Captain Beefheart & His Magic Band - Trout Mask Replica (1969)
Captain Beefheart & His Magic Band / Trout Mask Replica (1969)
1969年のCaptain Beefheart & His Magic BandによるTrout Mask Replicaは、キャプテン・ビーフハートことドン・ヴァン・ヴリートの名を決定的に広く知らしめた2枚組アルバムである。Straightレーベルから出たオリジナルUS盤で、Frank ZappaとHerb Cohenが立ち上げた新レーベルの初期カタログのひとつでもある。ブルース、ロック、前衛性、ジャズ的な崩し方が同居した内容で、1960年代末のロック作品の中でもかなり特異な位置に置かれてきた盤だ。
この作品は、Captain Beefheartのアルバム群の中でも、とくに代表作として扱われることが多い。前作までの荒々しいR&B感覚を残しつつ、ここでは曲の構造や演奏の組み立てがさらに細かく折りたたまれていて、聴き手はリズムの着地点やフレーズの重なりを追うだけでもかなり忙しい。とはいえ、ただ難解というだけではなく、声の置き方、ギターやサックスの入り方、急に表情を変えるアンサンブルに、強い手触りがある。
作品の位置づけ
Captain Beefheartは、のちに画家としても活動したドン・ヴァン・ヴリートの音楽名義で、Magic Bandを率いていくつもの公式アルバムを残した。その中でもTrout Mask Replicaは、単なる実験作ではなく、彼の美学がもっとも極端な形で結晶した作品として語られやすい。制作面では、長いリハーサルを経て曲を身体に入れ、録音ではその緊張感をそのまま封じ込めたような仕上がりになっている。
同時代の文脈で見ると、サイケデリック・ロックやブルース・ロックの流れの中にありながら、Frank Zappa周辺の前衛的な感覚とも近い場所にいる。もっとも、Zappaの作品が構成の精密さや皮肉の強さで聴こえることが多いのに対して、この盤は演奏のよじれ方や言葉の置き方そのものが前面に出てくる。Velvet Undergroundやフリージャズ的な自由さと比較されることもあるが、実際にはそのどれとも少し違う、かなり固有の音像だ。
制作と録音の背景
録音はロサンゼルス周辺で行われ、Magic Bandの家やWhitney Studios、さらに一部はSunset Soundでも記録された。レコードのマスターには、C面とD面のランアウトに小文字の「o」が刻まれており、これはマスタリングに関わった人物の痕跡として確認できる。オリジナルUS盤はゲートフォールド仕様で、6ページの折り込みインサート付き。インサートには、学校時代のVlietの写真や、Victor Haydenによるスケッチ、そして“Manta Ray”の詩、歌詞が収められている。
盤面やジャケットにもいくつか特徴がある。US初版はピンクのレーベルで、rim textに5455 Wilshire Blvd.の住所表記が入る。オートカップリング仕様で、レコード1が1面と4面、レコード2が2面と3面という順番。これは自動チェンジャーでの連続再生を意識した組み方で、当時のLP文化をそのまま反映している。なお、ヨーロッパ盤ではインサートが省かれた版もあり、UKやドイツ盤ではジャケットのロゴ色や流通形態に違いがある。
注目曲: 「Moonlight on Vermont」
本盤の中でも耳に残りやすい曲のひとつが「Moonlight on Vermont」だ。スライド感のあるブルースの骨格を持ちながら、演奏はまっすぐ進まず、細かく折れ曲がっていく。タイトル表記も、スリーブでは“Moonlight On Vermont”、レーベルでは“Moonlight In Vermont”となっており、細部の揺れもこの作品らしい。完全に整ったロック・ナンバーというより、ブルースの型を別の角度から組み替えたような感触で、ビーフハートの歌い回しがそのずれをさらに強めている。
この曲では、リズムの押し引きがかなり重要だ。ビートを単純に刻むのではなく、フレーズが前に出たり引いたりするため、聴いている側は自然に足で拍を取るより、音の重なりを追うことになる。アルバム全体の中でも、比較的曲の輪郭がつかみやすい一方で、普通のブルースとしては終わらない、その中間の居心地の悪さが面白いところだ。
注目曲: 「Veteran's Day Poppy」
「Veteran's Day Poppy」も重要な1曲だ。こちらは、作品全体の中でより素朴なブルースの匂いを残しつつ、演奏の組み立てがやはり一筋縄ではいかない。ベースには、前段階で録られた素材が使われていることが知られていて、録音環境の断片がそのままアルバムの一部になっている。結果として、スタジオで統一的に作られたというより、複数の時間が重なったような感触がある。
この曲を聴くと、Captain Beefheartの音楽が単なる奇抜さではなく、ブルースを土台にした再構成であることが見えやすい。歌と伴奏がきれいに噛み合う瞬間もあるが、すぐに別の方向へずれる。そのずれが、この盤の聴きどころでもある。完成されたロックの快感とは別の場所に、緊張の持続そのものを置いた曲と言える。
注目曲: 「The Blimp」
「The Blimp」は制作エピソードでもよく知られる。もともとCottonがZappaに電話越しで語った内容がもとになっており、その素材が別の録音と結びついてトラック化された。音楽としては、アルバムの中でもかなり異質で、断片的な言葉と音の層が前に出る。歌というより、音響的なコラージュに近い聴こえ方をする部分がある。
この曲が面白いのは、アルバムの中で“外側”にあるようでいて、実は全体の性格をよく示しているところだ。Captain Beefheartの作品では、言葉が意味を運ぶだけでなく、発音や間の取り方そのものが音になる。その感覚が「The Blimp」ではかなりはっきり表れている。
聴きどころと印象
実際に聴くと、まず演奏の揃い方が普通のロック盤とは違う。各パートが完全に同じ方向へ走るのではなく、少しずつ別のリズム感を保ちながら重なっていく。そのため、最初はつかみづらいが、曲が進むほどに断片同士の接続が見えてくる。熱量は高いのに、熱狂へ一直線ではない。その距離感がこの盤の特徴だろう。
また、歌の存在感も強い。ビーフハートの声は、メロディーをなぞるというより、言葉の切れ目や音節の置き方で曲の形を変えていく。結果として、演奏の複雑さが単なる技巧に見えず、かなり身体的な圧を持って届いてくる。ロック、ジャズ、ブルースの境界をまたぎながら、どれにも完全には回収されない作品として、1969年の時点でかなり先に行っていた盤である。
まとめ
Trout Mask Replicaは、Captain Beefheart & His Magic Bandの中でも特に重要な位置を占める1969年の2枚組で、Straightレーベル初期を代表するタイトルでもある。発売当初から聴きやすさで評価されたタイプではないが、その後の批評史の中で、前衛ロック、アート・ロック、ジャズ・ロック、ブルース・ロックの交差点に立つ作品として定着していった。オリジナルUS盤のインサートやオートカップリング仕様まで含めて、作品全体が当時の制作環境と強く結びついた一枚だ。
トラックリスト
- A1 Frownland 1:39
- A2 The Dust Blows Forward 'N The Dust Blows Back 2:04
- A3 Dachau Blues 2:21
- A4 Ella Guru 2:23
- A5 Hair Pie: Bake 1 4:57
- A6 Moonlight On Vermont 3:55
- B1 Pachuco Cadaver 4:37
- B2 Bills Corpse 1:47
- B3 Sweet Sweet Bulbs 2:17
- B4 Neon Meate Dream Of A Octafish 2:25
- B5 China Pig 3:56
- B6 My Human Gets Me Blues 2:42
- B7 Dali's Car 1:25
- C1 Hair Pie: Bake 2 2:23
- C2 Pena 2:31
- C3 Well 2:05
- C4 When Big Joan Sets Up 5:19
- C5 Fallin' Ditch 2:03
- C6 Sugar 'N Spikes 2:29
- C7 Ant Man Bee 3:55
- D1 Orange Claw Hammer 3:35
- D2 Wild Life 3:07
- D3 She's Too Much For My Mirror 1:42
- D4 Hobo Chang Ba 2:01
- D5 The Blimp (Mousetrapreplica) 2:04
- D6 Steal Softly Thru Snow 2:13
- D7 Old Fart At Play 1:54
- D8 Veteran's Day Poppy 4:30
動画
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Captain Beefheart - Frownland
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Captain Beefheart - The Dust Blows Forward 'N' The Dust Blows Back
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Captain Beefheart - Dachau Blues
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Captain Beefheart - Ella Guru
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Captain Beefheart - Hair Pie - Bake One
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Captain Beefheart - Moonlight On Vermont
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Captain Beefheart - Pachuco Cadaver
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Captain Beefheart - Bill's Corpse
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Captain Beefheart - Sweet Sweet Bulbs
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Captain Beefheart - Neon Meate Dream of a Octafish
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Captain Beefheart - China Pig
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Captain Beefheart - My Human Gets Me Blues
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Captain Beefheart - Dali's Car
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Captain Beefheart - Hair Pie - Bake Two
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Captain Beefheart - Pena
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Captain Beefheart - Well
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Captain Beefheart - When Big Joan Sets Up
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Captain Beefheart - Fallin' Ditch
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Captain Beefheart - Sugar N' Spikes
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Captain Beefheart - Ant Man Bee
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Captain Beefheart - Orange Claw Hammer
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Captain Beefheart - Wild Life
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Captain Beefheart - She's Too Much For My Mirror
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Captain Beefheart - Hobo Chang Ba
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Captain Beefheart - The Blimp (mousetrapreplica)
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Captain Beefheart - Steal Softly Thru Snow
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Captain Beefheart - Old Fart at Play
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Captain Beefheart - Veteran's Day Poppy