Vinyl Record Reviews
The Orbは、1988年にAlex PatersonとJimmy Cautyを中心に始まったイギリスの電子音楽グループだ。アンビエント、ダブ、サウンドスケープ、SF的な感覚を土台に活動を続けてきた。初期の仕事から、後に「アンビエント・ハウス」と呼ばれる流れを形づくったグループの一つとして扱われている。
結成当初のThe Orbは、アンビエント・ミュージックとダブへの関心から出発している。グループの中心にいるのは一貫してAlex Patersonで、長い活動の中でメンバー構成は何度も変わってきた。Thomas Fehlmannのほか、YouthことMartin Gloverは正式メンバーではない扱いながら、長く重要な役割を担ってきた。レーベルWAU! Mr. Modo RecordingsをAlexと共同で運営していたことも、グループの周辺史として押さえておきたい点だ。
現在までに名前が挙がるメンバーは多く、The Orbが固定メンバーのバンドというより、制作やライブの形に応じて人が入れ替わりながら続いてきたユニットに近いことがわかる。長期活動の中で、Thomas Fehlmann、Andy Hughes、Youth、Kris Weston周辺の関与が特に知られている。
The Orbの音楽は、Electronicを軸に、Downtempo、Ambient、Dub、Houseの要素を重ねたものとして整理されることが多い。ビートを前に出す曲もある一方で、長い音の展開や環境音のようなサンプル、反復するフレーズを使って、曲の輪郭をゆっくり組み立てる作りが目立つ。
ダブ由来の低音処理や残響の使い方、アンビエント寄りの長尺構成、ハウスのリズム感が同じ曲の中で混ざることが多い。クラブ向けの機能だけに寄らず、ヘッドフォンで細部を追う聴き方にも向いているタイプの作品が多い印象だ。
ウェブ上でよく触れられるのが、「Little Fluffy Clouds」と「Blue Room」だ。
「Little Fluffy Clouds」では、Rickie Lee Jonesのインタビュー音声がサンプルとして使われた。話し言葉の素材だったため事前の権利処理は行われていたが、Jones本人は自分の声が音楽作品に使われたことに不快感を示し、後にレーベル側と示談で和解している。この件は、The Orbがサンプルを積極的に使うグループだという点を強く印象づけた。
1992年の「Blue Room」は、フルバージョンが39分58秒あることで知られる。イギリスのシングルチャート規定が、当時の最長再生時間の基準を25分から40分に拡大したことで、チャートインが可能になった。結果としてトップ40入りし、全英シングルチャート史上最長の楽曲として記録された。
この曲がチャートインした際、Alex PatersonとKris WestonはBBCの音楽番組『Top of the Pops』に出演し、演奏の代わりにチェスに似たボードゲームを指し続けるパフォーマンスを見せた。このあたりも、The Orbの振る舞いが普通のダンス・ミュージックの枠に収まりにくいことを示している。
The Orbは、アンビエント・ハウスの初期から動いてきたグループとして、長尺の構成、サンプルの使い方、ダブの処理を電子音楽の文脈に持ち込んできた。クラブとリスニングの中間にあるような音作りを続けてきた点が、後続の電子音楽にも影響を与えている。
活動期間が長く、メンバーの入れ替わりも多いので、作品ごとに雰囲気が変わるのもThe Orbの特徴だ。初期の実験性、チャートに残る楽曲の話題性、そしてライブやメディア露出で見せるひねりのある態度まで含めて、UK電子音楽史の中で独特の位置を占めている。