Alan Stivell - Trema'n Inis = Vers L'ile (1976)
Alan Stivell 1976

Alan Stivell - Trema'n Inis = Vers L'ile (1976)

Rock Pop Folk, World, & Country Folk Acoustic

Alan Stivell『Trema'n Inis = Vers L'ile』(1976)

Alan Stivellは、ブルターニュの伝統音楽をロック、ポップス、フォークの文脈へとつなぎ直した存在として知られるマルチ奏者である。本作『Trema'n Inis = Vers L'ile』は1976年に登場した作品で、カナダ盤も同年にリリースされている。作品名からも分かるように、ブルターニュ語とフランス語を併記したタイトルで、島へ向かうというイメージを前面に出した一枚だ。Alan Stivellが持つケルト・ハープのイメージを軸にしながら、アコースティックな響きとフォークの語り口を中心に組み立てられた作品として受け取れる。

1970年代半ばのAlan Stivellは、単なる地方色の紹介にとどまらず、ケルト圏の音楽を現代の録音作品として成立させていく段階にある。本作もその流れの中に置ける。1960年代末から70年代前半にかけてのケルト・リバイバル、ブリティッシュ・フォーク、ヨーロッパのアコースティック志向といった時代背景の中で聴くと、同時代のFairport ConventionやPentangle、あるいはアイルランド側の伝統回帰とは別の地点に立ちながら、同じく伝統を現在形で鳴らす試みとして見えてくる。

作品の輪郭

この盤は、ジャンル表記としてはRock、Pop、Folk、World & Countryにまたがるが、実際の聴感ではアコースティックな骨格がかなりはっきりしている。ギター、ハープ、歌を中心に、装飾を増やしすぎずに曲の流れを保っていく作りが印象に残る。録音年代らしい響きの厚みはあるが、音の密度で押すタイプではなく、旋律と声の運びを前に出す構成だ。Alan Stivellの作品群の中でも、ケルト音楽の象徴性とポップ・ソングとしてのまとまりの両方を意識した一枚といえる。

カナダ盤のPolydor、カタログ番号2424 159という体裁も、1970年代中盤のPolyGram系リリースらしい整った仕様で、当時の国際流通に乗った作品であることが分かる。1976年という年は、Polydorのラベル表記や流通体系が大きく変わる前夜でもあり、同時代の欧州盤らしい空気をそのまま持っている点も興味深い。

冒頭から見えるAlan Stivellらしさ

本作を聴くと、まず歌と旋律の置き方にAlan Stivellらしさがある。メロディを大きく誇張せず、言葉のリズムと楽器の響きを並走させる作りで、ブルターニュ語やフランス語の響きが自然に耳に入ってくる。ハープの存在感も大きく、単なる伴奏ではなく、曲全体の呼吸を決める役割を担っているように聴こえる。ケルト楽器を前面に出しながらも、民俗音楽の資料的な提示ではなく、ポピュラー音楽として流れを保つところに、この時期のAlan Stivellの強みがある。

同時代のフォーク作品と比べると、演奏の派手さよりも、曲の中にある土地の感覚をどう残すかに重心がある。ブルターニュの伝承を現代の録音に移す作業は、70年代のヨーロッパでは各地で進んでいたが、Alan Stivellはその中でも、ハープを中心に据えた独自性が明確だ。本作でもその軸はぶれず、アコースティックな編成の中で歌が前へ出てくる。

注目したい聴きどころ

タイトル曲「Trema'n Inis」は、本作の方向性をそのまま示すような位置づけにある。島へ向かう、あるいは島を目指すという主題は、旅、帰属、憧れといった感覚を含みやすいが、この曲でもそうした要素が過度に説明されることなく、旋律の進み方の中で伝わってくる。スケールの大きな曲というより、静かな推進力を持つタイプで、ハープやアコースティック楽器の輪郭がよく分かる場面だ。歌が前に出るほど、作品全体が持つ土地性も見えやすくなる。

もう一つの軸は、フランス語タイトルの側面、つまり『Vers L'ile』としての読み方にある。言語を切り替えながら同じイメージを反復する構成は、Alan Stivellの作品でしばしば見られるやり方で、ブルターニュ語の文化圏を外へ開いていく姿勢と結びついている。本作では、その二重表記自体が作品の性格を示す目印になっている。ひとつの地域音楽を、地域の外のリスナーにも届く形へ整える、その中間点のような作品だ。

1976年の位置づけ

1976年のAlan Stivellは、すでにケルト・ハープの普及者として広く認識されていた時期であり、本作はそのイメージをさらに定着させる流れの中にある。彼の作品群を追うと、より実験的な面やロック色の強い時期もあるが、この盤ではアコースティックな要素がしっかり前に出ている。結果として、派手な転換よりも、蓄積してきた語法を整理して提示する印象が残る。

カナダ盤として出ている点も見逃しにくい。ケルト系移民の文化が根付く地域で流通したことは自然に思えるし、北米のリスナーにとっても、ブルターニュ音楽を“遠い民俗”ではなく、同時代のフォーク表現として受け取る入口になった可能性がある。そうした流通の広がりも含めて、この作品はAlan Stivellの国際的な存在感を示す一枚といえる。

まとめ

『Trema'n Inis = Vers L'ile』は、Alan Stivellが持つケルト・ハープのイメージ、ブルターニュ語とフランス語をまたぐ表現、そしてアコースティックなフォーク感覚を、1976年という時点で整理して示した作品である。伝統音楽の紹介盤というより、伝統を現代のポピュラー音楽として鳴らすための記録に近い。派手さよりも、旋律、言葉、楽器の配置がどう呼吸しているかに耳が向く一枚だ。

トラックリスト

  1. A1 Stok Ouzh An Enez = En Vue De L'Île 4:08
  2. A2 Hommes Liges Des Talus En Transe 16:36
  3. B1 Rinnenn XX = Arcane XX 3:36
  4. B2 An Eur-se Ken Tost D'ar Peurbad = Cette Heure Si Près De L'Éternel 5:13
  5. B3 Negro Song 4:14
  6. B4 E-tal Ar Groaz = Face À La Croix 5:37
  7. B5 Ar Chas Doñv'yelo Da Quez = Les Chiens Redeviendront Sauvages 1:50

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