Roberto Musci - Tower Of Silence (2016)
Roberto Musci『Tower Of Silence』について
イタリアの作曲家、マルチ奏者ロベルト・ムスキが歩んできた音響探究の軌跡を、オランダのMusic From Memoryが2016年にまとめ直した編集盤が『Tower Of Silence』だ。ミラノ生まれのムスキは、サックスとギターを学んだのち、1970年代半ばから世界各地を巡り、アフリカ、インド、中近東から極東までの音楽を吸収してきた人物として知られる。本作は、その長い活動の中で残された音源を、1983年から1997年、さらに2014年と2015年の未発表曲まで含めて再構成した内容になっている。
作品の位置づけ
この作品は、ムスキの代表作を一望するような性格が強い。収録元は1983年の『Water Messages on Desert Sand』、1987年の『Notes from the Desert』、1988年の『The Loa of Music』、1992年の作品、1997年の作品などにまたがる。つまり、特定の時期だけを切り取った再発ではなく、異なる年代の断片をひとつの流れに組み直した編集盤という性格がはっきりしている。Music From Memoryらしいアーカイブの掘り起こし方で、単なる復刻というより、再評価のための再編集といった印象が強い。
レーベル側がこうした作品を扱うときの特徴として、埋もれた録音を丁寧に現在の文脈へ戻してくる姿勢があるが、『Tower Of Silence』もその流れの中にある。オリジナル・リリース当時に広く流通した作品というより、耳の早いリスナーや実験音楽、ワールド・ミュージック周辺の文脈で語られてきた音源群を、2016年の時点でまとめて提示した作品といえる。
音の内容
収録曲は、フィールド録音、電子音、打楽器的なリズム、声の断片、民族楽器の響きが、比較的短い単位で入れ替わっていく構成が中心だ。アンビエント、ダウンテンポ、エクスペリメンタル、アフリカン、トライバルといったタグが付くのも自然で、実際の聴感としても、ひとつのスタイルに収まり切らない。旋律が前に出る曲もあれば、音の配置そのものを聴かせる曲もあり、曲ごとの役割がかなり違う。
たとえば「Nexus On The Beach」や「Claudia, Wilhelm R. & Me」は、編集盤の中でも印象が残りやすい曲として挙げられることが多い。前者はリズムと音響の組み立てが明快で、後者は人声や音の断片の扱いにムスキらしさが見える。こうした曲は、単独で聴いても成立する一方、アルバム全体の中では“異なる年代の録音がひとつの地図に重ねられていく”感覚を作っている。
通して聴くと、すぐに展開を追う作品ではなく、音の層が少しずつ見えてくるタイプだ。派手な盛り上がりより、素材の選び方や音の距離感に耳が向く。アフリカ音楽や中東、東南アジア系の音の断片を、そのまま引用するだけでなく、電子処理や編集で別の文脈に置き換えている点が特徴的だ。ムスキの仕事は、ワールド・ミュージックの紹介盤とも、純粋な電子音楽とも少し違い、その中間で独自の位置を取っている。
同時代とのつながり
この作品を聴くと、Chris Cutler、Elliott Sharp、Jon Rose、Keith Tippett といった、即興や実験の場で活動してきた音楽家たちの周辺とも響き合う部分がある。ムスキ自身もそうしたミュージシャンと共演歴があり、単独の作曲家というより、複数の文化圏や表現方法を横断する実践者として捉えると見えやすい。80年代から90年代にかけて、民族音楽と電子音響を往復する試みは少なくなかったが、ムスキの作品はその中でも資料性と個人史の濃さが際立つ。
また、彼がラジオで民族音楽や電子・実験音楽を紹介していた時期があることを踏まえると、本作は単に“作った音楽”ではなく、彼自身の聴取経験の集積としても読める。フィールド録音や収集した楽器、映像とのインターフェース開発など、活動の幅は広いが、『Tower Of Silence』ではそれらが散漫にならず、編集盤としてまとまった形で提示されている。
リリース情報と再発盤としての性格
2016年のオリジナル盤は、Music From MemoryからのGatefold仕様で、EU製造。盤面の刻印情報も明記されている。今回のリリースは、2016年時点での新しい編集盤として扱うのが自然で、オリジナルの各LPをそのまま置き換えるものではない。むしろ、年代の異なる作品群から選曲し直すことで、ムスキのキャリア全体を横断する入口になっている。
クレジットには、Giovanni Venosta、Chris Cutler、Giorgio Magnanensi、Roberto Zanisi、Claudio Gabbiani への謝辞も記されている。こうした記載からも、個人作品でありながら周辺の演奏家や制作環境との関係の中で成立していることがわかる。コンピレーションでありながら、単なる寄せ集めではなく、作者本人の意図とレーベルの編集眼が重なった一枚という印象だ。
まとめ
『Tower Of Silence』は、ロベルト・ムスキの長い活動のなかでも、特に1980年代から1990年代にかけての音源を軸に、未発表曲も交えて再構成した編集盤だ。民族音楽、電子音、実験音楽、アンビエント的な空気が同居しつつ、どれか一つに回収されない独自の構成が続く。ヒット曲を前提にした作品ではなく、むしろアーカイブの再提示として聴くと輪郭が見えやすい。Music From Memoryが得意とする再発掘の仕事の中でも、作家の履歴そのものを聴かせるタイプの一枚として記憶される内容だ。
トラックリスト
- A1 Improbably Music 3:00
- A2 Nexus On The Beach 6:11
- A3 Lidia After The Snow 2:28
- A4 Water Music 2:05
- A5 Woman Of Water And Music 5:24
- A6 Lullabies ... Mother Sings ... Father Plays ... 3:28
- B1 Rackrailway To... 3:48
- B2 Tamatave 6:12
- B3 Semar 5:26
- B4 Tower Of Silence 2:13
- B5 Claudia, Wilhelm R And Me 3:01
- C1 Voices Of The Ancient 2:10
- C2 Blue Garden 4:40
- C3 When A Dolphin Saves A Baby 3:33
- C4 Katak Dance For H Partch 2:45
- C5 Night Music 4:40
- C6 The Way Of Discreet Zen 3:37
- D1 Ghost Train 3:01
- D2 Kioko's Deck 5:54
- D3 Shadow Player 3:50
- D4 Empty Boulevard 2:03
- D5 The Ups And Downs Of Chewing Gum 3:54
- D6 A Tale For C 3:27
動画
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Roberto Musci & Giovanni Venosta - Nexus On The Beach
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Roberto Musci - Tamatave
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Roberto Musci - Claudia, Wilhelm R And Me
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Roberto Musci & Giovanni Venosta - Lullabies: mother sings, father plays...
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Roberto Musci - Loa Song
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Roberto Musci - Woman of water and music
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Roberto Musci - Tower Of Silence
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A Tale For C - Roberto Musci
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Roberto Musci - Lullabies... Mother Sings... Father Plays...
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Roberto Musci - Water Music