Antonio Carlos Jobim - Stone Flower (1970)
Antonio Carlos Jobim 1970

Antonio Carlos Jobim - Stone Flower (1970)

Jazz Latin Bossa Nova Latin Jazz Samba

Antonio Carlos Jobim『Stone Flower』について

アントニオ・カルロス・ジョビンの『Stone Flower』は、1970年にブラジル盤として出た作品で、ボサノヴァの作曲家として知られるジョビンが、ジャズ寄りの編成と音作りを前面に出して作り上げたアルバムだ。ジョビンの代表的なメロディ感を保ちながら、当時のCTIらしい洗練された録音とアレンジが重なる一枚で、ブラジル音楽とアメリカのジャズ制作が交差した時期をよく示している。

制作の背景

録音は1970年3月から5月にかけて、ニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオで行われた。プロデュースはクレディ・テイラー、編曲と指揮はイウミル・デオダート。CTI初期の作品らしく、ブラジル出身の演奏家とニューヨークのジャズ・ミュージシャンが同じ空気の中で鳴っているのが特徴だ。参加者にはホベルト・カルロス、エアート・モレイラ、エウベルド・フェヘイラ、ジョアン・パルマ、ロン・カーターらが並ぶ。リズムの推進力と、管弦楽的な広がりの両方を持った編成で、ジョビンの曲がスタジオ作品としてきっちり整えられている。

この時期のジョビンは、A&M/CTI周辺の制作体制の中で活動しており、『Stone Flower』と同じ流れで『Tide』も進められていたとされる。クレディ・テイラーが素材の振り分けを決めたという経緯もあり、同時期のジョビン作品の中でも、こちらはよりジャズの文脈が強い位置に置かれている。

アルバムの位置づけ

ジョビンにとって『Stone Flower』は、ボサノヴァの作曲家という枠を超えて、ジャズのアルバム制作の中で自作をどう響かせるかを示した作品のひとつだ。『Wave』ほど広く知られたタイトルではないが、70年代前半のジョビン作品を語るときには外しにくい存在になっている。静かな曲調の中に和声の動きが多く、旋律は抑えめでも、演奏全体の設計で聴かせるタイプのアルバムといえる。

CTIの同時代作品と比べると、グローヴァー・ワシントン・ジュニアやジョージ・ベンソンのようなソウル寄りの強い押し出しよりも、こちらは室内楽的なまとまりが前に出る。とはいえ単なる小編成のボサノヴァではなく、録音の輪郭や低音の厚みはCTIらしい。ジャズ、ラテン、ボサノヴァ、サンバの要素が、派手に混ざるというより、整った形で並んでいる印象だ。

聴きどころ

タイトル曲「Stone Flower」は、このアルバムの核になる曲だ。メロディの流れがはっきりしていて、アレンジの中でジョビンの作曲家としての強さが出る。加えて「Brazil」など、ジョビンの曲集としても耳なじみのある題材が並び、個々の曲がアルバム全体の統一感の中に収まっている。派手なソロ合戦で押す作品ではないが、各楽器の入り方や和音の置き方を追っていくと、細部の設計がよく見える。

実際に聴くと、音の前後感がかなり整理されていて、打楽器やベースが下支えしながら、上物が無理なく広がる。ジョビンのピアノや歌の置き方も、前面に出すぎず、曲の骨格を見せる役割に寄っている。録音の空間がはっきりしているので、演奏の密度が高くても窮屈になりにくい。

発売時の反応とその後

発売当初の成績は大ヒットというほどではなく、Billboard 200では196位、ジャズ・アルバム・チャートでは18位まで上がった。一般市場で大きく爆発した作品ではない一方で、ジャズの聴き手には届いたアルバムだったことがうかがえる。後年は、静かな美しさと、ジョビンらしいメロディの精度が評価され、70年代前半の重要作として扱われることが多い。

1970年のジョビンは、すでにボサノヴァの中心人物として国際的な評価を得ていたが、『Stone Flower』ではその名声を土台にしつつ、CTI的な制作環境の中でよりジャズ寄りの表現を試している。ブラジル音楽の輪郭を保ちながら、アメリカのスタジオ・ジャズの方法論にもきちんと乗せた作品として、当時のクロスオーバーの流れをよく示す一枚だ。

盤について

今回のブラジル盤は1970年リリースで、オリジナルの時代感をそのまま持つ版だ。ジャケット表記には「Distribuído Pela」の印字が大文字で入っており、同内容の別版との違いがある。細かな表記差ではあるが、同じ作品でも流通や製造の事情で見え方が変わるのが、この時代のレコードらしいところでもある。

『Stone Flower』は、ジョビンのメロディ、CTIの録音美学、ブラジルとアメリカの演奏家の接点が、そのまま一枚にまとまった作品だ。派手さよりも構成のよさ、即効性よりも曲そのものの強さが残るアルバムとして聴こえる。

トラックリスト

  1. A1 Tereza Meu Amor
  2. A2 Chovendo Na Roseira
  3. A3 Garoto
  4. A4 Aquarela Do Brasil
  5. B1 Quebra-Pedra (Stone Flower)
  6. B2 Olha Maria
  7. B3 Andorinha
  8. B4 Entre A Cruz E A Caldeirinha
  9. B5 Sabia

動画

Share
記事一覧に戻る

あわせて聴きたい "Bossa Nova"

toast