Vinyl Record Reviews
Saint Tropezは、1970年代のディスコ・シーンで活動したプロジェクト名義のグループだ。中心にいたのはアメリカのプロデューサー、Laurin RinderとW. Michael Lewisで、彼らが編曲、演奏、プロデュースまでまとめて担った。名義上は女性グループとして扱われているが、実態はスタジオ・プロジェクトに近い。
RinderとLewisは1960年代末にロサンゼルスで出会い、当初はロック・バンドJoshuaで共演していた。その後、1973年にAVIレーベルからR&Bのリミックス制作を依頼されたことをきっかけに、ディスコ制作へ軸足を移していく。1975年には架空のグループ名義El Cocoでアルバム『Caravan』を発表し、その後も『Mondo Disco』『Cocomotion』などを制作した。
二人はEl Cocoのほか、Tuxedo JunctionやLe Pamplemousseといった別名義でも作品を出している。RinLew Productions名義ではテレビ番組や映画の音楽も多数手がけ、制作数はかなり多い。Saint Tropezも、その流れの中で生まれたプロジェクトの一つだ。
Saint Tropezの初期作は、1977年の『Je T'aime』と1978年の『Belle de Jour』だ。どちらもディスコ作品として成功を収め、シンフォニックなオーケストレーションと、隙の少ないディスコのリズムが組み合わされている。演奏は主にRinderとLewisの二人が担当し、セッション・シンガーたちが参加した。
『Je T'aime』では、セルジュ・ゲンズブールの「Je t'aime... moi non plus」をディスコ化した楽曲が目立つ。ほかにもVan McCoyやGregg Diamondの楽曲を取り上げている。続く『Belle de Jour』では、「One More Minute」「Fill My Life With Love」が12インチ・シングルとしてヒットし、Gloria Gaynorの「Most Of All」もカバーしている。
その後、4年ほどの空白を経て、1982年に『Hot and Nasty』でSaint Tropez名義が復活する。この作品ではMona Lisa Young、Phyllis Rhoades、Lyndy Whiteの編成で、初期2作よりもR&Bやダンス寄りの方向に寄せつつ、オーケストラの厚みは保たれている。「The Love Stealers」はPeaches & Herbのヒット曲のカバーだ。
Saint Tropezの特徴は、ディスコのリズムに加えて、ストリングスやホーンを前面に出した編曲にある。シンプルなバンド演奏というより、スタジオで作り込まれた音像が中心だ。特に初期2作は、ダンス・トラックとしての機能と、映画音楽のような構成感が同居している。
また、フランス語の要素が作品全体に組み込まれている点も見逃せない。『Je T'aime』から始まる3作のアルバムには、Nicoleという人物を軸にした連続ストーリーがあり、フレンチ・ノワール風の音声パートが挿入されている。『Je T'aime』では「Violation」、『Belle de Jour』ではタイトル曲と「When You Are Gone」、『Hot and Nasty』では「Femmes Fatales」がその流れを受けている。
Saint Tropezは、70年代ディスコに多かった「プロデューサー主導の架空グループ」の代表例として見られている。実際のバンド活動よりも、制作者の発想とスタジオ作業が前面に出たプロジェクトだ。そうした制作手法は、El CocoやLe Pamplemousseなど、RinderとLewisの他名義作品とも共通している。
一方で、単なる一回限りの企画ではなく、3枚のアルバムを通して連続した物語を残した点が面白い。最終的には4作目は出ず、「Morning Music」とそのB面「The Chase」が物語の続きとして扱われ、Saint Tropezのシリーズはそこで終わっている。
クレジットにはMona Lisa Young、Marilyn Jackson、Carmen Twillie、Lisa Roberts、Myrna Matthews、Venette Gloud、Lyndie White、Phyllis Rhodes、Pam Feenerなど、複数のシンガーの名前が並ぶ。こうした人員構成も、固定バンドというよりスタジオ・プロジェクトらしい動き方を示している。
Saint Tropezは、ディスコの中でもプロデューサー主導の制作、豪華な編曲、そしてアルバムをまたぐ物語性を組み合わせたユニットとして覚えておきたい存在だ。初期の2作と1982年の復活作を並べて聴くと、RinderとLewisの制作スタイルの一貫性も見えてくる。