Vinyl Record Reviews
Tracie Youngは、1965年3月25日に英ダービーで生まれたポップ・シンガーだ。ジャンル表記ではElectronic、スタイルとしてはSynth-popが挙がっている。1980年代前半の英国ポップ・シーンで活動し、ソロ・アーティストとしてだけでなく、ポール・ウェラー周辺の作品にも参加している。
17歳の頃、ザ・ジャムのフロントマンだったポール・ウェラーが、レーベルRespond Recordsのために音楽誌『Smash Hits』へ出したデモテープ募集広告をきっかけに見出された。オーディションではソウルのスタンダード曲「Band of Gold」「Reach Out (I'll Be There)」を歌い、ウェラーに強い印象を残したとされる。その後、Respond Recordsの重要な契約アーティストとして活動することになった。
Tracie Youngは、ザ・ジャム最後のシングルで全英1位を記録した「Beat Surrender」(1982年)でバックコーラスを担当している。さらに、ウェラーの次のプロジェクトであるザ・スタイル・カウンシルの「Speak Like a Child」「Boy Who Cried Wolf」にも参加した。こうした経歴から、1980年代初頭のウェラー周辺の制作に深く関わっていたことがわかる。
1982年から1984年にかけては、ソロ・アーティストとしてもチャート上で存在感を示した。1984年のデビュー・アルバム『Far from the Hurting Kind』は全英アルバムチャート64位を記録している。収録曲は、若さゆえのロマンスや感情の揺れを扱ったものが多く、モッズ・リヴァイヴァルの空気感を持つポップ・センスが反映されている。
音楽的には、シンセを使った80年代英国ポップの流れの中に置かれることが多い。ソウルのスタンダード曲を歌って評価された経歴もあり、ポップとソウルの両方の要素が活動の入口にあった点が特徴的だ。
1986年にRespond Recordsが活動を停止した後は、一時ポリドールと契約した。ここで録音された2ndアルバム『No Smoke Without Fire』は当時はリリースされず、2014年になってCherry Red Recordsから発表された。デビュー作の後も音源が残されていたことが、後年の再評価につながっている。
1990年代にはラジオ番組の司会者として活動の場を移した。2009年にはCherry Red Recordsとの契約により、『Far from the Hurting Kind』の再発と未発表作の正式リリースが実現している。アーティストとしての初期作品が、時間を置いてまとまった形で聴けるようになった流れだ。