Synthesis - Synthesis (1976)
Synthesis / Synthesis(1976年)
『Synthesis』は、1976年にRCAからオリジナル・リリースされたライブラリー作品で、後年にフランスのDare-Dareから2002年盤として再発された1枚である。クレジットにはDidier Lockwood、Chantal Curtis、François Jeanneau、André Ceccarelli、Tony Bonfils、Marc Chantereauら、フランスのジャズ、フュージョン、スタジオ・セッションの現場で存在感を持っていた面々が並ぶ。参加人数の多さからもわかる通り、バンド作品というより、制作意図のはっきりしたスタジオ・プロジェクトとして組まれたアルバムと見るほうが自然だ。
全体の印象は、ソウル・ジャズ、ジャズ・ロック、ジャズ・ファンク、フュージョンの要素が、当時らしい機材感とともに整理されていること。派手に煽るタイプの演奏ではなく、リフ、リズム、ホーン、シンセの組み合わせで場面を切り替えていく作りになっている。ライブラリー盤らしく、曲ごとの役割がはっきりしていて、映像や場面を支える用途も想定された音作りが感じられる。とはいえ、単なる機能音楽に寄り切らず、耳に残るフレーズや、演奏者の手触りが前に出る瞬間があるのがこの作品の面白さだ。
作品の位置づけ
『Synthesis』は、1970年代半ばのヨーロッパにおけるジャズ・ファンク/フュージョンの空気を、ライブラリー作品の形式で切り取ったものとして捉えやすい。Didier Lockwoodのヴァイオリン、François Jeanneauのサックス、André Ceccarelliのドラム、Tony Bonfilsのベースといった布陣を見るだけでも、当時のフランス勢らしい機動力の高い演奏が想像しやすい。一般流通のポップ・アルバムとは違い、もともと広い大衆ヒットを狙った作品ではないため、音の組み立てがかなり実務的で、しかしそのぶん素材としての濃さがある。
同時代の文脈でいえば、英KPM系のライブラリー作品や、フュージョン期の欧州ジャズ・ファンクと並べて語られることが多そうなタイプである。アメリカのファンク/フュージョンがグルーヴの押し出しを強めていた時期に、フランス側ではホーンやシンセを含む編成で、少し整った輪郭のサウンドを作るケースが目立つ。本作もその系譜に置くと、演奏の密度と録音の見通しの良さが印象に残る。
聴きどころ1:リズム隊の推進力
まず耳を引くのは、ベースとドラムの動きだ。Tony BonfilsとAndré Ceccarelliの組み合わせは、ただ拍を刻むだけでなく、短いフレーズの反復や、細かなアクセントで曲を前に進める。ジャズ・ファンク系の作品では、ここが重くなりすぎると単調になりやすいが、『Synthesis』では比較的軽快に流れていく場面が多い。いわゆる“踊らせる”感じよりも、フレーズの切り替えで緊張感を作る方向に寄っているのが特徴的だ。
このあたりは、70年代後半にかけてのフュージョン作品に近い感触もあるが、演奏の見せ場を長く引っ張るより、1つのアイデアを素早く提示して次へ移る構成が多い。そのため、楽曲単位での印象がくっきり残りやすい。派手なソロの応酬より、リズムの設計そのものを聴かせるタイプの作りである。
聴きどころ2:ホーンとシンセの色づけ
本作のもう1つの軸は、ホーンとシンセの使い方だ。François JeanneauやMarc Chantereau、Jacques Bolognesi、Ivan Jullienらの参加によって、ブラスの厚みとアンサンブルの切れ味が確保されている。ここではホーンが前面に出てソウル・ジャズ寄りに押す場面もあれば、短いリフで空気を切り替える場面もある。単独で歌うというより、編成全体の輪郭を整える役割が強い。
一方で、再発紹介でもよく触れられるように、ARP系シンセを軸にした音色が作品の表情を大きく決めている。シンセは装飾ではなく、フレーズの核として機能していて、当時の“未来感”をそのまま持ち込むというより、ファンクのリズムの上に実用的に置かれている印象だ。だからこそ、過度に派手ではないのに、いま聴いても古びた感じが薄い。
曲名から見えるエピソード
リリースノートには、トランペット奏者Freddy Hovsepianへの感謝が記されており、さらに「HELL」で吹いたことへの謝辞が添えられている。ライブラリー作品ではこうしたクレジットが、制作現場の関係性をそのまま伝えることがあるが、本作もその例に入る。大きなコンセプトを語るというより、現場で組まれた音の連携がそのまま記録されている感じがある。
また、参加メンバーの多さは、収録内容が単一のバンド演奏というより、複数の編成や音色を使い分けながら作られたことを示しているように見える。ライブラリー盤らしい実用性と、フランスのスタジオ・ミュージシャンたちの手際の良さ。その2つが重なった作品として、1976年のオリジナル盤は位置づけやすい。
2002年再発盤について
2002年のDare-Dare盤は、オリジナルの1976年盤を再提示したものとして捉えられる。ライブラリー作品は、オリジナル流通の条件が限られていたぶん、後年の再発でようやく広く知られるケースが多いが、『Synthesis』もその流れにある。再発によって、当時は実用品として扱われた音源が、現在ではジャズ・ファンクやフュージョンの文脈で聴き直されるようになった、という流れが見えやすい。
フランス盤再発としての意義は、単なる復刻以上に、70年代ヨーロッパのスタジオ作品が持っていた機能性と演奏性を、いまの耳で確認できる点にある。ヒット作としてではなく、制作現場の音として生まれたアルバムが、時間を経てコレクターズ・アイテムとして扱われる。この作品は、その変化をよく示す1枚だ。
『Synthesis』は、派手な物語を持つアルバムではないが、演奏、編成、音色の組み立てに当時の仕事ぶりがきっちり残っている。フランスのジャズ/ファンク系セッションの層の厚さを、ライブラリー作品という形式で見せてくれる記録として、静かに存在感のある作品である。
トラックリスト
- A1 Hell 3:08
- A2 Vane 5:00
- A3 Sun 4:48
- A4 City Life 3:22
- A5 City Song 3:00
- B1 Feeling 4:20
- B2 We Need It 3:25
- B3 It's So New 4:56
- B4 Sophie's Gift 5:05