Sun Ra - Lanquidity (1978)
Sun Ra『Lanquidity』(1978)
Sun Raの『Lanquidity』は、1978年の作品で、彼のディスコグラフィの中でも少し位置がずれた一枚として知られている。フリー・ジャズの先鋭的な作曲家、ピアニスト、バンドリーダーとして語られることの多いSun Raだが、このアルバムでは硬質な前衛性だけで押し切らず、ファンクやR&B、当時のジャズ・ロックの感触を強く取り込んでいる。レーベルはフィラデルフィアのPhilly Jazz。リリース時点のSun Raは、すでに長い活動歴を持ちながら、なお録音のたびに手触りを変える存在だった。
一晩で録られた、まとまったグルーヴの記録
本作は1978年7月17日、ニューヨークのBlank Tapesスタジオで、エンジニアのBob BlankとJoe Arlottaによって一晩がかりで録音された。制作の中心には事前に用意されたホーン・アレンジがありつつも、実際には即興的なジャムから形になったトラックが多かったとされる。そのためか、演奏はきっちり組み上げられたというより、場の流れの中で少しずつ輪郭を持っていく感触がある。
このアルバムでまず目立つのは、Arkestraとしては珍しくギタリストを2人起用している点だ。ここが音の性格を大きく変えている。ホーン・セクションが前面に出る場面でも、下ではギターが細かく刻み、ベースとドラムが粘る。フリー・ジャズの張りつめた推進力よりも、反復の中で引っ張る感じが強い。Sun Raの作品の中では、かなり身体的なノリが前に出た盤だ。
『Space Is the Place』の時代の延長線上で
1978年のSun Raは、すでに「宇宙」「古代エジプト」「アフロフューチャリズム」といったイメージを自分の音楽言語として確立していた。しかもこの時期は、5月にArkestraがSaturday Night Liveへ出演し、「Space Is the Place」を演奏してお茶の間にも姿を見せている。そうした動きの直後に録音されたのが『Lanquidity』で、前衛の内輪だけに閉じない広がりを持った作品として聴ける。
収録曲の中では「Where Pathways Meet」がよく話題になる。エジプト行進曲をファンク化したようだと評されることもあり、Sun Raの象徴的なモチーフである宇宙性や古代趣味が、当時のグルーヴ志向と結びついている。派手にテーマを提示して終わるのではなく、リズムの粘りの中で同じモチーフが姿を変えていく作り。ここにこのアルバムの性格がよく出ている。
聴感の印象
実際に聴くと、まず低音の粘りが印象に残る。ベースとドラムが前へ出て、その上でホーンが短く合図を出す。旋律が大きく展開する場面より、一定のパターンが少しずつずれていく場面に耳が向く。いわゆる「難解な前衛」というより、反復の中に不思議な緊張が残る作りで、途中からは曲の終わり方よりも、同じリフがどこまで続くかに意識が向く。
また、ロック寄りの硬さとも、ストレートなファンクとも少し違う。演奏はぐっと重心が低いのに、音像は妙に開けている。この感触は、同時代のMiles Davisのジャズ・ロック/フュージョン作品と比較されることがあるのも納得しやすい。とはいえ、『Lanquidity』は電気楽器の派手さで押すのではなく、Arkestraの集団演奏を保ったまま、グルーヴの側へ寄せた盤という印象が強い。
作品の位置づけ
Sun Raの作品群の中では、『Lanquidity』は異色作として扱われることが多い。長いキャリアの中で、彼は自由即興、宇宙思想、ビッグバンド的な編成、電子楽器の導入などを行き来してきたが、この作品ではそのどれもが比較的しなやかに混ざっている。フリー・ジャズの文脈に置かれながら、同時にファンクやソウルのリスナーにも接続しやすい接点を持つ点が特徴だ。
批評面でも評価は高く、濃密でリズミックな聴感、催眠性のある反復、そしてSun Raらしい宇宙的イメージの扱い方が注目されてきた。1980年代以降のジャズ、アフロフューチャリズム、実験ファンクの流れを振り返るときにも、こうした「前衛を保ったままグルーヴへ寄る」記録は外せない。『Lanquidity』は、Sun Raが単なる異端のジャズマンではなく、時代の音の変化を自分の言語に組み替える作曲家だったことを、そのまま示す一枚である。
パッケージについて
この盤はメタリックなカバーでも知られる。音だけでなく、見た目の段階からSun Raの宇宙的な世界観を補強する作りで、1970年代後半の彼の作品らしい物理的な存在感がある。レコードとして手元に置いたとき、音楽と装丁が同じ方向を向いていることがわかりやすい一枚だ。
トラックリスト
- A1 Lanquidity 8:19
- A2 Where Pathways Meet 6:30
- A3 That's How I Feel 8:09
- B1 Twin Stars Of Thence 9:30
- B2 There Are Other Worlds (They Have Not Told You Of) 10:58