Tomoko Aran = 亜蘭知子 - Fuyü-Kükan = 浮遊空間 (1983)
Tomoko Aran 1983

Tomoko Aran = 亜蘭知子 - Fuyü-Kükan = 浮遊空間 (1983)

Electronic Rock Pop Funk / Soul Pop Rock Boogie Funk New Wave Synth-pop Kayōkyoku City Pop

Tomoko Aran = 亜蘭知子『Fuyü-Kükan = 浮遊空間』について

1983年にリリースされた亜蘭知子の3作目のスタジオ・アルバムが、この『浮遊空間』だ。アーティスト名義では Tomoko Aran と表記され、英題の Fuyü-Kükan と日本語タイトルの両方が並ぶ構成になっている。日本のシティ・ポップ、ブギー、ニューウェイヴ、シンセポップ、ファンク/ソウルといった当時の都市型ポップスの要素が、1枚のアルバムの中でかなり明確に交差している作品として知られている。

亜蘭知子は1958年生まれ、青森県弘前市出身の作詞家、シンガー、エッセイスト。本作は、そのキャリアの中でも特にアルバム作品としての存在感が強い時期の一枚だ。発売は日本、レーベルはWarner Bros. Records。1983年という年代も含めて、80年代前半の国産ポップスの空気をよく映した記録になっている。

作品の位置づけ

『浮遊空間』は、亜蘭知子の3枚目のスタジオ・アルバムという位置づけになる。前作までの流れを踏まえつつ、ここではより打ち込みやシンセの質感、グルーヴの強さが前面に出ている印象がある。シティ・ポップの文脈で語られることが多いが、単に都会的な軽さに寄るのではなく、ファンク寄りのリズム、ニューウェイヴ的な乾いた音像、歌謡曲のメロディ感が同居しているのが特徴だ。

同時代の作品でいえば、大貫妙子や松原みき、あるいは80年代前半の角松敏生周辺の作品群と並べて語られることがありそうだ。ただし、このアルバムはその中でもかなり輪郭がはっきりしていて、歌とサウンドの距離感が独特だ。日本語詞の乗り方も含めて、当時のポップスの中では少し異質な手触りを持っている。

聴きどころ

実際に聴くと、まず印象に残るのは低音の動きとシンセの配置だ。リズムは軽く流れるだけではなく、ベースラインが曲の推進力を作っている場面が多い。そこに、硬質なキーボードやギターの刻みが重なり、歌がその上をすり抜けるように進む。音数は多いのに、混み合った感じが少ない。80年代初頭の国産ポップスらしい整理された音作りがありつつ、冷たさだけに寄らないバランスがある。

タイトルの『浮遊空間』という語感に対して、音は完全に漂い切るわけではなく、むしろビートが地面を作っている。その上で、ボーカルやメロディが少し上の層で動くので、浮遊感と推進力が同時に立ち上がる。こうした作りは、のちに海外でも再評価される日本の80年代ポップスの魅力を先取りしているようにも感じられる。

代表曲としての「Midnight Pretenders」

このアルバムを語るうえで外せないのが「Midnight Pretenders」だ。英語タイトルのまま広く知られている曲で、亜蘭知子の代表曲として扱われることが多い。夜の空気、都市の距離感、少しだけ冷えた感情の置き方が、曲全体の設計にきれいに収まっている。リズムは滑らかだが、甘さに流れすぎない。歌のフレーズが前に出すぎず、サウンドの中に溶け込みながらも、語感の強さで耳に残る。

この曲は、シティ・ポップという言葉だけでは説明しきれない部分も持っている。ブギーの跳ね方、ニューウェイヴ的な乾き、ソウル寄りの身体感覚が重なっていて、単純な懐古では終わらない。聴き進めるほどに、メロディの流れよりも、言葉の置き方とビートの関係が印象に残るタイプの楽曲だ。

アルバム全体の中での「Midnight Pretenders」

アルバムの中に置かれることで、この曲の存在感はさらに際立つ。派手な盛り上がりで押し切るのではなく、全体の温度を一定に保ちながら、曲ごとの質感の違いで聴かせる構成の中で、中心点のひとつになっている。代表曲として独立して聴かれることが多い一方で、アルバムの流れの中でも機能しているのが面白いところだ。

サウンド面で目立つ曲たち

ほかの収録曲でも、シンセベースやタイトなドラム、ギターのカッティングが作るリズムの輪郭がはっきりしている。ファンク寄りの曲では体の動きが先に来て、ポップな曲では旋律の明瞭さが前に出る。どの曲も、歌謡曲的な親しみやすさを残しながら、80年代初頭の洋楽的な音作りをうまく取り込んでいる印象がある。

また、亜蘭知子の歌は、感情を大きく振り切るよりも、一定の距離を保ったまま言葉を置いていくタイプに聴こえる。そのため、楽曲のグルーヴや編曲の細部がよく見える。歌が主役でありながら、アレンジの情報量もかなり重要なアルバムだ。

1983年盤としての見どころ

この盤は1983年の日本盤オリジナルとして出たものだ。Warner Bros. Recordsの日本盤らしい当時の空気感を持つリリースで、80年代前半の国産ポップスが持っていた洗練と実験性の両方を、1枚のLPに収めたような内容になっている。後年、シティ・ポップ再評価の流れの中で注目されることが多くなった作品でもあり、当時の時点ではかなり先の見えた音作りだったとも言えそうだ。

『浮遊空間』は、亜蘭知子のディスコグラフィーの中でも、作品単体で強く記憶されやすいアルバムだ。代表曲「Midnight Pretenders」を軸に聴いてもよし、アルバム全体のグルーヴと質感を追ってもよし。80年代日本のポップスが、歌謡曲、ファンク、ニューウェイヴ、シンセポップの境界を行き来していたことを、そのまま感じ取れる一枚になっている。

トラックリスト

  1. A1 Body To Body 4:05
  2. A2 Lonely Night 2:22
  3. A3 I'm In Love 5:51
  4. A4 ジ・レ・ン・マ 3:07
  5. A5 Midnight Pretenders 5:43
  6. B1 ひと夏のタペストリー 4:28
  7. B2 HANNYA 5:28
  8. B3 しゃくなYesterday 4:59
  9. B4 Baby, Don't You Cry Anymore 5:24

動画

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