Vinyl Record Reviews
Roger Enoは、アンビエント系の作曲家として知られるイギリスの音楽家だ。兄のBrian Enoとの共作や、Michael Brook、Daniel Lanoisとの仕事を通じて名前が広く知られるようになったが、実際にはその活動はかなり幅広い。マルチ・インストゥルメンタリストとして、ソロ作品、映像音楽、コラボレーションの各分野で作品を残している。
Roger Enoのキャリアを語るうえで外せないのが、Brian Enoとの共作だ。1983年の『Apollo: Atmospheres And Soundtracks』は、月面着陸を題材にしたドキュメンタリー映画のために制作された作品で、Brian、Roger、Daniel Lanoisによる共同作業から生まれた。収録曲「An Ending (Ascent)」は、その後も映画や映像作品でたびたび引用されている。
2019年には、この3人が36年ぶりに再集結し、『Apollo』を再解釈した新しい作品群を発表している。長い時間を経ても、この組み合わせが再び形になった点は注目される。
Roger Enoのソロ・デビュー作は1985年の『Voices』だ。Brian EnoのプロデュースでEGレコードから発表され、ドビュッシーやサティを思わせるシンプルなピアノ作品集として紹介されている。以後も、クラシカル・ピアノへの関心を軸にした室内楽的なアンビエント作品を継続して発表してきた。
彼の作品では、ピアノが前面に出ることが多い。電子音だけで構成されるタイプのアンビエントとは少し違い、鍵盤の音を中心にした作りが目立つ。電子音響と室内楽の間を行き来するような作風で、ジャンル分けが単純ではない点もRoger Enoらしさとして挙げられる。
Roger Enoは映画やテレビの音楽も手がけている。代表的な例としては、『Dune』『Nine And A Half Weeks』『Warm Summer Rain』などがある。こうした仕事からも、彼がアンビエントの枠だけでなく、映像に合わせた音作りにも関わってきたことがわかる。
ソロ以外では、Channel Light Vesselでの活動も知られている。このグループはKate St. John、Bill Nelson、Laraajiらを含むアンビエント系のプロジェクトで、Roger Enoはここでもピアノを担当した。参加メンバーを見ると、当時の周辺シーンとのつながりも見えてくる。
Roger Enoは、Michael Brook、John Cale、Lol Hammondなど、さまざまなミュージシャンと共演している。こうした組み合わせを見ると、アンビエント専業というより、複数の文脈で仕事をしてきた音楽家として捉えたほうが近い。
Roger Enoは、アンビエント作曲家として紹介されることが多い一方で、ピアノ作品、映像音楽、共同制作のどれを見ても、単純に一つのジャンルに収まるタイプではない。ソロ作品の積み重ねと、『Apollo』のような重要作の両方があることで、今もアンビエント周辺の重要な音楽家として参照され続けている。