Stevie Wonder - Innervisions (1973)
Stevie Wonder『Innervisions』解説
Stevie Wonderの『Innervisions』は、1973年にUSのTamlaからリリースされたアルバムで、彼の1970年代前半を代表する重要作のひとつだ。ソウル、ファンクを土台にしながら、演奏、作曲、プロデュースまでを自ら主導した作品として知られている。Wonderがこの時期に築いた自立的な制作スタイルは、このアルバムでもはっきりと表れていて、単なるヒット集ではなく、当時の社会や都市生活を見つめた作品としても読める内容になっている。
この盤は1973年のUSオリジナル仕様で、ゲートフォールド・ジャケット。インナーには「The Songs of Stevie Wonder」の通販広告が入っている。ラベルはTamlaのT 326L表記で、同時代のモータウン系タイトルらしい佇まいだが、レーベル面の組版やランアウト刻印にはこの盤ならではの違いがある。コレクター的には、KENDUN刻印やTVC Aのエッチングが確認できる点も特徴として挙げられる。
アルバム全体の位置づけ
『Innervisions』は、Stevie Wonderが10代からの天才という枠を超え、作家として完全に自分の言葉を持った時期の作品だといえる。前作までで見せていたメロディメーカーとしての強さに加えて、このアルバムでは社会の不安、薬物、貧困、信仰、自己認識といったテーマが前面に出る。ファンクの硬いリズムと、シンセサイザーを含む多彩な音色の組み合わせも印象的で、同時代のソウルの中でもかなり個人的で、かつ時代性の強い一枚になっている。
1974年のグラミー賞でAlbum of the Yearを受賞し、Best Engineered Recordingも獲得したことからも、当時から評価が高かったことがわかる。チャート面でも英国でTop 10入りしており、アメリカ国内だけでなく広く支持された作品だった。
注目曲「Too High」
冒頭を飾る「Too High」は、このアルバムの方向性を早い段階で示す曲だ。軽やかなリズムの上に、浮遊感のあるキーボードが重なり、歌詞ではドラッグの影響を扱っている。タイトルの軽さに対して内容はかなり切実で、聴き進めるほどに、明るいグルーヴの裏にある不安が見えてくる。Wonderの作品ではこうした“耳あたりのよさ”と“テーマの重さ”のずれがよくあるが、この曲はそのバランスが特に巧い。
演奏の密度も高い。ベース、ドラム、鍵盤の各パートが細かく動きながらも、全体としてはきれいにまとまっていて、ソウルの快楽性だけで終わらない構成になっている。アルバムの入口として、すでに完成度が高い。
代表曲「Higher Ground」
「Higher Ground」は、この作品を語るうえで外せない代表曲だ。強いリフと推進力のあるビートが軸になっていて、Stevie Wonderのファンク面が最もわかりやすく出た一曲でもある。歌詞は輪廻や再生を思わせる内容で、単純なヒットソングというより、信念や意志を感じさせる作りになっている。
この曲は後年も多くのミュージシャンに取り上げられたが、オリジナルの持つ緊張感は独特だ。音数は多いのに混線せず、各パートが前に出る瞬間がしっかりある。ライヴでの定番曲として扱われるのも納得しやすい。
「Living for the City」とアルバムの社会性
「Living for the City」は、都市で生きる黒人の現実を具体的に描いた曲としてよく知られている。物語性のある展開で、途中に挿入される会話や環境音も含めて、曲というより短いドラマのように聴こえる。ここでは、ソウルが単なる恋愛表現の器ではなく、社会を記録する手段にもなりうることが示されている。
『Innervisions』全体を見ても、この曲の存在は大きい。ポップな表面だけでなく、現実の摩擦をそのまま音楽に落とし込む姿勢がはっきりしていて、同時代のアルバムの中でも輪郭が明確だ。Marvin Gayeの『What’s Going On』と並べて語られることがあるのも自然だろう。
聴いていて残る印象
実際に通して聴くと、曲ごとの印象以上に、アルバム全体の流れが強く残る。派手な瞬間だけでなく、曲間のつながりや、リズムの置き方、声の入れ方にまで一貫性があるため、1枚としての密度が高い。ファンク寄りの曲でも、ソウル寄りの曲でも、Wonder本人の視点がぶれないところがこの作品の芯だと思う。
1973年という時点で、ここまで自己完結度の高いソウル・アルバムを作っていたことは、やはり大きい。『Innervisions』は、Stevie Wonderの代表作であると同時に、1970年代ソウルの到達点のひとつとして受け止められてきた作品だ。音の作り、テーマの持たせ方、曲順の流れ、そのどれもがきっちりしていて、今聴いてもアルバムとしての強さが伝わってくる。
トラックリスト
- A1 Too High 4:37
- A2 Visions 5:17
- A3 Living For The City 7:26
- A4 Golden Lady 5:00
- B1 Higher Ground 3:54
- B2 Jesus Children Of America 4:04
- B3 All In Love Is Fair 3:45
- B4 Don't You Worry 'Bout A Thing 4:55
- B5 He's Misstra Know-It-All 6:06