UNKLE - Psyence Fiction (1998)
UNKLE 1998

UNKLE - Psyence Fiction (1998)

Hip Hop Downtempo Trip Hop

UNKLE『Psyence Fiction』──90年代末のMo’ Waxを象徴するデビュー作

UNKLEの『Psyence Fiction』は、1998年にUKのMo Waxから登場したアルバムだ。James Lavelleを中心に、DJ Shadowをはじめとする複数の制作陣と豪華な客演を集めて組み上げた作品として知られている。Hip Hop、Trip Hop、Downtempoの文脈に置かれる一枚だが、単純なビート作品というより、ラップ、歌、サンプル、バンド的な演奏感が混ざった構成になっている。Mo Waxというレーベルの空気、その時代のロンドンのクラブ感覚、そして90年代後半のオルタナティブなヒップホップ像が、かなりはっきりと刻まれたアルバムである。

UNKLEはもともとJames LavelleとTim Goldsworthyによるプロジェクトとして始まり、のちにDJ Shadowが深く関わったことで、このデビュー作の輪郭が決まった。LavelleはMo Wax主宰者としても知られ、レーベルの美意識と作品の方向性が近い距離にある。その意味で『Psyence Fiction』は、単なるアーティストの初作というより、レーベル全体の代表作としても読める位置づけにある。

制作の中心にある「客演盤」という設計

このアルバムの大きな特徴は、客演の多さだ。Thom Yorke、Richard Ashcroft、Mike D、Kool G Rap、Mark Hollisといった名前が並び、1998年当時のリスナーにはかなり強い印象を残したはずだ。とはいえ、単に有名人を並べた寄せ集めではなく、各曲が作品全体の流れに収まるように組まれている。制作は長期化したとされるが、その時間のかかり方自体が、音の密度や曲ごとの作り込みに反映されているように感じられる。

実際に通して聴くと、サンプルの断片、低く押さえたビート、声の切り取り方がかなり細かい。DJ Shadowらしいサンプル主体の手つきが見える一方で、ロック寄りの歌が入ることで、トラックの重心が少しずつずれる。そのずれ方がこの作品の面白さで、ヒップホップの文脈にいながら、曲の中心がラップだけに固定されない。

注目曲「Rabbit in Your Headlights」

代表曲としてまず挙がるのが「Rabbit in Your Headlights」だろう。ゆっくり進むリズムの上に、Thom Yorkeの歌声が長く伸びていく構成で、アルバムの中でも特に輪郭がはっきりしている。サンプルと生演奏の境目が目立ちにくく、音の層が少しずつ重なっていく作りが印象的だ。DJ Shadowがサンフランシスコで録音を進めた曲として知られ、この作品の制作姿勢を端的に示している。

この曲は、アルバムの中でもロック寄りの客演が前に出る一曲でありながら、単に歌ものへ寄せていない。ビートは前に出すぎず、声も感情を押しつけない。その距離感が、90年代末のトリップホップやダウンテンポの中でも独特だ。派手な展開で引っ張るのではなく、同じ速度感のまま圧をかけ続けるタイプの曲である。

注目曲「Be There」

「Be There」は、Richard Ashcroftの参加でよく知られる曲だ。ここではオアシス以後のブリティッシュ・ロックの文脈と、Mo Wax周辺のビート感が接続される。歌の入り方がかなり自然で、客演曲というより、最初からこの声を置く前提で設計されたようなまとまりがある。アルバム全体の中でも、メロディの輪郭が比較的つかみやすい一曲だ。

この曲で目立つのは、音数の多さよりも配置の整理だ。低音、歌、細かなサンプルがそれぞれの居場所を保っていて、混雑しているのに濁らない。『Psyence Fiction』が「豪華客演盤」と言われながらも、ただのスター集合体では終わらないのは、こうした曲単位の設計があるからだろう。

「Lonely Soul」とアルバムの重心

「Lonely Soul」は、作品の中でかなり中心的な役割を持つ曲として聴こえる。感情を大きく押し出すというより、テンポを保ったまま、音の層を少しずつ積み上げていく。アルバム全体にある冷えた質感や、夜の街を歩くような距離感が、この曲では特にわかりやすい。聴き進めるほど、単発の名曲集ではなく、アルバムとしての流れを重視した作りだとわかる。

『Psyence Fiction』は、同時代のMassive AttackやPortisheadと並べて語られることもあるが、UNKLEはよりサンプル・コラージュの感覚が強い。ロンドンのトリップホップの枠に入りつつも、ラップ、ロック、実験的な編集が前に出るため、聴感はかなり異なる。Mo Waxのカタログの中でも、クラブの空気とアルバム作品としての構成が両立した一枚として位置づけられる。

当時の評価とチャート面

リリース当時、この作品は話題性の強さでも注目された。UKアルバム・チャートでは最高4位、UKインディペンデント・チャートでは1位を記録している。インディー盤として長くチャートに残ったことも確認されており、名前の強さだけでなく、実際の支持も持っていたことがうかがえる。

批評面では、野心的である一方、客演の多さや構成の大きさから過剰と受け止められることもあった。ただ、そのスケール感こそが『Psyence Fiction』の性格でもある。90年代末のMo Wax、そしてJames Lavelleが作っていた美学を、もっともわかりやすい形で示した作品として見ると、かなり筋の通ったデビュー作だと言える。

まとめ

『Psyence Fiction』は、UNKLEの出発点であり、同時にMo Waxのひとつの到達点でもある。DJ Shadowのサンプル感覚、James Lavelleのレーベル感覚、そして多彩な客演が、1998年という時代の中でまとまっている。ヒップホップの盤でありながら、曲ごとにロックやポップの輪郭が差し込まれ、アルバム全体では夜の空気と編集の細かさが残る。90年代末のUKオルタナティブ・シーンを語るうえで外しにくい一枚である。

トラックリスト

  1. A1 Guns Blazing (Drums Of Death Part 1)
  2. A2 UNKLE Main Theme
  3. A3 Bloodstain
  4. B1 Unreal
  5. B2 Lonely Soul
  6. B3 Getting Ahead In The Lucrative Field Of Artist Management
  7. C1 Nursery Rhyme
  8. C2 Breather
  9. C3 Celestial Annihilation
  10. C4 The Knock (Drums Of Death Part 2)
  11. D1 Chaos
  12. D2 Rabbit In Your Headlights
  13. D3 Outro (Mandatory)

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