Beastie Boys - Ill Communication (1994)
Beastie Boys 1994

Beastie Boys - Ill Communication (1994)

Rock Hip Hop Jazz-Funk Conscious Hardcore Cut-up/DJ

Beastie Boys『Ill Communication』──ヒップホップとロックの接点を押し広げた1994年作

Beastie Boysの『Ill Communication』は、1994年にUS Capitol Recordsから出たオリジナル・アルバム。ニューヨーク出身の彼らが、パンクの衝動を残したままヒップホップの形式を拡張していった到達点のひとつで、当時のメジャー・ヒップホップの中でもかなり独特な位置にある作品だ。ラップ、バンド演奏、サンプリング、スクラッチが同じ密度で並び、1枚の中に複数の流れが共存している。

録音は1993年2月から11月にかけて、ニューヨークのTin Pan Alley Studiosと、カリフォルニア州アトウォーター・ビレッジにある自前スタジオG-Sonで進められた。プロデュースはBeastie BoysとMario Caldato Jr.。G-Sonはバスケットコートやスケートランプまで備えた空間で、仲間やコラボレーターが自由に出入りしながら制作が進んだという背景がある。制作環境そのものが、閉じたレコーディングというより、バンドの遊び場に近い。

バンド編成を前面に出した構成

この時期のBeastie Boysは、Mike Dがドラム、Ad-Rockがギター、MCAがベースを担うバンド編成を軸にしている。そこへMark Nishitaのキーボード、Eric “Bobo” Correaのパーカッション、DJ Hurricaneのスクラッチが加わる。単なるラップ・グループではなく、演奏と編集が同じ比重で存在する作りで、ハードコア・パンクの名残とヒップホップのビート感が、曲ごとに形を変えながら並ぶ。

全体を通して聴くと、音の切り替えがかなり速い。ラフなギターの曲の次に、サンプリング主体の曲が来て、その間にジャズ・ファンク寄りの組み立てが挟まる。まとまりよりも変化の多さが先に立つが、アルバムとしては不思議と散らばらない。Beastie Boysがこの時点で、ジャンルの境界をまたぐこと自体を自分たちの手つきとして定着させていたことがわかる内容だ。

代表曲とアルバムの核

本作を語るうえで外せないのが「Sabotage」。攻撃的なベースラインとギター、叫ぶようなラップが一体になった曲で、後年まで彼らの代表曲として扱われ続けている。Spike Jonze監督によるミュージックビデオも有名で、90年代の音楽映像を象徴する一本として記憶されている。もうひとつの重要曲が「Sure Shot」。ここでのMCAによる女性蔑視への言及は、当時のヒップホップの中でもはっきりした姿勢を示す場面としてよく取り上げられる。

アルバム全体では、Miles Davisのジャズロック期、特に『Agharta』や『On the Corner』からの影響が指摘されている。実際、単にジャズを引用するのではなく、リズムの組み方や音の置き方に、あの時期の硬質な感触が入り込んでいる。ヒップホップのサンプル文化と、ジャズロックの密度を同じ平面に置いたような作りだ。

当時の評価と位置づけ

『Ill Communication』は全米ビルボード200で1位を獲得し、1987年の『Licensed to Ill』以来、2作目の首位作になった。商業的な成功だけでなく、Beastie Boysが単発のヒット・グループではなく、アルバム単位で構成を組める存在だと示した作品でもある。前作までのイメージを引きずるというより、ヒップホップ、ロック、ファンク、ジャズの要素を再配置して、90年代半ばの自分たちの型を作った印象が強い。

同時代の文脈で見ると、ニューヨークのヒップホップに根を持ちながら、ロックの演奏感を失わないグループとしてかなり特異だ。Public Enemyのような政治性や、De La Soulのようなサンプリング感覚とも違い、もっと雑多で、もっと身体的。とはいえ単なる混成ではなく、編集の切れ味と演奏の荒さが同居している。後年のオルタナティブ・ヒップホップやクロスオーバー系の流れを考えると、ここで見えている方法はかなり先を行っていた。

盤の情報

このUS Capitol Records盤は、透明感のある黒盤仕様で、フロントにはParental Advisoryステッカー付き。ボーナス・ステッカーも封入されていた。ジャケット写真はBruce Davidsonが1964年ごろに撮影したオリジナル写真を使っている。プリント表記は「Printed in USA」。90年代前半のメジャー盤らしい物量感と、少し遊びを残したパッケージングが、このアルバムの内容とよく合っている。

『Ill Communication』は、Beastie Boysがパンク由来の反骨、ラップの言葉数、バンドの生演奏、サンプリングの編集感覚を、ひとつのアルバムにまとめた記録になっている。曲単位で見ても、アルバム全体で見ても、90年代ヒップホップの中でかなり珍しい手触りを持つ作品だ。

トラックリスト

  1. A1 Sure Shot 3:20
  2. A2 Tough Guy 0:58
  3. A3 B-Boys Makin' With The Freak Freak 3:54
  4. A4 Bobo On The Corner 1:13
  5. A5 Root Down 3:32
  6. B1 Sabotage 2:59
  7. B2 Get It Together 4:06
  8. B3 Sabrosa 3:30
  9. B4 The Update 3:16
  10. B5 Futterman's Rule 3:42
  11. C1 Alright Hear This 3:07
  12. C2 Eugene's Lament 2:13
  13. C3 Flute Loop 1:55
  14. C4 Do It 3:17
  15. C5 Ricky's Theme 3:44
  16. D1 Heart Attack Man 2:15
  17. D2 The Scoop 3:36
  18. D3 Shambala 3:41
  19. D4 Bodhisattva Vow 3:09
  20. D5 Transitions 3:32

動画プレイリスト

公開: 2026年8月
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