子音だけで押し切るのではなく、ファンク・バンド的な身体感覚が残っているところが面白い。80年代初頭のエレクトロやフュージョンとは少し違う、もっと荒い質感の作品として受け取れる。
注目曲について
表題曲「For A Few Dollars More」
表題曲は、この作品の方向性を最も端的に示す中心曲として聴ける。タイトルから連想される映画的なイメージに対して、実際の音はもっと都市的で、硬質だ。リズムの反復、ベースの押し出し、断片的なフレーズの積み重ねが、ひとつの推進力になっている。メロディを前面に出すというより、音の配置そのものを聴かせるタイプの作りで、Materialの実験性がよく出ている。
この曲では、演奏が単に「上手い」だけではなく、どこで引くか、どこで崩すかの判断が重要になっている。勢いを保ったまま、少しずつ音像をずらしていくため、同じテンポ感でも緊張が続く。Materialの初期作を追うなら、まずこの曲で彼らの基本的な態度――ファンクを土台にしながら、形式を固定しない姿勢――を押さえやすい。
アルバム全体の流れの中のダイナミクス
このレコードは、単独のヒット曲で押すタイプではなく、曲ごとの質感の差と流れで聴かせる構成になっている。強いグルーヴを持つ曲のあとに、空間の広がりや音の隙間を意識したパートが来ることで、全体の立体感が出る。Materialの作品はしばしば、個々の演奏よりも「どう配置したか」に面白さが出るが、この一枚でもその傾向ははっきりしている。
聴き進めると、同じバンドの中に複数の顔があるように感じられる。ファンクの身体性、実験音楽の切断感、クラブ的な反復感が、曲ごとに少しずつ比率を変えながら並ぶ。80年代のUSインディーや、ニューヨーク周辺のアヴァンギャルドな空気と並べて見ても、かなり独自の立ち位置にある。
当時の文脈
1983年という時期は、ジャズの側から見ればフュージョン以後の再編、ファンクの側から見ればエレクトロやヒップホップ前夜の変化が進んでいた頃だ。Materialはその交差点にいて、ジャズ・ミュージシャンの即興性と、リズム・ミュージックの反復構造を同じテーブルに置いている。Herbie Hancockの『Future Shock』周辺や、Afrika Bambaataaの周辺作品を追うと、同時代の接続が見えやすい。
その意味で『For A Few Dollars More』は、単なる実験作というより、80年代のブラック・ミュージックがどこまで拡張できるかを試している記録に近い。日本盤としてCBS/Sonyから出ている点も含め、当時の日本市場がこうした先鋭的な海外音楽を比較的早く受け止めていたことがうかがえる。
まとめ
『For A Few Dollars More』は、Materialの初期を代表する一枚として、実験性とグルーヴの両方を押し出した作品だ。Bill Laswellを軸にした低音の設計、反復を活かした構成、電子音と生演奏の混線が、1983年という時代の空気とよく噛み合っている。Materialの後年の広がりを知るうえでも、まずこの段階の緊張感を確認しておくと流れがつかみやすい。
日本盤CBS/Sony 12AP 2757は、その時代の国内流通盤としての存在感もある。80年代前半の実験的なファンク、エレクトロ、ポスト・ジャズの交差点に置くと、この作品の輪郭が見えやすい。
トラックリスト
- A For A Few Dollars More (Special Long Version) 7:27
- B For A Few Dollars More 3:50