Ryuichi Sakamoto = 坂本龍一 - Thousand Knives Of = 千のナイフ (1978)
Ryuichi Sakamoto 1978

Ryuichi Sakamoto = 坂本龍一 - Thousand Knives Of = 千のナイフ (1978)

Electronic Classical Experimental Synth-pop Abstract Modern Classical

坂本龍一『Thousand Knives Of = 千のナイフ』について

『Thousand Knives Of = 千のナイフ』は、坂本龍一が1978年に発表した初のソロアルバム。日本コロムビア傘下のBetter Daysから出た作品で、坂本のキャリアを語るうえで出発点に置かれることの多い1枚だ。のちにYMOで広く知られる前夜の作品であり、電子音楽、現代音楽、ジャズ寄りの感触がひとつの盤面に収まっている。

制作の背景と位置づけ

録音は1978年4月から7月にかけて、東京の日本コロムビア・スタジオで行われた。クレジットを見ると、Moog III-CにRoland MC-8 Micro Composer、Poly Moog、Mini Moog、Micro Moog、Oberheim Eight Voice、ARP Odyssey、KORG PS-3100、VC-10 Vocoder、SQ-10、さらにSyn-Drums、アコースティック・ピアノ、マリンバまで並ぶ。かなり早い時期に、シンセサイザーとコンピュータ制御を本格的に組み合わせた記録として読める。

坂本は当時、昼はスタジオ・ミュージシャンとして活動し、夜から朝にかけてこの作品の制作に時間を割いていたという。延べ339時間を費やしたという制作の話も残っている。参加者には渡辺香津美、山下達郎、高橋悠治、細野晴臣の名前が見える。坂本の周囲に、当時の日本のポップス、ジャズ、前衛、実験音楽の人脈が集まっていたことが、クレジットからも分かる。

収録内容と聴きどころ

アナログ盤ではSide Aが24分45秒の1曲として表記されているが、盤面上は3つのバンドに分かれている。CD盤ではその扱いが異なる。表題曲「Thousand Knives」は、このアルバムを代表する曲として後年も扱われ、YMOのライヴや作品群でもセルフカバーされている。「THE END OF ASIA」も同様に、坂本の初期レパートリーとして定着した。

実際に聴くと、音の中心はシンセサイザーの層とリズムの反復にある。メロディを前に出す場面もあるが、それよりも音色の切り替えや、機械的なパターンの積み重ねが曲の骨格を作っている。アコースティック・ピアノやマリンバが入ることで、電子音だけで押し切らない構成になっており、硬い質感の中に手触りが残る。1978年の時点でこれだけ多様な電子楽器を使い、しかも楽曲としてまとめている点が、この作品の核だ。

当時の反応と後年の評価

発売当初の商業的な反応は大きくなかったと伝えられている。初回プレス500枚のうち売れたのがわずか2枚で、残りが返品されたという逸話もある。内容が実験的で、当時の日本のポップスの感覚からは距離があったことが背景にある。とはいえ、その先にある電子音楽の流れや、YMO以後の日本のシンセ・ミュージックを考えると、この1枚の持つ意味はかなり大きい。

『千のナイフ』という題名は、ベルギーの詩人アンリ・ミショーの著作に由来する。タイトルの時点で、一般的なポップ・アルバムとは違う緊張感がある。ライナーノーツでも、坂本自身の思想がかなり強い言葉で綴られていたことが知られている。作品全体を通して、単なるデビュー作というより、坂本が電子音楽家として何を試したかったかを示す記録として読むほうが自然だ。

同時代とのつながり

1970年代後半の日本では、細野晴臣や高橋幸宏、矢野顕子周辺の動き、あるいはジャズや現代音楽の要素を取り込んだ作品が少しずつ広がっていた。その流れの中で見ると、本作はYMO結成前夜の実験としても、坂本龍一個人の出発点としても位置づけやすい。海外の電子音楽やミニマル・ミュージックの影響を日本のスタジオ環境で具体化した記録、という見方もできる。

のちに坂本が映画音楽やソロ作品で見せる、音の配置の精密さや、電子音と生楽器の接続の仕方は、この時点ですでに輪郭がある。『Thousand Knives Of = 千のナイフ』は、単独で完結した作品でありながら、同時にその後の大きな流れの起点にもなっている。

トラックリスト

  1. A1 Thousand Knives 9:35
  2. A2 Island Of Woods 9:45
  3. A3 Grasshoppers 5:15
  4. B1 Das Neue Japanische Elektronische Volkslied 8:03
  5. B2 Plastic Bamboo 6:28
  6. B3 The End Of Asia 6:17

動画プレイリスト

公開: 2026年8月
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