Grace Jones - Nightclubbing (1981)
Grace Jones『Nightclubbing』(1981年)レビュー
Grace Jonesの『Nightclubbing』は、1981年に発表された5作目のスタジオ・アルバムで、彼女のキャリアの中でも特に重要な位置を占める作品だ。ディスコ期のイメージを引きずる存在から、ニューウェイブ以降の時代感覚をまとったアーティストへと視線を切り替えさせた一枚であり、クラブ・ミュージック、ダブ、ファンク、シンセポップの要素が、ひとつの作品の中で整理されている。
録音はバハマのCompass Point Studiosで行われた。ここは当時のIsland Records周辺の制作拠点としても知られ、クリス・ブラックウェルとアレックス・サドキンがプロデュースを担当。演奏面では、Sly & Robbieを中心にしたCompass Point Allstarsのサウンドが作品全体を支えている。レゲエ由来の低音の重さ、打ち込み的に感じられるリズムの硬さ、空間を大きく取ったミックスが、曲ごとの輪郭をはっきりさせている。
アルバムの立ち位置
『Nightclubbing』は、Grace Jonesにとって“個性派のディスコ歌手”という見え方を超え、アルバム単位で語られる存在へと押し上げた作品として扱われることが多い。前作までに見えていたモデル的な華やかさやナイトクラブのイメージは残しつつ、ここでは音の設計そのものがより明確になっている。歌の表情を前に出すというより、声をリズムと並べて配置する作りが印象的だ。
収録曲はカバーとオリジナルが混在する。Bill Withers、Iggy Pop、Sting、Astor Piazzollaといった幅広いソースをまとめながら、Grace Jones自身が共作した曲も3曲入っている。素材の幅が広いのに、全体の温度がばらけないのは、アレンジの統一感が強いからだろう。
代表曲と聴きどころ
タイトル曲「Nightclubbing」は、このアルバムの顔として語られることが多い。Iggy Popの原曲を下敷きにしながら、ここではもっと無機質で、歩く速度のようなテンポ感が前に出る。歌い方も感情を大きく振らず、言葉の切れ方で重心を作っていくタイプだ。
「Pull Up to the Bumper」は本作の中でも特に知られた曲で、後年までGrace Jonesの代表曲として扱われている。ベースラインとギターの刻みが前面に出て、クラブの現場で機能する構造がはっきりしている一方、歌のフレーズには彼女らしい強い存在感がある。ポップソングとしての分かりやすさと、当時のダンス・ミュージックの硬さが同居している。
「Demolition Man」も重要だ。のちにStingがThe Police解散後の活動でも取り上げたことで知られるが、ここではGrace Jonesの低い声と、切迫感のあるバンド・サウンドが合わさり、曲の輪郭がかなり鋭く出ている。ほかにも「Walking in the Rain」や「Feel Up」など、アルバムの流れを支える曲が並び、単発のヒットだけでは終わらない構成になっている。
音像と同時代性
この時期のIsland Records周辺には、レゲエ、ダブ、ポスト・パンク、ニューウェイブが交差する空気があった。『Nightclubbing』はその中でも、ダンスフロア向けの推進力を保ちながら、音を削ぎ落としていく方向に進んでいる。派手に鳴らすというより、空白を残しながらリズムを立てる作りで、同時代のクラブ・サウンドの中でもかなり整理された印象がある。
Grace Jonesの声は、この作品で特に機能的に使われている。メロディを伸びやかに聴かせるというより、短い言葉を区切って置くことで、曲の構造を決めていく感じだ。そこが、ディスコの歌姫というより、身体性を持ったパフォーマーとしての彼女を強く見せている。後のアーティストでいえば、音とヴィジュアルの両方を含めて自己像を組み立てるタイプの表現に通じるものがある。
US盤について
このUS盤はIsland RecordsのILPS 9624で、1981年リリース。Runoutには✲スタンプがあり、STERLINGもスタンプ仕様とされている。黒いカスタム・インナーが付属し、盤はアメリカ国内で製造されたもの。クレジット上はCompass Point Studioでの録音・ミックス、© & ℗ 1981 Island Records Inc.、そしてWarner Bros. Records Inc.によるマーケティング表記が見られる。初期USプレスには、裏ジャケットの組版やラベルの表記が異なる別バージョンも存在する。
『Nightclubbing』は、Grace Jonesの作品群の中でも、音楽性とイメージが強く結びついたアルバムだ。クラブ、レゲエ、ファンク、ニューウェイブの要素を、ひとりのアーティストの身体性にまとめ上げた記録として、今も位置づけやすい一枚である。
トラックリスト
- A1 Walking In The Rain 4:18
- A2 Pull Up To The Bumper 4:41
- A3 Use Me 5:04
- A4 Nightclubbing 5:06
- B1 Art Groupie 2:39
- B2 I've Seen That Face Before (Libertango) 4:30
- B3 Feel Up 4:03
- B4 Demolition Man 4:03
- B5 I've Done It Again 3:51