Nick Drake - Bryter Layter (1971)
Nick Drake『Bryter Layter』――静けさの中に広がる、2作目ならではの輪郭
Nick Drakeの『Bryter Layter』は、1971年にUKのIsland Recordsから発表された2作目のアルバムだ。前作『Five Leaves Left』で示した内省的なフォークの感触を引き継ぎながら、こちらではリズム隊、鍵盤、管楽器、弦の要素が加わり、音の広がりが一段とはっきりしている。Nick Drakeの作品の中でも、いちばん外へ開いた印象を持つ一枚として語られることが多い。
制作にはJoe BoydとJohn Woodが関わり、Robert Kirbyによる弦編曲も重要な役割を担っている。さらにJohn CaleやFairport Convention周辺の演奏家が参加しており、シンガー・ソングライターの弾き語りという枠だけでは収まりにくい内容になっている。とはいえ、中心にあるのはあくまでNick Drakeのギターと声で、その繊細な運びが少しずつ周囲の楽器に支えられていく構図だ。
アルバムの位置づけ
Nick Drakeは1948年生まれのイギリスのフォーク系シンガー・ソングライターで、このアルバムは生前に出した3作のうちの2枚目にあたる。商業的には大きな成功につながらなかったが、後年の再評価によって存在感が強まった作品でもある。全英アルバムチャートでは発売当時に反応が限定的だった一方、2013年と2019年には再評価を背景にチャート入りしている。
同時代のUKフォークと比べると、『Bryter Layter』は土の匂いが強い弾き語り盤というより、室内楽やジャズ、ポップの要素が入り込んだ作りに近い。Fairport Convention周辺の流れや、より都会的なソングライティングの感触ともつながるが、Nick Drake自身の歌は最後まで淡々としていて、そこがこの作品の独自性になっている。
収録曲の聴きどころ
冒頭の「Introduction」は短いインストゥルメンタルだが、アルバム全体の空気を先に示す役割がある。その後の「Hazey Jane I」「At the Chime of a City Clock」あたりで、前作よりもリズムの輪郭が見えやすくなる。特に「At the Chime of a City Clock」は、タイトルどおり都市の時間感覚を思わせる流れがあり、Nick Drakeの作品の中では比較的外向きな印象を受ける。
「One of These Things First」は、歌詞の並びとメロディの運びがよく知られている曲で、アルバムの代表曲として挙げられることが多い。ここでは軽いピアノや編曲が、Nick Drakeの声を前に出しすぎず、短いフレーズの反復に独特の重みを与えている。「Northern Sky」は本作を語るうえで外せない一曲で、穏やかな歌とやわらかい伴奏が素直に重なる。後年まで語られるのも納得できる、アルバムの中心的存在だ。
後半では「Fly」での弦の使い方が印象に残る。装飾はあるが、音数で押すわけではなく、空間を残したまま進むのがこの作品らしい。「Poor Boy」ではより変化のあるリズム感が出て、Nick Drakeのアルバムとしては少し意外な表情も見える。終盤の「Sunday」「From the Morning」では、静かな着地へ向かう流れがはっきりしていて、全体を通して聴いたときのまとまりを作っている。
初回盤の特徴
1971年のUK初回盤は、テクスチャードのジャケットと、ピンクの縁取りとヤシの木の入ったIslandラベルが特徴だ。後年の再発盤とは、曲の長さ表記、Island Records Ltd.の記載、Joe Boydクレジットの改行位置、A面・B面表記、STEREO表記などに違いがある。コレクターの間では、このあたりの差異が識別点として扱われている。
総括
『Bryter Layter』は、Nick Drakeの作品群の中で、もっとも編曲が広がりを見せたアルバムのひとつだ。だが、その広がりは派手さではなく、あくまで細い線の重なりとして現れる。歌、ギター、弦、鍵盤、管楽器がそれぞれ前に出すぎず、ひとつの静かな空間を作っているところに、この作品の核がある。
発売当時は広く受け止められたわけではないが、のちに「発見されたアルバム」として評価が定着していった流れも、この作品の性格と重なる。Nick Drakeの内向的な歌と、少しだけ外へ開いた編曲。その間にある緊張感が、『Bryter Layter』を長く聴かれる一枚にしている。
トラックリスト
- A1 Introduction 1:33
- A2 Hazey Jane II 3:41
- A3 At The Chime Of A City Clock 4:42
- A4 One Of These Things First 4:46
- A5 Hazey Jane I 4:24
- B1 Bryter Layter 3:16
- B2 Fly 2:56
- B3 Poor Boy 6:30
- B4 Northern Sky 3:42
- B5 Sunday 3:39