Tears For Fears - The Hurting (1983)
Tears For Fears『The Hurting』(1983)
Tears For Fearsのデビュー・アルバム『The Hurting』は、1983年にUKのMercuryから出た作品で、バンドの出発点をそのまま記録したような一枚だ。Roland OrzabalとCurt Smithを中心に結成されたこのグループは、80年代初頭の英国で台頭したニュー・ウェイヴ/シンセポップの流れの中でも、比較的ソングライティングの輪郭がはっきりしたタイプに入る。単にシンセを前面に出した作品ではなく、メロディ、コーラス、言葉の運びがきちんと組み立てられている点が印象に残る。
このアルバムは、のちの大成功を先取りするような内容でもある。Tears For Fearsにとっては、後年のヒット曲群へつながる土台であり、同時に1983年当時のバンドの感情の置き場所が見えやすい作品でもある。英国の同時代バンドでいえば、Depeche ModeやTalk Talkの初期作品と並べて語られることが多いが、こちらはよりポップソングとしての整合感が強い。冷たい質感のシンセを使いながら、曲の骨格はかなり明快だ。
作品の位置づけ
『The Hurting』は、Tears For Fearsの最初のスタジオ・アルバムであり、バンド名が広く知られる以前の姿をそのまま閉じ込めたような内容だ。1981年から1983年にかけて録音され、1983年3月7日にリリースされた。収録曲の多くは後のシングル展開とも結びついていて、アルバム全体が一つの流れとしてまとまっている。
この盤はUK盤らしく、Mercuryのカタログ番号「mers 17」を持ち、バック・カバーやラベルには「811 039-1」も併記されている。インナーには歌詞とクレジットが印刷され、当時のアルバム作品としての作り込みもきちんとしている。非エンボスのスリーブという仕様も含め、初期80年代のUKポップ・アルバムらしい佇まいだ。
アルバム全体の聴きどころ
耳に入ってくるのは、シンセのレイヤーとリズム・マシン、そしてボーカルの整理された配置だ。派手に音数を増やしていくというより、繰り返しの中でフックを立たせる作りで、曲ごとの温度差もある。暗さを前面に出す場面があっても、ただ沈み込むだけではなく、サビやメロディでしっかり引っ張るところがこの時期のTears For Fearsらしい。
実際に通して聴くと、アルバムのタイトルが示す方向性はかなり明確だ。内省的なテーマを扱いながら、演奏やアレンジは整っていて、感情の起伏が音の構造にきちんと反映されている。派手な装飾よりも、曲そのものの設計で聴かせるタイプのアルバムと言える。
「Mad World」
このアルバムを語るうえで外せないのが「Mad World」だ。収録曲の中でも特に知られた代表曲で、後年も繰り返し参照されることになる。穏やかなテンポの中に不安や違和感が折り重なっていく構成で、メロディは覚えやすいのに、言葉の側には落ち着かなさがある。その落差が曲の印象を強くしている。
シンセポップとして聴くと、音の作りは明快だが、単純な明るさには寄らない。コーラスの入り方やフレーズの反復が、曲全体を淡々と進めながら、気分の揺れを残す。シングルとして成立する分かりやすさと、アルバムの空気を代表する性格の両方を持った一曲だ。
「Change」
「Change」も本作を代表する曲としてよく挙がる。こちらは「Mad World」よりも動きがはっきりしていて、リズムの推進力とメロディの抜けが前に出る。タイトルどおり変化の感覚を持った曲で、アルバム内でも流れを切り替える役割がある。
この曲では、Tears For Fearsが単なる内省型のバンドではなく、ポップ・ソングのフォームを扱えることがよく分かる。フックの立て方が素直で、サウンドは80年代初頭の英国シーンらしいが、曲の組み立てはかなり端正だ。アルバムの中で最初に耳をつかむ役目を担う一曲として機能している。
同時代の文脈
1983年という時点で見ると、『The Hurting』はニュー・ウェイヴからシンセポップへと広がっていた英国ポップの中にある。Depeche Modeのような電子音主体の方向性とも接点があり、Talk Talkの初期のような洗練されたポップ感とも近い部分がある。ただしTears For Fearsは、サウンドの実験性よりも、歌としてのわかりやすさを保ったまま感情を置いていくところに特徴がある。
そのため、今聴いても年代物の記録というより、80年代前半の英国ポップがどこまで整理された形で作品化されていたかを示すアルバムとして捉えやすい。デビュー作でありながら、すでにバンドの輪郭がかなり見えているのもこの盤の面白さだ。
UKオリジナル盤について
このUK盤はMercury (mers 17) からの1983年リリースで、ラベルには「MERS 17」、バック・カバーには「811 039-1」も記載されている。内袋には歌詞とクレジットが入っており、ファン・クラブの住所も大きく印刷されている。ハイプ・ステッカー付きの個体では「includes Mad World & Change」と案内されていて、当時の注目曲が分かりやすく示されている。
この盤は、Tears For Fearsが最初に提示した世界観をそのまま確認できる一枚だ。ヒット曲の存在感だけでなく、アルバム全体の整った構成、英国ニュー・ウェイヴの空気、そしてデビュー作としての緊張感がきれいに残っている。
トラックリスト
- A1 The Hurting 4:13
- A2 Mad World 3:33
- A3 Pale Shelter 4:34
- A4 Ideas As Opiates 3:48
- A5 Memories Fade 5:00
- B1 Suffer The Children 3:48
- B2 Watch Me Bleed 4:12
- B3 Change 4:10
- B4 The Prisoner 2:54
- B5 Start Of The Breakdown 4:55
動画
-
The Hurting
-
Mad World
-
Pale Shelter (2nd Single Version)
-
Ideas As Opiates
-
Memories Fade
-
Suffer The Children
-
Watch Me Bleed
-
Change
-
The Prisoner
-
Start Of The Breakdown