Fatboy Slim - You've Come A Long Way, Baby (1998)
Fatboy Slim『You've Come A Long Way, Baby』(1998)
Fatboy SlimことNorman Cookが1998年に発表した『You've Come A Long Way, Baby』は、90年代後半のブリット・ビッグビートを代表するアルバムとしてよく知られている一枚だ。レーベルはSkint、UK盤はBRASSIC 11LP。ブライトンの自宅スタジオ「The House Of Love」で制作され、ローファイな環境を逆に武器にした作品でもある。Akai S900とAtari ST、C-Lab Creatorを使い、サンプルを細かく記録・操作しながら組み立てたという制作手法が、このアルバムの手触りをそのまま決めている。
当時のFatboy Slimは、すでにソロ名義での流れを固めていた時期だが、このアルバムで一気に大きな存在になった。前作『Better Living Through Chemistry』でクラブ寄りの感覚を示しつつ、本作では一般のリスナーにも届くフックの強さが前面に出る。UKアルバムチャートで1位を獲得し、全世界で約500万枚を売り上げたという事実が、この作品の広がりをそのまま示している。
サンプリングの組み立てが中心にある作品
このアルバムの核は、サンプルの切り貼りを前提にした構成にある。Direct Metal Masteringでカッティングされ、Gatefold sleeve仕様のUK盤は、音の密度とパッケージの存在感が両方そろっている。収録曲ごとに元ネタが明示されているのも、この作品の性格をよく表している。
- 「The Rockafeller Skank」: Just Brothersの「Sliced Tomatoes」、さらにJohn Barry Sevenの「Beat Girl」の要素を使用
- 「Gangster Tripping」: DJ Shadowの「Entropy」、The Dust Junkysの「Beatbox Wash」を使用
- 「Build It Up, Tear It Down」: The Purple Foxのサンプルを使用
- 「Soul Surfing」: The Olympicsの「I'll Do A Little Bit More」を使用
- 「Praise You」: Camille Yarboroughの「Take Yo Praise」を使用
こうした素材の扱い方は、同時代のサンプリング文化、たとえばThe Chemical BrothersやPropellerheads、DJ Shadow周辺の文脈ともつながる。ただしFatboy Slimは、暗さや実験性だけに寄らず、反復の気持ちよさと即効性のある展開を強く押し出している。ビッグビートという枠の中でも、かなり分かりやすく身体に入ってくる作りだ。
代表曲「Praise You」と「The Rockafeller Skank」
この盤を語るうえで外せないのが「The Rockafeller Skank」と「Praise You」だ。前者は冒頭からサンプルのループが強く、DJセットの中でもひときわ目立つ推進力を持つ。後者は、ゆるいビートの上に短いフレーズを積み重ねていく構成で、アルバムの中でも特に曲としての輪郭がはっきりしている。
「Praise You」のミュージックビデオも有名だ。Spike JonzeとRoman Coppolaが監督し、ロサンゼルスの映画館前でゲリラ的に撮影された映像は、素人ダンスチームを名乗る演出と合わせて強い印象を残した。制作費がごく少額だったことでも知られていて、後年のフラッシュモブ文化を先取りしたような空気がある。音だけでなく映像面でも、この曲はFatboy Slimの代表作として定着した。
アルバムとしての位置づけ
『You've Come A Long Way, Baby』は、Fatboy Slimのキャリアの中で決定的な転機になった作品だ。ここで彼は、クラブの現場に根ざしたビートメイカーであると同時に、ポップ・チャートの中心にも届くプロデューサーとして認識されるようになった。翌1999年のBrit AwardでBest Dance Actを受賞した流れも、このアルバムの成功と直結している。
後の『Halfway Between the Gutter and the Stars』や『Palookaville』に比べると、本作はサンプルの切り返しとループの勢いがより前面に出ている。制作環境は簡素でも、完成した音は大きく、当時のダンス・ミュージックが持っていた勢いをそのまま閉じ込めたような内容だ。ビッグビートの代表作として名前が挙がるのも自然な流れで、90年代末のUKエレクトロニック・ミュージックを語るときの基準点のひとつになっている。
ブライトンの自宅スタジオから、サンプルと反復だけでここまで大きなスケールを作り上げたこと。その事実が、このアルバムを今も印象づけている。
トラックリスト
- A1 Right Here, Right Now
- A2 The Rockafeller Skank
- A3 Fucking In Heaven
- B1 Gangster Tripping
- B2 Build It Up - Tear It Down
- B3 Kalifornia
- C1 Soul Surfing
- C2 You're Not From Brighton
- C3 Praise You
- D1 Love Island
- D2 Acid 8000