Fad Gadget - Fireside Favourites (1980)
Fad Gadget『Fireside Favourites』について
Fad Gadgetの『Fireside Favourites』は、1980年にUKのMuteから出たデビュー・アルバムである。Fad Gadgetはフランク・トーヴィーの名義で活動したプロジェクトで、Muteにとって最初に契約したアーティストとしても知られている。シングル「Back to Nature」で見せた、機械的な音像と身体性の強いパフォーマンスを、そのままアルバム作品へ押し広げたのがこの1枚という印象が強い。
当時のUKでは、ポストパンク以後の空気のなかで、シンセサイザーやリズムマシンを前面に出した表現が少しずつ広がっていた。そんな流れの中でもFad Gadgetは、Depeche ModeやCabaret Voltaire、The Normalあたりと並べて語られることがあるが、音の作り方だけでなく、歌い方や身振りの荒さまで含めて個性が立っている。冷たい機械音というより、機械音の上に人間の不安や焦りを直接貼り付けたような感触がある作品である。
作品の位置づけ
このアルバムは、Fad Gadgetにとっての出発点であり、同時にMute初期の方向性を示す重要な作品でもある。のちのアルバムである『Incontinent』(1981)や『Under the Flag』(1982)へつながる前段階として聴くと、初期衝動の強さがよく見える。ロック的なバンド演奏の厚みよりも、反復、余白、音色の選び方で引っ張る構成が中心で、80年代初頭のエレクトロニック・ミュージックの輪郭をかなり早い段階で示している。
また、収録曲のいくつかはアルバム以前にシングルとして発表されている。タイトル曲「Fireside Favourite」と「Insecticide」は、1980年6月のシングルのA面・B面として先に出ており、アルバムではその流れを受けて配置されている。「The Box」は、1979年のデビュー・シングルB面を再録したもの。こうした経緯を見ると、このアルバムは単なる初期曲の寄せ集めではなく、シングルで試した素材をアルバム単位で組み直した作品と捉えやすい。
「Fireside Favourite」
タイトル曲は、このアルバムの入口としてわかりやすい存在である。鋭いリズムと反復するフレーズの上で、声が前へ出たり引いたりを繰り返し、落ち着いた語り口と切迫した響きが同居している。シングルとして先に出ていたこともあり、アルバム全体の方向性を端的に示す曲になっている。メロディを大きく歌い上げるより、言葉の置き方と音の間で緊張感を作るタイプの曲で、Fad Gadgetらしさが早い段階で見える。
聴き進めると、この曲は派手な展開で押すというより、一定のリズムの中に不穏さを滲ませる作りが印象に残る。ニューウェイヴやシンセ・ポップの枠に収まりつつも、軽さだけでは終わらないところがある。初期Muteの作品に共通する、乾いた質感と都市的な距離感もここで確認できる。
「Insecticide」
「Insecticide」もまた、アルバムの中で存在感のある曲である。こちらはタイトルからして不穏だが、実際の音もそのイメージに沿って、細かく刻まれるリズムと刺々しい音の配置が目立つ。先行シングルのB面だったことを踏まえると、アルバムの中で主役級の曲として扱われているのがわかる。曲名の通りの直接的な感触を持ちながら、単に攻撃的というより、機械的な反復が積み重なっていく構造が耳に残る。
この曲では、Fad Gadgetの特徴である“声の演技”もよく出ている。歌というより、音の隙間に言葉を押し込んでいくような運びで、結果として音楽全体に焦燥感が生まれている。80年代初頭のエレクトロ・ポストパンクの中でも、感情を整えて見せるのではなく、少し崩れたまま提示するタイプの曲として印象に残りやすい。
「The Box」
「The Box」は、もともとデビュー・シングルのB面だった曲の再録版である。アルバムに入ることで、単独の初期曲というより、作品全体の中で意味を持つ素材として再配置されている。箱という題材の通り、閉塞感や囲い込まれた感覚がそのまま音に表れているように聞こえる。リズムや音色の動きが大きく広がるというより、狭い空間の中で圧をかけるような作り。
この曲は、Fad Gadgetの初期作品を語る際に外せない1曲として扱われることが多い。のちのアーティストが80年代エレクトロニクスの冷たさを整理していくのに対して、Fad Gadgetはもっと生々しい。音の整い方より、ひっかかりや不安定さが前に出る。その性格がこの曲にもよく出ている。
アルバム全体の印象
『Fireside Favourites』は、電子音楽の新しさを見せるだけの作品ではなく、ポストパンク以後の不穏な空気をそのまま引き受けたアルバムでもある。よくある初期シンセ・ポップのような華やかさは控えめで、むしろ音の隙間、反復、硬いビート、少し引っかかる歌声が中心にある。そこがこの作品のわかりやすい特徴であり、同時代の作品の中でも少し異なる手触りにつながっている。
Fad Gadgetの初期像をつかむには、まずこのアルバムがわかりやすい。Mute初期のカタログの中でも、電子音楽と実験性、ポストパンク的な緊張感がかなり早い段階で結びついている1枚である。1980年という時点を考えると、後のインダストリアルやシンセ・ポップの流れを先取りした部分もあり、当時のUKシーンの変化を見ていくうえでも重要な位置に置ける作品だろう。
トラックリスト
- A1 Pedestrian 3:22
- A2 State Of The Nation 3:45
- A3 Salt Lake City Sunday 2:12
- A4 Coitus Interruptus 4:20
- A5 Fireside Favourite 4:34
- B6 Newsreel 3:42
- B7 Insecticide 3:08
- B8 The Box 3:43
- B9 Arch Of The Aorta 6:54
動画
- Fad Gadget - Coitus Interruptus - 1980
- Fad Gadget - The Box - 1980
- Fad Gadget - Pedestrian - 1980
- Fad Gadget - Insecticide - 1980
- fad gadget - salt lake sunday
- Fad Gadget - Arch of the Aorta - 1980
- Fad Gadget - State of the Nation - 1980
- Fad Gadget - Newsreel - 1980
- Coitus Interuptus-Fad Gadget