Roger Eno - Voices (1985)
Roger Eno 1985

Roger Eno - Voices (1985)

Electronic Ambient

Roger Eno『Voices』について

『Voices』は、1985年に発表されたロジャー・イーノのソロ・デビュー作である。ブライアン・イーノの実弟として知られる彼が、作曲家・ピアニストとしての輪郭を最初に大きく示した作品として位置づけられている。レーベルはEditions EG、アメリカ盤として出ているが、作品そのものは同年に登場したオリジナル・アルバムで、のちの再発ではなく初出時の姿にあたる。

ロジャー・イーノは、アンビエントの文脈で語られることが多い音楽家だが、このアルバムでは単なる環境音楽の枠に収まりきらない。中心にあるのはピアノで、そこに残響や電子処理が重なり、音が前に出たり引いたりしながら進んでいく。タイトルの『Voices』も、実際の歌声を前面に出すというより、複数の音の層が呼応するような構成を思わせる。

作品の性格と時代背景

1980年代半ばのアンビエント作品というと、シンセサイザーの広がりやスタジオ処理の精密さが印象に残ることが多いが、『Voices』はその中でもピアノの触感がはっきりしている。エリック・サティやドビュッシーを連想させるという評価があるのも、旋律の置き方や和声の運びに、フランス印象派的な感覚が見えるためだろう。とはいえ、単に古典的なピアノ小品というより、音の余白を含めて成立しているところにこの作品らしさがある。

共同プロデュースにはブライアン・イーノとダニエル・ラノワが参加している。ロジャーのピアノに、電子的な残響処理が施されることで、音が空間の中でゆっくり広がっていく。演奏そのものは繊細だが、仕上がりは室内楽のようでもあり、アンビエントの文脈にもきれいに接続する。Editions EGらしい、音響設計を重視した作りとも言える。

ロジャー・イーノにとっての位置づけ

このアルバムは、ロジャー・イーノがソロ作家として本格的に表に出た最初期の仕事であり、その後の活動を見ても重要な起点になっている。彼は映画やテレビの音楽でも知られるが、その仕事につながる「旋律を過度に主張させず、場の空気を作る」感覚が、この時点ですでに明確である。ブライアン・イーノとの協作で知られる人物ではあるものの、ここでは弟というより、独自の書法を持つ作曲家として聴こえる。

同時代のアンビエント作品と比べると、ロジャーの音は温度が低すぎず、機械的にも寄りすぎない。ピアノの打鍵が残るぶん、人の手の気配が前に出る。そこに電子処理が重なるため、冷たさよりも静かな持続感が印象に残る。後年のソロ作や、Channel Light Vesselのようなプロジェクトで見せる方向性を考えると、『Voices』はその基礎がすでに固まっている作品と受け取れる。

聴きどころ

この作品でまず目を引くのは、ピアノが音数の少ないまま進む場面でも、空白が間延びして聞こえにくい点である。旋律が短く区切られ、和音の余韻が次の音へつながっていくため、静かな曲でも流れが止まりにくい。音が消えたあとに残る響きまで含めて構成されている印象がある。

また、電子処理の役割も大きい。ピアノをただ包み込むのではなく、輪郭を少しだけずらすように残響がかかるので、近くで鳴っているのに遠くにも聞こえる、という距離感が生まれる。こうした処理は派手ではないが、アルバム全体の統一感を支える要素になっている。

盤としての情報

このUS盤では、ラベルに「MADE IN U.S.A.」の表記があり、ジャケット印刷はカナダとなっている。バーコードは付いていない。クレジットには、Jonah Arkwright と Walter Green への特別な謝辞も記されている。1985年のEG作品らしい、簡潔で実用的なパッケージングである。

『Voices』は、派手な展開や明確なフックで押すアルバムではないが、ロジャー・イーノの音楽がどこから始まったかを示す記録として見どころが多い。ピアノ、残響、静かな推進力。その3つが、1985年の時点でかなり丁寧に組み合わされている作品である。

トラックリスト

  1. A1 Through The Blue 4:19
  2. A2 A Paler Sky 3:21
  3. A3 Evening Tango 3:08
  4. A4 Recalling Winter 3:23
  5. A5 Voices 2:20
  6. A6 The Old Dance 3:57
  7. B1 Reflections On I.K.B. 3:42
  8. B2 A Place In The Wilderness 3:43
  9. B3 The Day After 3:45
  10. B4 At The Water's Edge 2:40
  11. B5 Grey Promenade 4:30

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