Peter Michael Hamel - Nada (1977)
Peter Michael Hamel『Nada』(1977) 概要
Peter Michael Hamelは、1947年にミュンヘンで生まれたドイツの作曲家・鍵盤奏者である。現代音楽、即興、東洋音楽への接近をまたぎながら活動してきた人物で、1970年代には自ら結成したグループBetweenの仕事と並行して、ソロ名義でも作品を発表している。『Nada』は1977年にドイツのWergoから出たアルバムで、Hamelのソロ作品の中でも、瞑想性と電子音響の感触が前面に出た一枚として知られている。
Wergoは1962年設立のドイツの前衛レーベルで、現代音楽や実験音楽の文脈に強いカタログを持つ。本作もその流れの中に置くと見えやすい。クラシカルな構成感を土台にしながら、電子オルガンやシンセサイザーを使って、反復と持続の感覚を組み立てていく内容である。
Hamelの立ち位置と『Nada』
Hamelは幼少期からピアノ、チェロ、ヴァイオリン、ホルンに親しみ、ミュンヘンで作曲を学んだ。1960年代後半にはミュンヘンのフリー・ミュージック・シーンに関わり、1970年にはBetweenを結成する。バンド名は「ポピュラー音楽とクラシック音楽のあいだ」を示す意図を含んでいたという。ここでの経験は、その後のソロ作にもそのままつながっている。
さらにHamelはインドへ赴き、インド古典音楽やチベット音楽を学んだ。そうした体験は、西洋の前衛的な書法に東洋的な時間感覚や反復の感覚を重ねる方向へ作用している。1976年には著書『Through Music to the Self』も出しており、音楽を通じた内面的な変化という考え方が、『Nada』の性格にも反映されている。
サウンドの特徴
本作ではHamel自身がピアノ、電子オルガン、シンセサイザーを担当し、冒頭曲ではプロデューサーのUlrich Krausもシンセサイザーで参加している。アルバム全体を通して、旋律を強く押し出すよりも、音型の反復、持続音、少しずつ変わる和声の動きが中心になる。Terry Riley的なミニマル・パターンの延長線を感じさせつつ、より電子的な質感が前に出ている点が印象的だ。
同時代のドイツの電子音楽と比べると、Klaus Schulzeのようなベルリン・スクールの流れに接近した作品として語られることがある。とはいえ、ここでは派手なシーケンスの推進力よりも、音の間合いと静かな緊張が重要になる。耳当たりのよさだけに寄らず、一定の張りつめた感じを保っているのがこの盤の核である。
収録曲の印象
表題曲「Nada」は、反復するシンセサイザーのフレーズが軸になる。音の数は多くないが、同じ素材が少しずつ姿を変えることで、時間の流れがゆっくりと前へ進む。アルバムの顔として、その後の展開を予告するような役割を担っている。
B面を丸ごと使う23分超の「Beyond The Wall Of Sleep」は、この作品の中心にある長編である。タイトルから受ける印象どおり、眠りや意識の境界をなぞるような構成で、静止しているようでいて、内部では細かな変化が続く。アンビエント的な響きがある一方で、単純な背景音にはならず、音の配置に注意が向くつくりになっている。
全体としては、1970年代後半の電子音楽、ミニマル・ミュージック、実験的なクラシカル作品の交点にある。ロック寄りのクラウトロックと現代音楽のあいだを行き来するHamelの位置が、そのまま記録されたようなアルバムである。
盤の情報
- アーティスト: Peter Michael Hamel
- タイトル: Nada
- オリジナルリリース年: 1977年
- リリース国: Germany
- レーベル: Wergo (SM 1013)
- 表記: SM 1013(ジャケット表面・ラベル)、WER SM 1013(裏ジャケット・背表紙)
- ジャンル/スタイル: Electronic, Classical / Krautrock, Contemporary, Ambient
まとめ
『Nada』は、Hamelの作曲家としての視点と、鍵盤奏者としての実演がきれいに重なった作品である。Betweenでの活動、インド音楽への関心、そして1970年代のドイツ前衛の空気が、ここでは長尺の瞑想的な電子音楽としてまとまっている。派手な展開よりも、持続する音の中で何が起きているかに目が向く一枚で、Hamelの音楽的な輪郭をつかむうえでも重要な位置にある。
トラックリスト
- A1 Nada 6:20
- A2 Silence 5:15
- A3 Slow Motion 5:00
- B Beyond The Wall Of Sleep 23:40