Billy Ocean - Suddenly (1984)
Billy Ocean『Suddenly』について
ビリー・オーシャンの『Suddenly』は、1984年にJiveから発表されたアルバムで、彼をアメリカ市場で大きく押し上げた作品として知られている。トリニダード出身、のちにイギリスで活動したビリー・オーシャンは、70年代半ばまでに名義を整え、80年代に入るとMTV時代の映像感覚とも結びつきながら、R&B、ポップ、ダンス・サウンドを横断する存在になった。このアルバムは、その流れをはっきり形にした一枚で、80年代半ばのブリティッシュ・ソウルを語るうえで外せないタイトルになっている。
録音は1983年8月から1984年3月にかけて、ロンドンのBattery StudiosとニューヨークのUnique Recording Studiosで行われた。プロデュースはキース・ダイアモンド。レコーディング地がロンドンとニューヨークにまたがっている点も、当時のUKソウル/ポップがアメリカのR&B市場へ接続していく空気をそのまま反映している。シンセを前面に出したダンス・トラックと、歌をしっかり聴かせるバラードが同居していて、アルバム全体の輪郭はかなり明快だ。
代表曲「Caribbean Queen」「Loverboy」「Suddenly」
この作品でまず触れるべきなのは、冒頭を飾る「Caribbean Queen (No More Love on the Run)」だろう。もともとイギリス盤では「European Queen」というタイトルで出され、地域ごとにタイトルを変えた形でも流通した。北米向けに「Caribbean Queen」、南アフリカ向けに「African Queen」と改題されたことでも知られる。結果として、この曲はBillboard Hot 100で2週連続1位、R&Bチャートとダンス・クラブ・プレイ・チャートでも1位を記録し、ビリー・オーシャンを一気にスターの座へ押し上げた。サックス・ソロも印象に残る。
続く「Loverboy」も大きい。キース・ダイアモンド、ビリー・オーシャン、ロバート・ジョン・“マット”・ラングの共作で、ラングはエグゼクティブ・プロデューサーも務めている。Hot 100で2位、ダンス・クラブ・プレイ・チャートで1位を記録し、当時のポップ/R&Bの交差点にしっかり乗った曲だった。英国のドーセットにあるダードル・ドアで撮影されたSF仕立ての映像も有名で、楽曲とビデオの両面から記憶されている。
タイトル曲「Suddenly」は、アルバム後半の流れを支えるバラードで、いわゆるクワイエット・ストーム系の手触りがある。Hot 100で4位、アダルト・コンテンポラリー・チャートで1位、全英では4位まで上昇し、このアルバムから最も成功したUKシングルになった。実際に聴くと、派手な打ち込みやリズムの強さよりも、声の伸びとフレーズの置き方が前に出る。ビリー・オーシャンの歌が、ダンス・ヒットだけでなくバラードでも強く機能していることが分かる曲だ。
アルバムとしての位置づけ
『Suddenly』は、ビリー・オーシャンにとって国際的な成功を固めた作品として見られている。前作までで築いたUKでの人気を、アメリカのチャートで大きく拡張した点が重要だ。Billboard 200と全英アルバム・チャートの双方で9位、R&Bアルバム・チャートで3位を記録し、アメリカではダブル・プラチナ、カナダではトリプル・プラチナ、イギリスではゴールド認定を受けている。1985年のBillboard年間チャートでも上位に入っており、単発のヒット集ではなく、時代の空気をまとめたアルバムとして受け止められていたことが分かる。
収録曲の並びも、ダンス寄りのナンバーとスローな曲を交互に置く構成で、80年代半ばのR&Bポップの典型的な強さがある。一方で、ビートルズ「The Long And Winding Road」のカバーを入れている点は、単なるクラブ志向の作品ではないことも示している。ソウル寄りの歌唱とポップな制作、そしてMTV時代の視覚的な訴求力が同じアルバムの中で噛み合っている。
この盤について
今回のUK盤はJiveのHIP 12。1984年当時のオリジナル・リリースで、後年の再発盤とはジャケット違いの版や、収録時間が異なる別バージョンの存在も確認されている。盤ごとの差異を追う楽しみもあるが、まずは1984年に出たこの時点の空気をそのまま受け止めたい作品だ。80年代のブリティッシュ・ソウル、そしてUK発のR&Bポップがアメリカで広く受け入れられていく流れの中で、『Suddenly』はかなり分かりやすい到達点になっている。
トラックリスト
- A1 Caribbean Queen (No More Love On The Run) 5:00
- A2 Mystery Lady 4:58
- A3 Syncopation 5:15
- A4 The Long And Winding Road 4:40
- B1 Loverboy 5:13
- B2 Lucky Man 3:58
- B3 Dancefloor 4:15
- B4 If I Should Lose You 3:56
- B5 Suddenly 3:55