Dagmar Krause - Angebot & Nachfrage (Lieder Von Brecht / Weill & Eisler) (1986)
Dagmar Krause 1986

Dagmar Krause - Angebot & Nachfrage (Lieder Von Brecht / Weill & Eisler) (1986)

Electronic Pop Non-Music Modern Classical Ballad Chanson Political

Dagmar Krause『Angebot & Nachfrage (Lieder Von Brecht / Weill & Eisler)』について

Dagmar Krauseの『Angebot & Nachfrage (Lieder Von Brecht / Weill & Eisler)』は、1986年にドイツでリリースされた作品で、同年の英語版『Supply and Demand』に対応するドイツ語版として位置づけられるアルバムだ。ブレヒトの詞にクルト・ヴァイル、ハンス・アイスラーが曲を付けた楽曲を中心に、Krauseがドイツ語で歌っている。タイトル通り、ここでは言葉の輪郭と歌の運びがかなり重要で、歌詞の意味がそのまま前面に出る作りになっている。

作品の輪郭

Dagmar Krauseは1949年生まれのドイツ出身のシンガーで、アヴァンギャルドな活動で知られる人物だ。本作は、そうした経歴の中でもかなり明確にブレヒト/ヴァイル/アイスラーの系譜へ踏み込んだ一枚といえる。単なるカバー集ではなく、政治性の強いテキストと、それに結びついた室内楽的な伴奏を、Krauseの声で再構成した録音という印象が強い。

英語版の『Supply and Demand』がHannibalから1986年に出ており、このドイツ語版も同年の作品として並行して登場した。ドイツ盤では、ジャケットやクレジット、インサートまでドイツ語で統一されていて、歌詞はドイツ語と英語の両方が添えられている。盤面の表記はドイツ盤らしい作りだが、レーベル表記には「Made in France」とあり、製造工程の違いも見える。

ブレヒト、ヴァイル、アイスラーの文脈

このアルバムの核にあるのは、ブレヒトの詩と、ヴァイル/アイスラーの音楽だ。いずれも20世紀ドイツの演劇、政治、歌の関係を考えるうえで重要な名前で、Krauseはその素材を、いわゆる懐古的な再演ではなく、かなり現在形の感覚で扱っているように聞こえる。とくにブレヒトの言葉は、物語を歌い上げるというより、社会の歪みや人間関係の力学をそのまま突きつける面があり、Krauseの硬質な声質と相性がいい。

制作はJoe Boydが担当し、録音はLivingston StudiosとWest 3 Studiosで行われた。参加ミュージシャンにはRichard Thompson、Danny Thompson、John Harleらの名前があり、フォーク、室内楽、シャンソン、アヴァンギャルドの境目をまたぐ伴奏が支えている。こうした布陣を見るだけでも、単なる歌唱アルバムではなく、編曲と演奏の設計まで含めて練られた作品であることがわかる。

聴きどころとして見えてくるもの

実際に聴くと、Krauseの歌い方は感情を大きく振るというより、言葉の切れ目や子音の置き方で曲の輪郭を立てていくタイプだ。メロディをなめらかに流すより、語りと歌の境界を行き来する場面が多く、ブレヒト歌曲の持つ演劇性が前面に出る。派手なヒット曲を並べたアルバムではないが、代表的な楽曲としては「Surabaya Johnny」のような曲がよく言及される。こうした曲では、旋律の強さよりも、人物像や感情のねじれがはっきり残る。

AllMusicでは英語版が好意的に受け止められており、1986年当時の紹介でも、批評の対象として高く見られていた。商業的なヒット作というより、ブレヒトの辛辣な社会・政治詩を、音楽としてどう再提示するかという点で評価された作品だと言える。チャート面で大きな実績が見えるタイプではなく、批評性の強い録音として位置づけるほうが自然だ。

Dagmar Krauseにとっての位置づけ

この作品は、Krauseが突然ブレヒトに向かったアルバムではなく、長く続いていた関心の延長にある。1978年にはロンドンで『マハゴニー』の舞台に出演し、1985年にはハル・ウィルナー制作のWeillトリビュート盤で「Surabaya Johnny」を歌っていた。そうした流れを踏まえると、『Angebot & Nachfrage』は彼女のブレヒト/ヴァイル解釈を一つのかたちにまとめた作品として見えてくる。

同時代の文脈でいえば、ブレヒト歌曲をロックや前衛の側から読み替える動きは珍しくないが、Krauseの場合はその中でも、歌詞の意味を曖昧にせず、むしろ正面から置いていく姿勢が際立っている。だからこそ、ポップスの延長というより、モダン・クラシカルやシャンソン、政治歌の感覚が重なった記録として受け止められているのだと思う。

1986年のこのドイツ語版は、英語版と並んで、Dagmar Krauseという歌い手がどの方向へ向いていたかを示す重要な一枚だ。ブレヒト、ヴァイル、アイスラーという名前を、歴史的な資料としてではなく、1980年代の録音として再び鳴らした作品。その意味で、かなり筋の通ったアルバムだと感じる。

トラックリスト

  1. A1 Angebot & Nachfrage (Song Von Der Ware) 2:57
  2. A2 Grabrede 1919 1:59
  3. A3 Deutsche Miserere 1:39
  4. A4 O Falladah, Die Du Hangest! 2:41
  5. A5 Alabama-Song 2:51
  6. A6 Hollywood-Elegien 2:55
  7. A7 Surabaya Johnny 3:59
  8. A8 Moritat (Ballade Von Mackie Messer) 2:39
  9. B1 Matrosen-Tango 3:57
  10. B2 Die Ballade Von Der Höllenlili 2:25
  11. B3 Das Lied Von Der Moldau 1:40
  12. B4 Im Gefängnis Zu Singen 3:00
  13. B5 Ostersonntag 1935 1:24
  14. B6 Zu Potsdam Unter Den Eichen 2:22
  15. B7 Der Song Von Mandelay 2:12
  16. B8 Benares Song 3:52

動画プレイリスト

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