The Prodigy - Music For The Jilted Generation (1994)
The Prodigy『Music For The Jilted Generation』レビュー
The Prodigyの『Music For The Jilted Generation』は、1994年のUKダンス・ミュージックを語るうえで外せない2作目だ。前作『Experience』で見せたレイヴ直系の勢いを土台にしながら、この作品ではブレイクビートの硬さ、テクノの機械的な推進力、ビッグ・ビートの攻撃性が前面に出ている。The Prodigyが単なるパーティー・アクトではなく、時代の空気を丸ごと引き受ける存在として見られるようになる、その転機にあるアルバムでもある。
1994年という年は、英国のレイヴ文化が大きく揺れた時期だった。同年に成立した Criminal Justice and Public Order Act によって、レイヴやその周辺文化は強い圧力を受けることになる。このアルバムは、その空気への反応として受け止められてきた。中でも「Their Law」は、そうした文脈を最もはっきり背負った曲として知られる。もっとも、後年のLiam Howlettは、アルバム・タイトルを政治的主張として大仰に構えたものではないと述べており、作品全体も単純なプロテスト作品というより、当時の現場感覚を音にしたものとして聴かれている。
作品の位置づけ
The Prodigyは1990年結成の英国電子音楽グループで、初期はレイヴ/ブレイクビート色の強いサウンドで頭角を現した。『Music For The Jilted Generation』はその第2作であり、後の『The Fat Of The Land』へつながる重要な橋渡しになっている。まだロック寄りの大転換の前段階ではあるが、音の輪郭は前作よりずっと鋭く、サンプルの使い方もより攻撃的だ。クラブの熱量を保ちながら、曲ごとの構成はより強固になっている。
UKオリジナル盤はXL Recordingsからのリリースで、品番はXLLP 114。XL Recordingsは当時、レイヴ/ダンスの新しい流れを支えた独立レーベルとして機能しており、この作品もその文脈の中にある。盤面表記では「Made in England」「Distributed by Warner Music UK」とあり、UKダンス・シーンの中心から広く流通していったことがうかがえる。のちにヨーロッパ向けに別流通のコピーも出ているが、基本は1994年のオリジナル作品として押さえてよさそうだ。
「Their Law」について
このアルバムの中心曲としてまず挙がるのが「Their Law」だ。冒頭のスポークン・ワードからして、すでにただのダンス・トラックではない。サンプルの「Fuck 'em and their law」というフレーズが曲の軸になっていて、当時のレイヴ・シーンを取り巻く締め付けへの反発がそのまま音になっている。とはいえ、説教臭さは強くない。ビートは前へ前へと押し出され、クラブで鳴らすための圧力がちゃんと残っているところがこの曲の要点だ。
実際に聴くと、硬いドラムの跳ね方と低音の押し出しがかなり強い。メッセージを持ちながらも、曲としての瞬発力が落ちていない。The Prodigyがこの時点で、レイヴの快楽と外側の現実を同じトラックに同居させていたことがよくわかる1曲だ。
「Voodoo People」について
「Voodoo People」は、アルバムの中でも特に広く知られた代表曲のひとつだ。ここではギターの断片が前面に出ていて、ブレイクビートの上にロック的な緊張感が乗る。サンプリングの使い方も目立つが、単なる引用の寄せ集めではなく、全体の推進力に組み込まれているのが面白い。
トラックの流れを追うと、リズムの隙間が少なく、音が止まる時間が短い。クラブ向けの機能性を持ちながら、アルバムの中ではかなり攻撃的な部類に入る。後のThe Prodigyがロックと電子音楽をさらに接近させていくことを思うと、この曲はその前段階としてかなり重要だ。
「No Good (Start The Dance)」について
「No Good (Start The Dance)」も、このアルバムを代表する曲として外しにくい。ディスコグラフィ上では別のミックス名が明記されていないが、実際にはオリジナル・ミックスに近い形で収録されている。曲の構造はシンプルだが、反復の圧が強く、フロアの空気を一気に引き寄せる力がある。
この曲で印象に残るのは、メロディよりもリズムの持続だ。展開が派手に変わるというより、同じフレーズを少しずつ押し込んでいく作りで、結果として長く身体に残る。The Prodigyの初期曲の中でも、レイヴの高揚感と冷たい機械性が同居した例として聴きやすい。
サウンドと同時代性
このアルバムは、当時の英国ブレイクビート・テクノやビッグ・ビートの流れの中でも、かなり輪郭がはっきりしている。The Chemical BrothersやLeftfieldと並べて語られることは多いが、The Prodigyはその中でも打撃感が強く、曲の攻め方が直接的だ。サンプルは多用されているが、前作ほどの“素材感”より、曲全体の圧を優先しているように聴こえる。
『Music For The Jilted Generation』は、UKチャートで1位を記録し、長く売れ続けた。NMEの年間ベストにも入り、Mercury Prizeにもノミネートされている。こうした評価は、クラブの中だけで完結しない作品として受け止められていたことを示している。1994年のレイヴの終わりと、その先のより広いオーディエンスへの接続を同時に示したアルバム、と整理するとわかりやすい。
全体を通して聴くと、ただ勢いがあるだけではなく、曲ごとの役割がはっきりしているのもこの作品の特徴だ。序盤の緊張感、中盤の推進力、終盤の持続と爆発。その流れが崩れにくいので、2作目にしてすでにアルバムとしての完成度が高い。The Prodigyの初期を聴くなら、この作品はその中心に置かれる一枚だろう。
トラックリスト
- A1 Intro 0:45
- A2 Break & Enter 8:24
- A3 Their Law 6:40
- A4 Full Throttle 5:28
- B5 Voodoo People 6:28
- B6 Speedway (Theme From 'Fastlane') 8:56
- B7 The Heat (The Energy) 4:28
- C8 Poison 6:42
- C9 No Good (Start The Dance) 6:22
- C10 One Love (Edit) 3:53
- The Narcotic Suite