Yonder Pond - Pondering Aloud (2017)
Yonder Pond『Pondering Aloud』レビュー
スイス・バーゼルを拠点に活動するドラマー、Rémy Sträuliによるソロ・プロジェクト、Yonder Pondの『Pondering Aloud』は、2017年に発表された作品だ。レーベルを介さない自主制作盤として出ており、作品全体もかなり個人的な手触りを持っている。プログ・ロックを軸にしながら、ポップの分かりやすさやサイケデリックな遊び心を取り込み、さらにコンセプト性を前面に出したアルバムとして紹介されている。
この作品は、落ち込んだじゃがいも、いたずら好きのうさぎ、創作意欲の喪失、現代社会で居場所を見失うアーティストの姿といった要素を織り込んだ物語として語られている。説明文だけでもかなり風変わりだが、実際に各レビューでも、そのユーモアと構成の細かさが大きな特徴として扱われている。プログ・ロックの文脈に置きながらも、単に技巧を見せる作品ではなく、曲そのものの輪郭がはっきりしたアルバムという印象だ。
作品の立ち位置
Yonder Pondは、Sträuliの音楽的嗜好をそのまま形にしたようなプロジェクトとして見えてくる。本人の40歳をきっかけに構想されたという経緯もあり、節目の年に自分の好きな要素をまとめて提示した作品、と捉えると分かりやすい。ビートルズへの目配せ、70年代プログ・ロックの組み立て、そこにサイケデリックな色づけを加える流れが、作品の中心にある。
同時代のプログ系作品の中でも、本作はかなりメロディ重視の部類に入る。レビューでは、Beatles、Genesis、Camel、XTC、Moody Blues、Gongといった名前が挙がっているが、どれか一つに寄せるというより、それぞれの要素を軽やかに取り込んでいる印象だ。特に、複雑な展開を持ちながらも、歌のフックが前に出る点がこの作品の分かりやすい軸になっている。
サウンドの特徴
音の作りは、派手な演奏技術を誇示するタイプではない。むしろ、リズムの置き方や曲の切り替え方、メロディの運び方に工夫が見える。プログ・ロックらしい変化はあるが、難解さを押し出すより、聴き進めるうちに自然と場面が変わっていく設計だ。そこにやや乾いたユーモアが乗るため、重さよりも機微の多い作品として耳に残る。
また、レビューで繰り返し触れられているのが、少し外した感覚とキャッチーさの同居だ。奇妙な設定や少しずれた語り口がある一方で、メロディはかなり覚えやすい。結果として、実験性が前に出すぎず、曲単位での印象がしっかり残る。サイケデリックといっても、音の厚みで包み込むというより、歌と展開の妙で引っ張るタイプに近い。
注目曲について
本作はコンセプト・アルバムとして紹介されているため、単独ヒット曲のような扱いよりも、曲ごとの役割が大きい作品だ。とはいえ、アルバム全体を通して聴くと、いくつかの曲は特に印象に残りやすい。まず耳に入ってくるのは、歌のメロディが前面に出る場面だ。Sträuliのボーカルは、派手に押し切るのではなく、輪郭を崩さずにフレーズを積み重ねていくタイプで、そこに親しみやすさがある。レビューで「明快だが独自性がある」と評されているのも、この歌の運び方を指しているように見える。
もう一つの見どころは、場面転換のある曲だ。プログ・ロックらしく複数のパートを持ちながら、各セクションが唐突に切り離されるのではなく、物語の流れとしてつながっていく。ジャズやフォーク、アヴァンギャルドの気配が顔を出すのもこうした曲で、単なる引用ではなく、曲の中に小さな違和感として組み込まれている。結果として、聴き終えたあとに「何をやっていたのか」が断片的に残るのではなく、ひとつの筋立てとして記憶に残る作りになっている。
評価と受け止められ方
リリース当時の反応はかなり好意的だった。スイスのレビューでは13/15点と高く評価され、英独米のプログ系メディアでも、歌と構成の巧さ、60年代的な遊び心、サイケデリックな感触が強みとして挙げられている。特に「The Beatlesが1970年のMoody BluesやGenesisと組んだようだ」といった言い回しは、本作の立ち位置を端的に示している。
商業的な大ヒット作というより、プログ系リスナーの間で評価される自主制作アルバムという性格が強い。だが、そのぶん作者の意図が見えやすく、作品の輪郭も明確だ。大きく広げるより、好きな要素を丁寧に並べて一枚にした作品として、2017年のスイス発プログ作品の中でも独特の存在感を持っている。
まとめ
『Pondering Aloud』は、Yonder Pondというソロ・プロジェクトの個性がそのまま出たアルバムだ。プログ・ロックの構成力、ポップの分かりやすさ、サイケデリックな遊び心、そしてユーモアをひとつにまとめ、しかも歌ものとしての聴きやすさも保っている。技巧だけで押すのではなく、曲の表情と物語の流れで聴かせるタイプの作品として、記憶に残る一枚だ。
トラックリスト
- Side A
- A1 Time Flies 5:18
- A2 Rabbitt 5:41
- A3 Off The Balloon 3:10
- A4 Aviary Lament 2:56
- A5 Eggs Of Power 2:56
- Side B
- B1 Label Boss 5:07
- B2 The Suffering Artist 5:40
- B3 Everyone Is Banging The Drums 10:27
- Single Side A
- C1 Who Do They Think They Are? 4:49
- Single Side B
- D1 The Mope 4:23