Vinyl Record Reviews
Ann Peeblesは、1947年4月27日生まれのアメリカのシンガー/ソングライターだ。ミズーリ州セントルイスで育ち、牧師の父が関わる教会の聖歌隊やゴスペルグループ「Peebles Choir」で歌い始めた。その後、10代でセントルイスのクラブ・シーンに出て、バンドリーダーのOliver Sainのもとで経験を積んでいる。
転機になったのは1968年、メンフィスを訪れた際にトランペット奏者Gene "Bowlegs" Millerのクラブで飛び入り参加したことだ。そこでMillerがHi Recordsのプロデューサー、Willie Mitchellに彼女を紹介し、その場で契約につながったとされる。1969年には、Hi Recordsからシングル「Walk Away」で正式にデビューした。
Ann Peeblesは1970年代に、Hi Recordsでメンフィス・ソウルの代表的な作品を発表している。レーベルの専属作曲家でありヴォーカリストでもあったDon Bryantと共作しながら楽曲を作り、のちに1974年にBryantと結婚した。
彼女の代表曲としてよく挙げられるのが、1973年の「I Can't Stand the Rain」だ。外出しようとしたところ雨が降り出し、そのときに口にした一言がきっかけになったとされる。曲はその夜のうちに、Don BryantとDJのBernie Millerとの共作で形になった。
この曲では、Willie Mitchellが当時新しかったエレクトリック・ティンバレスを使い、雨音のようなリフを作っている。さらにCharles Hodgesのオルガン、Teenie Hodgesのギターが重なり、Hi Recordsらしいメンフィス・ソウルの音像がはっきり出ている。全米R&Bチャートでは6位を記録した。
この曲は後年もよく参照されていて、1978年にはEruption版がベルギーとオーストラリアで1位を記録し、1985年にはTina Turner版もヒットしている。1997年にはMissy Elliottが「The Rain (Supa Dupa Fly)」でフレーズをサンプリングしたことでも知られる。John Lennonがこの曲を高く評価したという話も残っている。
Ann Peeblesの音楽は、Hi Records黄金期のメンフィス・ソウルを軸にしている。ホーンとリズムセクションが厚く絡む編成の上で、彼女のヴォーカルが前に出る作りだ。小柄な体格からは想像しにくい力強い歌声を持つとされ、女性の視点から恋愛の暗い側面を描いた楽曲で知られている。
また、Willie Mitchellとの関係も重要だ。Peebles本人はMitchellを「父親のような存在だった」と語っている。MitchellはHi Recordsの副社長兼専属プロデューサーとして、彼女の作品づくりに深く関わった。
同じHi Records、同じプロデューサーのもとにいたAl Greenとは、Hi Rhythm SectionやMemphis Hornsを共有していた。Ann Peeblesはその中で、Hi Recordsを代表する女性シンガーとして位置づけられている。男性シンガー中心に語られがちなメンフィス・ソウルの中で、彼女の作品は重要な存在として扱われている。
Ann Peeblesの楽曲は、ヒップホップを含む多くのアーティストにサンプリングされてきた。RZA、Wu-Tang Clan、Missy Elliottなどの名前が挙がっている。こうした使われ方を見ると、彼女の楽曲が後世の制作現場でも参照され続けていることがわかる。
2014年にはMemphis Music Hall of Fameに殿堂入りしている。メンフィス・ソウルの歴史を語るうえで、Ann Peeblesは外せない名前のひとりだ。