The Chemical Brothers - Dig Your Own Hole (1997)
The Chemical Brothers『Dig Your Own Hole』(1997)
The Chemical Brothersの2作目『Dig Your Own Hole』は、1997年のUKシーンを語るうえで外せない作品だ。Tom RowlandsとEd Simonsによるこのユニットは、マンチェスターの大学で出会った2人がDJ活動を経て形にしたプロジェクトで、90年代半ばにはすでにクラブ・シーンで存在感を強めていた。本作では、その勢いがアルバムという形で一気に広がっている。ビッグ・ビート、ブレイクビーツ、テクノの要素を土台にしながら、ロックの聴衆にも届くスケールへと押し広げた一枚という印象が強い。
UK盤はFreestyle Dustからのリリースで、同レーベルはVirgin傘下のサブレーベルとしてThe Chemical Brothers作品のために設けられたもの。ゲートフォールド仕様のジャケットに黒いカスタム内袋という作りも含めて、当時のアルバム作品としての存在感がはっきりしている。UKでプレスされた盤で、コピーによっては片面ポストカードが付属していたという点も、コレクター的には目に留まるところだ。
作品の立ち位置
『Dig Your Own Hole』は、The Chemical Brothersにとって初期キャリアの決定打になった作品として見られている。前作で示したクラブ寄りの感覚を保ちながら、曲の展開や音の密度をさらに大きくし、アルバム全体で聴かせる構成に踏み込んでいる。実際にこの作品はUKアルバム・チャートで初登場1位を記録し、Official Chartsでは1997年4月19日付から26週にわたってチャートインしている。先行シングル「Block Rockin’ Beats」も全英シングル1位を獲得しており、アルバムの勢いをそのまま作った形だ。
同時代の英国では、ダンス・ミュージックとロックの距離が少しずつ縮まっていた時期でもある。その中で本作は、クラブ由来の反復や低音を前面に出しつつ、サンプル、ノイズ、ギター的な押しの強さを同居させている。UnderworldやProdigyのように大型のオーディエンスへ届く電子音楽の流れと並べて語られることも多いが、The Chemical Brothersはよりサンプルの切り方や曲の組み立てに特徴がある。
「Block Rockin’ Beats」
アルバムを象徴する代表曲が「Block Rockin’ Beats」だ。重いキックと切り返しの鋭いリズム、短いフレーズを積み重ねていく構成が印象的で、タイトル通り“ブロック”単位で音を押してくるような強さがある。ここではJames Brown系のファンク感を直接なぞるのではなく、サンプルを断片として配置しながら、ビートそのものを前へ出している。
この曲が全英1位を取ったことは、The Chemical Brothersがクラブの内側だけで完結しない存在になったことを示している。ラジオや大型フェスの文脈でも通用する分かりやすさがありながら、細部ではかなりラフで攻撃的な作りでもある。その両方が同時に成立しているのが、このアルバムの重要なポイントだ。
「Setting Sun」
「Setting Sun」は、Noel Gallagherが参加したことでもよく知られる1曲だ。Oasisの中心人物が関わることで、ブリットポップの時代感とThe Chemical Brothersの打ち込みが接続されている。歌が前に出る場面もあるが、曲の主役はあくまでリズムと音の圧で、ロック的なメロディを電子音の塊の中に置いている感じがある。
この曲は、当時のUK音楽シーンで起きていたジャンル横断の流れを分かりやすく示している。ギター・バンドの側からも、クラブ・ミュージックの側からも参照されうる作りで、アルバム全体の入口としても機能している。The Chemical Brothersが単なるダンス・アクトではなく、90年代後半の英国ポップ全体の文脈で語られる理由がここにある。
「Elektrobank」
「Elektrobank」は、サンプルの使い方と展開の組み立てがよく見える曲だ。ボーカル・サンプルを軸にしながら、ビートの切り替えで曲の重心を少しずつ動かしていく。派手さだけで押し切るのではなく、音が増えたり引いたりする瞬間が細かく入っていて、アルバム中でも編集感の強い一曲になっている。
このあたりの精度の高さは、クラブで機能するトラックをそのまま並べたというより、アルバムとしての流れを意識して作られていることを感じさせる。短いループの反復に頼り切らず、耳の向きを少しずつ変えていく構成があるため、通して聴くと曲ごとの輪郭がはっきり残る。
終盤の「Private Psychedelic Reel」
終盤を締める「Private Psychedelic Reel」は、アルバムの射程を広げる役割を持つ長尺曲だ。タイトルにある通りサイケデリックな感触が前に出ていて、ここでは単純な踊れるビートよりも、音のうねりや展開の持続が重要になっている。アルバムの中で最も“遠くまで行く”感じのある曲と言える。
この曲があることで、『Dig Your Own Hole』はシングルの寄せ集めではなく、ダンス・アルバムとしての構成を持った作品として見えてくる。攻撃的なビートで始まり、終盤で視界を広げる流れがあり、作品全体のレンジを最後にもう一段押し広げている。
サウンドとクレジット
収録曲には複数のサンプルが使われている。「Block Rockin’ Beats」には「Gucci Again」のサンプル、「It Doesn’t Matter」には「It Comes On Anyhow」の断片、「Get Up On It Like This」には「Money Runner」のサンプルが含まれる。こうした引用の積み重ねが、単なる引用趣味ではなく、曲の推進力そのものになっているのが本作の特徴だ。
また、Noel Gallagherに加えてBeth Ortonがゲスト参加している点も、このアルバムの広がりを示している。レイブ以後のビート感を持ちながら、歌や旋律の入り方にはロックやフォーク寄りの感触もある。結果として、『Dig Your Own Hole』はビッグ・ビートの代表作であると同時に、90年代後半の英国音楽が持っていた横断性をよく示す一枚になっている。
まとめ
『Dig Your Own Hole』は、The Chemical Brothersが広い層に認知される転機になったアルバムだ。全英1位、ヒットシングル、ゲスト参加、そしてサンプルとビートの強度。個々の要素は派手だが、アルバムとして聴くと、曲の配置と展開にかなり意識が向けられていることが分かる。1997年という年のUKエレクトロニック・ミュージックを切り取るなら、この作品はかなり重要な座標になっている。
トラックリスト
- A1 Block Rockin' Beats 5:13
- A2 Dig Your Own Hole 5:27
- B1 Elektrobank 8:18
- B2 Piku 4:55
- B3 Setting Sun 5:27
- C1 It Doesn't Matter 6:14
- C2 Don't Stop The Rock 4:49
- C3 Get Up On It Like This 2:45
- D1 Lost In The K-Hole 3:52
- D2 Where Do I Begin 6:56
- D3 The Private Psychedelic Reel 9:21