Kendrick Lamar - To Pimp A Butterfly (2015)
Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』について
Kendrick Lamarの『To Pimp A Butterfly』は、2015年にUSのTop Dawg Entertainmentから出たアルバムで、同年のヒップホップの中でも特に大きな存在感を持つ作品だ。Kendrick Lamarは1987年生まれ、カリフォルニア州コンプトン出身のラッパーで、この時点ですでに高い評価を得ていたが、本作でその評価はさらに決定的になった。メジャー配給の流れの中にありながら、作品全体はTDEの名義で強くまとまり、Kendrick自身の視点と制作陣の細かな積み重ねが前面に出ている。
このアルバムの大きな特徴は、ヒップホップを土台にしながら、ジャズ、ファンク、ソウルの要素を強く取り込んでいる点にある。2012年から2015年にかけて複数のスタジオで断続的に制作され、カマシ・ワシントン、サンダーキャット、フライング・ロータス、ロバート・グラスパー、ドクター・ドレー、ファレル・ウィリアムズら、多彩な演奏者・プロデューサーが関わった。サンプリング中心の当時の主流とは少し違い、生演奏を重ねた構成が目立つ。実際に聴くと、ドラムの置き方やベースの動きがかなり細かく、ラップの隙間に楽器のフレーズが入り込んでくる感覚がある。音の密度が高いのに、各パートの輪郭は比較的はっきりしている。
収録曲と聴きどころ
オープニングの「Wesley’s Theory」は、アルバムの方向性を最初に示す曲だ。ジョージ・クリントンの楽曲を参照しながら組み立てられたことで知られ、派手なファンクの感触と、アルバム全体に流れる政治性や自己批評が同時に立ち上がる。「King Kunta」はその中でも特に知られた代表曲で、タイトルの強さ、反復の効いたフック、そして引用やサンプルの多さが印象に残る。James Brownの「The Payback」やMichael Jacksonの「Smooth Criminal」などの要素がクレジットされていて、過去のブラック・ミュージックの断片を現在形に組み替える作りになっている。
「Alright」は本作を語るうえで外せない1曲だ。曲としてはキャッチーだが、社会的な文脈の中で大きく広がった。抗議運動の現場で「We gon' be alright」が合言葉のように扱われ、ブラック・ライヴズ・マター運動の象徴的なアンセムとして受け止められた流れは、単なるヒット曲以上の役割を持っている。「How Much A Dollar Cost」や「The Blacker The Berry」では、自己認識や社会の矛盾をかなり直接的に扱っていて、アルバムの中でも言葉の重さが際立つ。「i」はシングル向きの明るさを持ちながら、内面の揺れを抱えた曲として機能している。
作品全体の位置づけ
『To Pimp A Butterfly』は、Kendrick Lamarのキャリアの中でも転機になった一枚として見られている。前作『good kid, m.A.A.d city』がコンプトンの物語性を強く打ち出した作品だったのに対し、本作は個人史を越えて、黒人音楽史やアメリカ社会の構造へ視野を広げている。Tupac Shakurのインタビュー音源を用いた「Mortal Man」の終盤も、その射程の広さを示す場面だ。ラップアルバムでありながら、会話、歴史、記憶、政治が同じテーブルに並ぶ構成になっている。
批評面でも高く評価され、Metacriticでは96点を記録した。第58回グラミー賞では最優秀ラップ・アルバム賞を含む5部門を受賞している。のちにKendrick Lamarが『DAMN.』でラッパーとして初めてピュリッツァー賞を受賞するが、その前提を作った作品として本作の重要性は大きい。2010年代のヒップホップが、メインストリームの成功と実験性をどう両立させたかを考えるうえでも、このアルバムは外せない。
盤の仕様について
このUS盤はゲートフォールド仕様で、内ジャケットでは「Momma」と「Hood Politics」の曲順表記が誤って入れ替わっている。製造地を示すステッカー付きの版と、ステッカーなしの版がある。レーベルはTop Dawg Entertainment、クレジット上ではAftermath / Interscope Recordsの表記も見られる。2015年当時の作品として、音の作り込みだけでなく、パッケージ面でも細部まで情報量の多いリリースだ。
ジャズ、ファンク、ソウルの要素を取り込みながら、ヒップホップの語り口を保ったまま大きく広げた一枚。Kendrick Lamarの代表作として扱われるのも、この音像とテーマの両方が強く結びついているからだろう。
トラックリスト
- A1 Wesley's Theory
- A2 For Free? (Interlude)
- A3 King Kunta
- A4 Institutionalized
- A5 These Walls
- B1 U
- B2 Alright
- B3 For Sale? (Interlude)
- B4 Momma
- C1 Hood Politics
- C2 How Much A Dollar Cost
- C3 Complexion (A Zulu Love)
- C4 The Blacker The Berry
- D1 You Ain't Gotta Lie (Momma Said)
- D2 I
- D3 Mortal Man