Nelly Furtado - Loose (2006)
Nelly Furtado『Loose』:ポップの外側へ大きく踏み出した2006年作
カナダ出身のシンガー/ソングライター、Nelly Furtadoが2006年に発表した3作目のアルバム『Loose』は、それまでのフォーキーで内省的な作風から一気に舵を切った作品だ。前2作で見せていたアコースティック寄りの質感や層のあるサウンドを脇に置き、Timbalandを中心とする当時のR&B/ヒップホップの制作感覚を前面に出している。Geffen RecordsからのUSリリースで、タイトル通り2006年のオリジナル盤として登場した。
作品の位置づけ
『Loose』は、Nelly Furtadoにとって大きな転機になったアルバムだ。本人はポップ・レコードを作ることで、自分がより洗練された音楽を実現できることを示したかったと語っている。実際、この作品ではそれまでのオルタナティブ寄りの印象よりも、都会的で輪郭のはっきりしたビート、短いフレーズを切り返すボーカル、クラブやラジオの両方に届く作りが目立つ。2000年代半ばのポップとR&Bの接点を、そのままアルバム単位に落とし込んだような内容だ。
制作面ではTimbalandとDanjaの存在が大きい。Timbalandは当時すでにMissy ElliottやAaliyah、Justin Timberlake周辺で知られたプロデューサーで、ここでも低音の効いたリズムや隙間のあるビート設計がアルバム全体を支えている。Nelly Furtadoの声は、その上で軽やかに動きつつ、時に鋭く、時に親しみやすく前に出る。歌い方の抑揚が細かく変わるので、ビートの強い曲でも単なるトラック主導にはならない。
ヒット曲とアルバムの推進力
本作を語るうえで外せないのが「Promiscuous」と「Say It Right」だ。「Promiscuous」はTimbalandとの掛け合いが印象的なデュエットで、軽い駆け引きのようなやり取りが曲の骨格になっている。全米Billboard Hot 100で6週連続1位を記録し、アルバムの顔として強い存在感を残した。「Say It Right」も2007年2月に1位へ到達し、こちらはより空間の広いサウンドと、フレーズの反復で引っ張る構成が耳に残る。
そのほかにも、ラテン色のある「No Hay Igual」、スペイン語を交えた「Te Busque」、しっとりした「In God’s Hands」など、アルバム内の振れ幅はかなり広い。特に「Te Busque」は、制作陣や録音場所のクレジットから見ても手をかけた一曲で、アルバムの中で異なる温度を持つ。全体としてはポップ寄りだが、単純な一色に収まらない構成になっている。
同時代の文脈
2006年前後のポップ・シーンでは、R&Bやヒップホップの要素を取り込んだ作品が多く、Justin TimberlakeやMissy Elliott周辺の流れと接続しながら、主流ポップの音像が更新されていた。『Loose』もその流れの中に置ける。とはいえ、Nelly Furtadoの場合は元々のシンガー・ソングライター的な感覚が残っていて、ビートに乗りながらも歌の輪郭が埋もれにくい。ここが、純粋なクラブ向け作品とは少し違うところだ。
批評面でも概ね好意的に受け止められ、AllMusicはTimbalandがNelly Furtadoを創造面でも商業面でも再活性化させたと評している。2007年のBRIT Awardsでは最優秀国際女性アーティスト賞も受賞している。売上面でも世界で大きな成功を収め、彼女のキャリアの中で最も広いリーチを持ったアルバムとして知られている。
聴きどころ
このアルバムの面白さは、ビートの強さだけでは終わらないところにある。曲ごとに声の置き方が変わり、語りかけるような箇所と、リズムの隙間を縫うような箇所がはっきり分かれる。派手なフックが前に出る曲でも、細部には抑えたニュアンスが残るので、何度か聴くとアレンジの切り替えが見えてくる。ラテン、ポップ、R&B、ヒップホップの要素が並ぶだけでなく、曲ごとにその比重が変わるため、アルバム全体に流れがある。
2006年のUS盤として出たこの『Loose』は、Nelly Furtadoがアーティスト像を更新した作品として見やすい。前作までの印象を知っているほど、その変化ははっきり感じられるはずだ。Timbaland主導の2000年代ポップの中でも、Nelly Furtadoの個性がきちんと残っている点が、この作品の核になっている。
トラックリスト
- A1 Afraid 3:35
- A2 Maneater 4:25
- A3 Promiscuous 4:02
- B1 Glow 4:02
- B2 Showtime 4:15
- B3 No Hay Igual 3:35
- C1 Te Busque 3:38
- C2 Say It Right 3:43
- C3 Do It 3:41
- D1 In God's Hands 4:54
- D2 Wait For You 5:11
- D3 All Good Things (Come To An End) 5:11
- Bonus Track
- D4 Te Busque (Spanish Version) 3:38