Ann Peebles - Straight From The Heart (1972)
Ann Peebles『Straight From The Heart』
1972年にUSのHi Recordsから出たAnn Peeblesのアルバム『Straight From The Heart』は、メンフィス・ソウルの芯の部分をそのまま切り取ったような1枚だ。前作『Part Time Love』でR&Bアルバム・チャートに名前を出した直後の時期に録音されていて、Ann Peeblesにとってはキャリアの流れをそのまま押し広げた作品でもある。プロデュースはHiの要であるWillie Mitchell、演奏はHi Rhythm Sectionが担当している。レーベルの持ち味がはっきり出る組み合わせだ。
Ann Peeblesは1947年生まれのアメリカのシンガー/ソングライターで、Hi Recordsを代表する女性アーティストのひとり。のちに夫となるDon Bryantと共作を重ねながら、歌うだけでなく書く側としても存在感を強めていく。本作でもその路線はすでに見えていて、楽曲の選び方、歌の置き方、伴奏との距離感に、単なる歌唱盤以上のまとまりがある。
メンフィス録音とHiサウンド
録音は1971年後半、メンフィスのRoyal Recording Studio。Hi Recordsの作品らしく、演奏の中心にはHi Rhythm Sectionの粘りのあるリズムがある。前に出すぎないのに、拍の重さが残るタイプの伴奏で、歌の表情を細かく支える作り。Willie Mitchellのプロデュースも、派手な装飾より、曲の輪郭をくっきり見せる方向にある。Staxの同時代作品と比べられることが多いが、Hiはより整った音像と、少し引いた位置から熱を出す感じが強い。
収録曲の中でも知られているのが「I Pity the Fool」。もともとはBobby “Blue” Blandの1961年曲で、Ann Peebles版はBillboard Hot 100で85位を記録した。彼女にとって2曲目のチャート入りで、曲の骨格はブルース寄りでも、歌の運びはかなりソウル寄りに寄せている。もう一つの代表曲「I Feel Like Breaking Up Somebody's Home Tonight」は、シングルでは「Breaking Up Somebody's Home」という形で出て、R&Bチャート13位まで上がった。作曲はAl Jackson Jr.とTimothy Matthews。タイトルの長さ通り、感情の温度をそのままぶつけるような曲で、Ann Peeblesの声の強さが前に出る。
アルバムとしての位置づけ
このアルバムはBillboard 200で188位、Soul LPsチャートで42位を記録し、Ann Peeblesにとって初のBillboard 200入りとなった。チャート上の数字以上に、作品の並びで彼女の輪郭が固まった時期の記録として見やすい。後年、Hip-Hopのサンプリング文脈で名前が出ることも多いが、その元になるのは、こうした70年代前半のHi作品にある、言葉の置き方とリズムの間合いだ。
作曲陣にも注目したい。Don BryantやGeorge Jacksonらが楽曲を提供し、作品全体がメンフィスのソウル・シーンの内部で完結している。外から大きく飾るのではなく、地元のプレイヤーと作家が積み上げた音。Ann Peeblesの歌は、その中で感情を押しつけすぎず、しかし引きもしない。そこがこの時代の彼女の持ち味として残る。
オリジナルUS盤と英国盤の違い
オリジナルUS盤は10曲構成。一方、オリジナルUK盤は14曲入りで、Give Me Some Credit
、I'll Get Along
、Solid Foundation
、Generation Gap Between Us
の4曲が追加されている。追加曲のうち2曲は前作から、残り2曲は『Part Time Love』由来のもの。英米で収録内容が違うため、アルバムの印象にも少し差がある。
なお、このUS盤にはマトリクス違いのラベル変種があり、SLH 628 W / SLH 629 Wの表記が確認できる。WはWaddell Pressingを示す。こうしたプレス違いも含めて、Hi Recordsの70年代初頭の実物感が残る1枚だ。
総括
『Straight From The Heart』は、Ann Peeblesの歌がHi Recordsの制作体制の中でしっかり形になった時期の重要作だ。ヒット曲「I Pity the Fool」と「I Feel Like Breaking Up Somebody's Home Tonight」を軸にしながら、アルバム全体ではメンフィス・ソウルの手触りが崩れずに続いていく。Willie Mitchell、Hi Rhythm Section、Don Bryant、George Jacksonといった名前が並ぶことで、この作品がひとりの歌手のソロ作であると同時に、Hiの音そのものを示す記録でもあることが見えてくる。
トラックリスト
- A1 Slipped, Tripped And Fell In Love 2:25
- A2 Trouble, Heartaches & Sadness 2:37
- A3 What You Laid On Me 2:22
- A4 How Strong Is A Woman 2:57
- A5 Somebody's On Your Case 2:35
- B1 I Feel Like Breaking Up Somebody's Home Tonight 2:28
- B2 I've Been There Before 3:06
- B3 I Pity The Fool 2:53
- B4 99 Pounds 2:15
- B5 I Take What I Want 2:30
動画プレイリスト
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Ann Peebles - Slipped, Tripped and Fell in Love (Official Audio)
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Ann Peebles - Trouble, Heartaches & Sadness (Official Audio)
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Ann Peebles - What You Laid on Me (Official Audio)
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Ann Peebles - How Strong is a Woman (Official Audio)
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Ann Peebles - Somebody's on Your Case (Official Audio)
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Ann Peebles - I Feel Like Breaking Up Somebody's Home Tonight (Official Audio)
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Ann Peebles - I've Been There Before (Official Audio)
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Ann Peebles - I Pity the Fool (Official Audio)
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Ann Peebles - 99 Pounds (Official Audio)
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Ann Peebles - I Take What I Want (Official Audio)