Kanye West - My Beautiful Dark Twisted Fantasy (2010)
Kanye West 2010

Kanye West - My Beautiful Dark Twisted Fantasy (2010)

Hip Hop Avantgarde Contemporary R&B Pop Rap

Kanye West『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(2010)レビュー

Kanye Westの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』は、2010年に発表された5作目のスタジオ・アルバムで、彼のキャリアの中でも特に大きな節目に置かれる作品だ。2009年のMTV VMAでの騒動のあと、世間の視線が一気に厳しくなった状況から制作が始まり、ハワイのスタジオに自分を隔離するような形で作業が進められた。多数のミュージシャンやプロデューサーを集め、共同生活に近い環境のなかで楽曲を組み立てていった制作背景も、このアルバムの特異さを支えている。

完成した作品は、ヒップホップを軸にしながら、Contemporary R&B、Pop Rap、Avantgardeの要素を大きく抱え込んだ内容になっている。Mike Dean、No I.D.、Jeff Bhaskerらが制作に参加し、Kanye West自身も中心に立ちながら、音の細部まで強く作り込まれている。収録曲はどれも密度が高く、ビート、サンプリング、ストリングス、コーラス、シンセの重なりがかなり綿密だ。

作品の位置づけ

このアルバムは、Kanye Westにとって立て直しの意味を持つ一枚として語られることが多い。『808s & Heartbreak』で見せた内省的な方向性を引き継ぎつつ、より大きなスケールと装飾性を持たせた作りで、過去作の延長線上にありながら、明確に別の段階へ進んだ印象がある。Roc-A-Fella Recordsからのリリースという点でも、彼がプロデューサーから表舞台のアーティストへ移行してきた流れを踏まえると、ひとつの到達点として見やすい。

同時代のヒップホップの中でも、この作品は音の情報量がかなり多い。硬質なドラムと華やかな編曲を同居させる作りは、同時期のメインストリーム作品と比べてもかなり手が込んでいる。Jay-Z周辺のRoc-A-Fella的な系譜を持ちながら、より実験的で、かつ大衆性も落としていない点が特徴的だ。

聴きどころ

実際に聴くと、まず音の層の厚さが目立つ。冒頭から終盤まで、曲ごとに空気が変わるのに、アルバム全体の緊張感は途切れない。派手なトラックの中にも、細かい打ち込みやコーラスの配置、声の処理が入っていて、ヘッドフォンで聴くと情報の多さがかなり分かりやすい。

代表曲としては「Power」「Runaway」「All of the Lights」あたりが挙げやすい。「Power」は重いドラムとサンプリングの使い方が印象に残る曲で、アルバムの攻撃性を象徴している。「All of the Lights」は豪華な参加陣と派手な展開で、シングルとしての広がりが強い。「Runaway」は35分の短編映画にもつながる楽曲で、ピアノの反復と自己批評的な歌詞がアルバムの中心にある。

特に「Runaway」は、この作品の自己神話化と自己崩壊の両方を引き受けるような曲として読まれやすい。歌としての分かりやすさよりも、長い余韻や構成の変化が先に来る作りで、アルバム全体の性格をよく表している。

評価と反響

批評面では非常に高い評価を受け、Metacriticでは97点を記録し、Pitchforkも満点の10.0を付けた。2010年のヒップホップ作品の中でも、評価の高さが特に際立つ一枚として扱われている。商業面でもBillboard 200で初登場1位を獲得し、初週49万6千枚を売り上げた。Kanye Westにとっては4作連続の全米1位アルバムとなっている。

ジャケットもよく知られている。George Condoによる、翼を持つ生き物にまたがられた裸のKanye Westを描いた挑発的なアートワークで、当時かなり話題になった。Walmartで販売禁止となり、AppleのiTunesではぼかし処理が施されたことも含めて、音楽作品そのものだけでなく、発表のされ方まで含めて記憶されている。

この盤について

今回のUS盤は、ダイカットのトライフォールド・スリーブ仕様で、5枚のインサートと24インチ四方のGeorge Condoアートワークの大型ポスターが付属する。コレクションとしてもかなり存在感のあるパッケージだ。マスターノートにある通り、このタイトルは版の違いがあるため、実物を判別する際はランアウトの確認が重要になる。

『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』は、Kanye Westの作品群の中でも、制作背景、音の密度、批評的評価、商業的成功がそろって強く記録されたアルバムだ。ヒップホップの枠内に収めにくい作りでありながら、曲単位ではしっかりフックを持たせているところに、この作品の強さがある。2010年という年の空気も含めて、かなり鮮明に残る一枚。

トラックリスト

  1. A1 Dark Fantasy 4:40
  2. A2 Gorgeous 5:57
  3. B1 Power 4:52
  4. B2 All Of The Lights (Interlude) 1:02
  5. B3 All Of The Lights 4:59
  6. C Monster 6:18
  7. D1 So Appalled 6:38
  8. D2 Devil In A New Dress 5:52
  9. E1 Runaway 9:08
  10. E2 Hell Of A Life 5:27
  11. F1 Blame Game 7:49
  12. F2 Lost In The World 4:16
  13. F3 Who Will Survive In America 1:38

動画プレイリスト

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