New Order - Low-life (1985)
New Order『Low-life』— マンチェスターの空気をそのまま封じ込めた3作目
New Orderの『Low-life』は、1985年にUKのFactoryから発表された3作目のアルバムだ。Joy Divisionの終焉を経て1980年に結成されたこのバンドは、暗い残響を引きずりながらも、同時にダンス・ミュージックの方向へ大きく舵を切っていった。その流れの中で『Low-life』は、ギター・バンドとしての輪郭と、シンセサイザーやリズム・マシンを使った新しい感触が、かなり自然に同居した一枚として位置づけられる。
制作はロンドンのJam StudiosとBritannia Row Studiosで行われ、バンド自身のセルフ・プロデュース。Factoryらしい簡素さと、80年代中盤のUKポップの整った質感が同時に見える作品でもある。ジャケットはPeter Savilleによるデザインで、New Orderのメンバー4人が初めて全面に出たカバーになっている。しかもポラロイドを使って個別に撮影した写真が採用されていて、当人たちが完成形を強く想定していなかったという話も、この時代のFactoryらしい距離感を感じさせる。
アルバム全体の印象
聴いていてまず目立つのは、曲ごとの役割がはっきりしていることだ。ギターを前に出した曲、シンセの反復で押す曲、ゆったりとしたインストゥルメンタルまで、配置がうまい。前作までの延長線上にありながら、単なる実験の寄せ集めにはなっていない。New Orderの作品の中でも、ロックとクラブのどちらにも寄り切らない、その中間の立ち位置がよく出たアルバムと言える。
当時のUKでは、ポストパンクの残響とニュー・ウェイヴ以降の電子音が混ざり合い、The Cure、Depeche Mode、Cabaret Voltaire、Yelloあたりと同時代的な空気を共有していた。『Low-life』はその中でも、リズムの硬さよりも曲の構成で聴かせる場面が多く、New Orderらしい実務的なバンド感がある。派手に作り込むというより、要素を整理して曲に落とし込む方向だ。
「Love Vigilantes」— 物語を運ぶギターの曲
注目曲としてまず外せないのが「Love Vigilantes」だ。これはギター主導のナンバーで、New Orderの中でもかなりストレートに曲の流れが見える。兵士が戦地から帰還したと思われた人物をめぐる物語性があり、歌詞の内容と演奏の進行がきれいにつながっている。ベースやドラムの推進力に頼りすぎず、メロディとコードの動きで引っ張る作りで、バンドの作曲力がそのまま出た曲だ。
この曲の面白さは、重い題材を扱いながら、演奏の手触りが必要以上に沈まないところにある。New Orderは悲しみを直接的に強調するより、淡々としたリズムや整ったコーラスで距離を取ることが多いが、この曲でもその姿勢ははっきりしている。アルバムの中でロック寄りの軸を作る1曲として機能している。
「The Perfect Kiss」— シンセと反復で押し切る代表曲
もう1曲の代表格が「The Perfect Kiss」だ。シンセが前面に出たこの曲は、New Orderがダンス・ミュージックの文脈で語られる理由をよく示している。リズムの刻み方、音の重ね方、ヴォーカルの入り方が、ロックのバンド演奏というより、クラブ向けの構造に近い。しかも単純な反復だけではなく、途中で音の表情が少しずつ変わっていくので、長さのわりに単調になりにくい。
この曲は後年のNew Order像にもつながる重要曲だろう。ギター・バンドとしての顔と、電子音主体のダンス・バンドとしての顔、その両方を1曲内で見せている。なお、ファクトリー系のリリースではシングルや12インチで別バージョンが展開されることも多いが、この曲はその象徴のような存在になっている。
「Sub-Culture」— 短く鋭い電子音の切れ味
「Sub-Culture」もアルバムを語るうえで外せない。こちらはよりコンパクトで、電子音の輪郭がはっきりしている。リズムの跳ね方と音色の組み合わせが印象に残りやすく、New Orderが単に“踊れるロック”へ向かっただけではないことを示す曲だ。構成が整理されているぶん、アルバム内でのアクセントとしても働いている。
『Low-life』の中では、この曲があることで、前半のギター寄りの流れと後半のより機械的な感触がつながる。バンドのバランス感覚がよく出た位置づけで、80年代半ばのNew Orderを代表する1曲群の中にも自然に入る。
「Elegia」— 余白を残すインストゥルメンタル
インストゥルメンタルの「Elegia」は、アルバムの中で時間の流れを変える役割を持つ。メロディを強く押し出すタイプではないが、音の重なり方に余裕があり、他の曲よりも空間の広がりが感じられる。New Orderがダンス性だけでなく、雰囲気の設計にも長けていたことを示す場面だ。
この曲は後に映画『Pretty in Pink』との関係でも知られるが、アルバム上ではまず、テンポの速い曲群の中で呼吸を作る役割が大きい。歌がないぶん、サウンドそのものの配置が見えやすく、80年代のUKエレクトロニック・ロックの文脈でも重要な位置に置ける。
作品の位置づけ
『Low-life』は、New Orderが「Joy Divisionの残像を引きずるバンド」から、「独自のポップ・フォーマットを持つバンド」へ移っていく途中の、かなり重要な地点にある。暗さを残しながらも、構成は明快で、リズムは前に進む。Factoryの美学、Peter Savilleのヴィジュアル、マンチェスター発の感覚、そのすべてが一つのパッケージとしてまとまったアルバムでもある。
UKチャートでは最高7位を記録しており、当時の評価も高かった。のちの再発盤ではボーナス曲や12インチ・ミックスを含む拡張版も出ているが、オリジナル盤の『Low-life』は、8曲前後の流れの中でバンドの両面を見せる構成が肝だ。ファクトリーのカタログ100番という節目の番号も、この作品の存在感をよく示している。
トラックリスト
- A1 Love Vigilantes
- A2 The Perfect Kiss
- A3 This Time Of Night
- A4 Sunrise
- B1 Elegia
- B2 Sooner Than You Think
- B3 Sub-Culture
- B4 Face Up
動画
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New Order - The Perfect Kiss (Official Music Video)
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New Order – Sub-Culture (12" Long Version)
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The Perfect Kiss (2015 Remaster)
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This Time of Night (2015 Remaster)
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Face Up (2015 Remaster)