"Weird Al" Yankovic - "Weird Al" Yankovic (1983)
"Weird Al" Yankovic『"Weird Al" Yankovic』
アメリカのパロディ/コメディ・ミュージック界を代表する“Weird Al” Yankovic(「ウィアード・アル」・ヤンコビック)が、1983年5月3日にRock 'N' Roll Records(Scotti Brothers傘下、CBS配給)からリリースしたセルフ・タイトルのデビュー・アルバム(カタログ番号:PZ 38679)。カリフォルニア州ダウニー生まれのヤンコビックが、アコーディオンを抱えてカルト・ラジオ番組から頭角を現し、ヒット曲の精緻なパロディと卓越したジャンル模倣(パスティーシュ)によるオリジナル曲を組み合わせる独自のスタイルを確立した記念碑的な1枚だ。
制作背景と録音の経緯
出発点は1979年9月、カリフォルニアポリテクニック州立大学(Cal Poly)で建築学を専攻しながら、キャンパス・ラジオ局KCPRのDJを務めていた時期にさかのぼる。ヤンコビックは音響の反響が良いという理由で放送局向かいの男子トイレにアコーディオンを持ち込み、ザ・ナック(The Knack)の大ヒット曲「My Sharona」のパロディ「My Bologna」(オスカー・マイヤー社のボローニャ・ソーセージへの讃歌)を録音した。このテープを送られた全米シンジケート番組『The Dr. Demento Show』のホスト、ドクター・ディメント(Dr. Demento=バレット・ハンセン)がオンエアすると番組史上空前のリクエストが殺到し、ザ・ナックのフロントマンであるダグ・フィーガーも絶賛したことで1979年末にCapitol Recordsからシングル発売された。
続いて1980年9月14日には、同番組のスタジオ前で出会ったドラマーのJon "Bermuda" Schwartz(ジョン・“バミューダ”・シュワルツ)がヤンコビックのアコーディオン・ケースを叩いてビートを刻み、クイーンの「Another One Bites the Dust」のパロディ「Another One Rides the Bus」(満員バスの地獄を描いた曲)を一発録りでスタジオ・ライヴ録音した。その後、マネージャーのJay Leveyの仲介で「Rock and Roll, Hoochie Koo」などで知られるロック・ギタリスト/プロデューサーのRick Derringer(リック・デリンジャー)とタッグを組み、ハリウッドの名門Cherokee Studiosで24トラックの本格的なバンド編成によるレコーディングを実施。このセッションで、のちに40年以上ヤンコビックを支え続けるJim West(ギター)、Steve Jay(ベース)、Jon "Bermuda" Schwartz(ドラムス)の黄金バンドが結成された(なお、「Another One Rides the Bus」のみ1980年のラジオ生録音テイクがそのまま収録されている)。
また、「I Love Rocky Road」のミュージック・ビデオ撮影では、照明の熱で溶けないようアイスクリームの代わりにマッシュポテトが使用され、ヤンコビックが誤ってマッシュポテトにそのままかぶりついてしまったという逸話も残る。イラストレーターのLou Beach(ルー・ビーチ)が描いた情報量過多な風刺画ジャケットも強烈な印象を残した。
時代の文脈
1981年のMTV開局によって音楽産業が視覚化・劇場化し、同時にニュー・ウェイヴの広がりによってロックの権威主義を茶化すユーモアやギーク文化が台頭していた時代背景がある。それまでアラン・シャーマンやスパイク・ジョーンズらの系譜にあるノベルティ・ソングはラジオ番組『The Dr. Demento Show』のようなカルトな領域に留まっていたが、ヤンコビックはロックの象徴であるエレキ・ギターの代わりに「最もロックから遠い楽器」とされたアコーディオンを前面に押し出し、MTV時代のポップ・ヒットとミュージック・ビデオ文化を丸ごとパロディ化する手法でメインストリームへと躍り出た。
サウンドと聴きどころ
アルバムは全12曲で、ヒット曲のパロディ5曲とヤンコビックのオリジナル曲7曲で構成されている。オープナーにしてリード・シングルの「Ricky」は、トニー・バジルの全米1位曲「Mickey」をパロディ化し、古典的シットコム『アイ・ラブ・ルーシー(I Love Lucy)』のリッキー(ヤンコビック)とルーシー(のちに『ザ・シンプソンズ』などで活躍する声優Tress MacNeilleが担当)の掛け合いに仕立てた快作。「I Love Rocky Road」は、ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツ版でヒットした「I Love Rock 'n' Roll」(原曲はアロウズ)をロッキーロード・アイスクリームへの偏愛に置き換え、プロデューサーのRick Derringer自身が弾くギター・ソロとアコーディオンのリフが融合している。さらにスティーヴィー・ニックス&トム・ペティの「Stop Draggin' My Heart Around」をローン滞納でレッカー移動される愛車の悲哀に変えた「Stop Draggin' My Car Around」や、スタジオで再録音されパワー・ポップとしての完成度を増した「My Bologna」が並ぶ。
オリジナル曲でも、Rick Derringer自身の代表曲「Rock and Roll, Hoochie Koo」のスタイルをセルフ・パロディ的に取り入れた「Such A Groovy Guy」や、英国王室のチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚生活をブルース調で皮肉った「Buckingham Blues」、B-52's風のニュー・ウェイヴ・パンクに乗せて世界の終末と貧困を底抜けに明るく歌う「Happy Birthday」、カリフォルニアのニューエイジ/自然食ブームを揶揄した「I'll Be Mellow When I'm Dead」、そして鉄の肺(人工呼吸器)に入った瀕死の老人との交流をアコーディオンの排気音で表現するブラック・ユーモア曲「Mr. Frump In The Iron Lung」など、単なる替え歌にとどまらないソングライティングと演奏技術が高く評されている。
後世への影響と評価
本作は、その後グラミー賞を5度受賞し、2014年の『Mandatory Fun』で全米アルバム・チャート1位を獲得するに至るヤンコビックの基本フォーマットを確立した。アルバムは米Billboard 200で最高139位を記録し、ロングセラーとなってRIAA(アメリカレコード協会)からゴールドディスク(50万枚以上)に認定されている。シングル「Ricky」はMTVでのヘヴィ・ローテーションも後押ししてBillboard Hot 100で最高63位(Cash Boxでは49位)、「I Love Rocky Road」はBubbling Under Hot 100で6位(総合106位)を記録した。
批評面では、AllMusicのEugene Chadbourneが5点満点中4.5を付け、「『My Bologna』は愚かなものをさらに愚かにするという崇高な芸術を証明しており、『Another One Rides the Bus』は大仰なロック・アンセムの風船に針を刺す音楽的ユーモアの古典だ」と絶賛した。クイーンのギタリスト、ブライアン・メイもインタビューで「Another One Rides the Bus」を「最高に笑えるレコードだ」と称賛し、音楽評論家のNathan Rabinは同曲を「ジョニー・ロットンやザ・クラッシュが録音したどの曲にも劣らないパンク・ロックのアナーキーな精神を体現している」と評している。また、2019年には英国のLadBabyが「I Love Rocky Road」をソーセージ・ロールの歌へと改作したチャリティ曲「I Love Sausage Rolls」で全英クリスマス・ナンバーワンを獲得し、2022年の伝記コメディ映画『Weird: The Al Yankovic Story』(ダニエル・ラドクリフ主演)でも本作収録曲の誕生秘話が大きくフィーチャーされた。
トラックリスト
- A1 Ricky 2:35
- A2 Gotta Boogie 2:13
- A3 I Love Rocky Road 2:35
- A4 Buckingham Blues 3:11
- A5 Happy Birthday 2:26
- A6 Stop Draggin My Car Around 3:14
- B1 My Bologna 2:01
- B2 The Check's In The Mail 3:12
- B3 Another One Rides The Bus 2:35
- B4 I'll Be Mellow When I'm Dead 3:37
- B5 Such A Groovy Guy 3:00
- B6 Mr. Frump In The Iron Lung 1:55