Joy Division - Closer (1980)
Joy Division『Closer』(1980)レビュー
Joy Divisionの『Closer』は、1980年にUKのFactoryから発表されたセカンド・アルバムであり、同時にバンド最後のスタジオ・アルバムでもある。前作『Unknown Pleasures』で示した冷たい緊張感を引き継ぎながら、こちらでは音の隙間や残響、リズムの硬さがさらに際立っている。録音は1980年3月18日から30日まで、ロンドンのBritannia Row Studiosで行われた。発売は同年7月18日。Ian Curtisの死から2か月後という時期もあって、この作品はJoy Divisionのディスコグラフィの中でも特別な位置を占めている。
Factoryらしい簡素で機能的なパッケージングも印象的だ。ジャケットには、Bernard Pierre Wolffが1978年に撮影した、イタリア・ジェノヴァのStaglieno Cemeteryの彫刻写真が使われている。音だけでなく、視覚面でもアルバム全体の空気を決めている作品だと言える。UK盤はFACT XXV表記で、厚手でざらついたカードスリーブ、テクスチャのあるインナーという仕様。初期プレスには透過性のある赤または緑のビニールもあり、黒盤と見分けがつきにくいものもある。こうした物理的な作り込みも、Factory作品らしさのひとつだ。
バンドの中での『Closer』の位置づけ
Joy Divisionは1976年にソルフォードで結成され、Ian Curtisの存在感を軸に短い活動期間で強い痕跡を残したバンドだ。『Closer』は、その集大成として語られることが多い。前作よりも曲の構造が整理され、演奏の輪郭もはっきりしている一方で、内容はより内面へ向かっている。ポストパンクの枠組みの中でも、The CureやSiouxsie and the Banshees、Cabaret Voltaire、Wireと並べて語られることがあるが、Joy Divisionはその中でも特にリズムの反復と音の空白の扱いが独特だ。
実際に聴くと、派手な展開が少ないのに曲ごとの温度差が大きい。低音のうなり、乾いたドラム、ギターの鋭い音色、Curtisの声の近さが、1曲ごとに違う距離感を作る。音が前に出るというより、空間の中に配置されていく感覚がある。アルバム全体としては、緊張と静けさが交互に現れる構成で、最後まで集中を切らせない。
注目曲「Atrocity Exhibition」
冒頭曲「Atrocity Exhibition」は、このアルバムの入口として非常に重要だ。タイトルはJ.G. Ballardの小説から取られており、Joy Divisionが単なるバンド名以上に、文学や都市感覚と結びついていたことを示している。曲は重いビートで始まり、ギターとベースが少しずつ圧を増していく。演奏の密度は高いのに、音数の多さではなく、配置の妙で引き込むタイプだ。
Ian Curtisのボーカルは、ここでは感情を押し出すというより、言葉を一つずつ置いていくように聞こえる。しかもその語感が、曲の反復するリズムとぶつかるのではなく、噛み合ってしまうところが面白い。アルバムの最初の1曲として、Joy Divisionが持っていた不穏さと知性を一気に示している。
注目曲「Isolation」
「Isolation」は、比較的リズムが明快で、アルバムの中では輪郭をつかみやすい曲だ。シンセの使い方も含めて、後のニュー・ウェイヴやダーク・ウェイヴに通じる要素が見える。とはいえ、ただ聴きやすいだけではなく、歌詞と声の響きが曲の明るさを少しずつ曇らせていく。
この曲で耳に残るのは、整った進行の中にある違和感だ。ベースが支える土台は安定しているのに、上に乗る音や声がどこか落ち着かない。Joy Divisionの楽曲はしばしばそうだが、「Isolation」ではその性質がはっきり出ている。タイトルどおりの孤立感が、直接的な表現よりも構造そのものから伝わってくる。
注目曲「Heart and Soul」「The Eternal」
中盤の「Heart and Soul」は、アルバムの中でもリズムの推進力が強い。反復の中で少しずつ熱が上がるタイプの曲で、ダンス・ミュージックの文脈からJoy Divisionを見る時にも重要な1曲だろう。後のNew Orderへつながる要素を感じる人も多いはずだが、ここではまだ冷たい質感が支配している。
終盤の「The Eternal」は、アルバムの流れを締める役割が大きい。曲調は静かで、音の余白が広い。Curtisの声も含めて、ここではドラマを作るというより、時間の流れを止めるような感触がある。『Closer』というタイトルが示す距離の近さは、単なる親密さではなく、むしろ逃れられない接近のようにも聞こえる。
作品の背景とその後
『Closer』は、Ian Curtisの死の直後に世に出たことで、どうしてもその事実と切り離して語りにくい作品だ。ただ、音楽そのものを聴くと、当時のManchester周辺のポストパンクが持っていた実験性や硬質さを、かなり高い精度で結晶化したアルバムでもある。Factoryの美学、Martin Hannettのプロダクション、Peter Savilleのアートワークが一体になった作品として見ると、その完成度の高さが分かりやすい。
UK初期盤にはA1/B-1マトリクスがあり、側Aには「OLD BLUE?」の刻印がある。のちの再発ではマトリクスやレーベル表記、盤質、スリーブ仕様が変わっていくが、オリジナル期のFactory盤は、音だけでなく物としての存在感が強い。『Closer』は、Joy Divisionの終着点であると同時に、80年代以降のインディー・ロックやオルタナティヴの感覚を先取りした記録として残っている。
トラックリスト
- A1 Atrocity Exhibition 6:03
- A2 Isolation 2:53
- A3 Passover 4:44
- A4 Colony 3:52
- A5 A Means To An End 4:04
- B1 Heart And Soul 5:48
- B2 Twenty Four Hours 4:26
- B3 The Eternal 6:01
- B4 Decades 6:08
動画
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Atrocity Exhibition (2007 Remaster)
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Isolation (2007 Remaster)
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Passover (2007 Remaster)
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Colony (2007 Remaster)
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A Means to an End (2007 Remaster)
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Heart and Soul (2007 Remaster)
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Twenty Four Hours (2007 Remaster)
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The Eternal (2007 Remaster)
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Decades (2007 Remaster)