Jorge Ben - Negro É Lindo (1971)
Jorge Ben『Negro É Lindo』(1971) レコード紹介
ブラジルのシンガー/ソングライター、Jorge Benが1971年に発表した『Negro É Lindo』は、彼のソロ作の中でも、サンバの骨格にファンクの推進力を重ねた時期をよく示す作品だ。Jorge Benは1939年生まれ、60年代初頭からサンバ系の作家として頭角を現し、Sérgio Mendesが「Mas Que Nada」を取り上げたことで国際的にも知られるようになった人物である。本作もその流れの中にあり、MPBの洗練とサンバの身体性、さらに当時のブラック・ミュージックから受けた影響が自然に混ざっている。
1971年のブラジルで生まれたオリジナル盤で、レーベルはPhilips、カタログ番号は6349 011。Philipsは当時、国際展開の強い大手レーベルで、ブラジルの人気アーティストの作品も多く抱えていた。Jorge Benにとっても、この時期は広い聴衆へ楽曲を届ける重要な局面だったと見られる。のちの1976年『Africa Brasil』で電気ギター中心のサウンドへ大きく舵を切る前段階として聴くと、ここでのリズム感やコード感の置き方が、すでに次の展開を予感させるように感じられる。
アルバム全体の印象
『Negro É Lindo』は、派手な音数で押し切るというより、歌とリズムの噛み合いを丁寧に積み上げるタイプの作品である。Jorge Benの作品は、ギターの刻みだけで前へ進む場面が多いが、この盤でもその持ち味ははっきりしている。サンバの跳ね方を土台にしながら、低音のうねりや反復が強く、耳に残るフレーズが曲の中心へすっと置かれていく。
ジャンル表記としてはLatin、Funk / Soul、スタイルはMPB、Sambaとなるが、実際の聴感もその区分に沿う。サンバの伝統を引きずりつつ、アメリカのソウルやファンクに近いリズムの締まりがあり、同時代のブラジル音楽の中でも、Gilberto GilやTim Maiaの周辺と並べて語られやすい領域にある。とはいえ、Jorge Benの曲はあくまで彼自身の語り口で進むため、同じファンク寄りでも他者の模倣にはならない独特の運びがある。
タイトル曲「Negro É Lindo」
アルバムの核にあるのは、やはりタイトル曲「Negro É Lindo」だろう。曲名がそのままメッセージになっていて、1971年という時代を考えると、音楽的な主張と社会的な視点が重なっていることがわかる。Jorge Benの楽曲は、直接的なスローガンで押すというより、リズムと反復の中に言葉を置くことで意味を強める場面が多いが、この曲もその構造に近い。
演奏面では、ギターの刻みと打楽器の推進が前に出て、ボーカルはその上を滑るように進む。聴いていると、言葉の一つひとつよりも、フレーズ全体が持つ高揚感が先に残るタイプである。Jorge Benの歌は軽やかだが、内容は軽くない。そのバランスがこの曲の印象を決めている。
Jorge Benらしさが出る曲の運び
この作品では、メロディが複雑に展開するというより、短いモチーフを何度も回しながら、少しずつ熱を上げていく作りが目立つ。ここにJorge Benの作家性がある。サンバの素朴さを残しつつ、ファンク的な反復で引っ張るため、曲の構造はシンプルでも、聴感は単調になりにくい。いわゆる“聴かせる”というより、“身体に入る”タイプの進み方だ。
また、彼の代表曲「Mas Que Nada」を知っていると、本作の歌い回しやリズムの置き方にも通じるものを感じやすい。あの曲にある親しみやすいフックと、サンバの推進力は、ここでも別の形で生きている。ブラジル音楽の中でJorge Benが特別視される理由は、まさにこの「口ずさみやすさ」と「リズムの強さ」の同居にあるのだと思わせる。
作品の位置づけ
『Negro É Lindo』は、Jorge Benのキャリアの中で、60年代のサンバ/ボサノヴァ寄りの作風から、より黒いグルーヴへと接続していく途中段階に置かれる作品として見えてくる。後年の『Africa Brasil』ほど大胆にサウンドを更新してはいないが、その前夜として重要な手触りがある。サンバの作曲家として始まった彼が、ファンクやソウルの語彙を自分のものにしていく過程が、ここでは比較的まっすぐに感じられる。
ブラジルのMPB史の中でも、1970年前後は表現の幅が大きく広がった時期で、Jorge Benはその中で、土着性と都市的な洗練をつなぐ役割を担った一人と言える。『Negro É Lindo』は、その立ち位置をよく示す一枚であり、Jorge Benの音楽が単なる“名曲の人”ではなく、リズムと言葉の組み立てに強い作家であることを伝えてくれる。
レコードとしてのポイント
本盤は1971年のブラジル盤オリジナルで、Philipsレーベルの当時の空気をそのまま持つ資料性もある。後年の再発盤を聴くと、音圧やマスタリングの違いで印象が変わることはあるが、この作品はまず、当時のブラジルのポップ/MPBの流れの中で聴くと輪郭が見えやすい。Jorge Benの歌とギター、そして反復するリズムの組み合わせが、1971年という年のブラジル音楽の一断面としてしっかり残る一枚である。
トラックリスト
- A1 Rita Jeep 2:58
- A2 Porque É Proibido Pisar Na Grama 4:55
- A3 Cassius Marcelo Clay 3:33
- A4 Cigana 3:13
- A5 Zula 2:58
- B1 Negro É Lindo 3:30
- B2 Comanche 2:55
- B3 Que Maravilha 4:08
- B4 Maria Domingas 3:58
- B5 Palomaris 3:00
動画
- Rita Jeep
- Jorge Ben Jor - Porque é Proibido Pisar Na Grama (Áudio)
- Cassius Marcelo Clay
- Jorge Ben Jor - Cigana (Áudio Oficial)
- Zula
- Negro É Lindo
- Comanche
- Que Maravilha
- Maria Domingas
- Palomaris