Michael Jackson - Bad (1987)
Michael Jackson『Bad』― 1987年のポップ・スター像を決定づけた大作
Michael Jacksonの『Bad』は、1987年にUSのEpic(E 40600)からリリースされた7作目のスタジオ・アルバムである。前作『Thriller』で世界規模の成功を収めたあとに発表された作品で、単なる続編というより、80年代後半のポップ・ミュージックの基準をさらに押し広げた一枚として知られている。Rock、Funk / Soul、Popを軸にしながら、収録曲ごとに色合いがはっきり分かれており、シングル単位でもアルバム単位でも存在感が強い内容になっている。
制作面では、クインシー・ジョーンズとの黄金期を継続した作品としても重要だ。前作の大成功を受けて、より硬質で、より攻めたビート感を持つ楽曲が並ぶ。発売当時のUS盤は、Epicの80年代らしいメジャー・ヒット作のフォーマットに乗りつつも、Michael Jackson本人の歌唱、リズム感、アレンジの細部が前面に出たアルバムでもある。ソロ・アーティストとしての地位を、巨大なものから決定的なものへと押し上げた時期の記録といえる。
アルバム全体の印象
『Bad』を通して聴くと、まず曲ごとの輪郭の強さが目立つ。ファンク寄りの跳ねるビート、ポップ・ロック的な推進力、ソウル由来の歌の運びが、1枚の中で自然につながっている。Michael Jacksonのアルバムは、シングルの強さだけで語られがちだが、『Bad』は曲順で聴いたときの流れもはっきりしていて、アップテンポな楽曲とミディアム・テンポの曲の配置がよく考えられている印象がある。
同時代のポップ・スターの作品と比べても、この時期のMichael Jacksonは、音そのものの密度が高い。プリンスのようにファンクの鋭さを前面に出すタイプとも、ホイットニー・ヒューストンのように歌唱力を軸に置くタイプとも少し違い、リズム、声、映像的なイメージが一体になっている点が特徴だ。『Bad』はその方向性を、前作以上に明確にしたアルバムとして見てよさそうだ。
「Bad」― タイトル曲としての強さ
タイトル曲「Bad」は、このアルバムの顔として最も分かりやすい1曲である。オリジナルのアルバム・ミックスでは、ホーンの使い方やリズムの押し出しが印象に残るが、後年の再発では7インチ・シングル・ミックスに差し替えられている。再発盤では、コーラスのホーンが抑えられ、ギターとハイハットの存在感がより前に出る形になっており、同じ曲でも印象が少し変わる。
この曲は、Michael Jacksonが「スターであること」そのものを作品化した例としても重要だ。歌詞、発音、フレーズの切り方、そして曲の中での間の取り方まで含めて、キャラクターが強く立っている。アルバムの中でも特に、80年代後半の大衆音楽における“本人の存在感”をそのまま音にしたような楽曲で、シングルとしての機能とアルバムの象徴性を両立している。
「The Way You Make Me Feel」― 軽快さと推進力の両立
「The Way You Make Me Feel」は、アルバムの中でも親しみやすい部類のヒット曲で、ミディアム・アップのリズムに乗せて歌が前へ進んでいく。再発盤では、シングルで使われたフル・レングスのリミックスが採用されており、ボーカルがより大きく、後半のアドリブも含めてシングル仕様の勢いが強い。アルバム初出時のバージョンと比べると、曲の輪郭が少し変わって聴こえる。
この曲の面白さは、強いビート感がありながら、重さよりも流れを優先しているところにある。歌のメロディは分かりやすく、リズムのノリは細かい。Michael Jacksonがダンス・ミュージックとポップ・ソングの中間をどれだけ自然に行き来できたかが、よく見える1曲だと思う。
「I Just Can’t Stop Loving You」― 静かな中心
「I Just Can’t Stop Loving You」は、アルバムの中で温度を少し下げる役割を担うバラードである。再発盤では、Michael Jacksonの話し声のイントロが省かれており、曲の入り方がより直接的になっている。大きな展開で聴かせる曲ではないが、メロディの運びと歌唱の柔らかさがよく出ている。
『Bad』の中でこうしたバラードがあることで、アルバム全体の起伏がはっきりする。派手なシングル群の間に置かれることで、Michael Jacksonの作品が単なるダンス・ポップではなく、歌そのものの説得力を持っていたことも確認できる。
「Dirty Diana」「Smooth Criminal」― 後半を支える代表曲
「Dirty Diana」は、ロック色の強い代表曲として知られる。再発盤ではシングル・エディットに差し替えられており、アルバム本編で聴くよりも少し短く、直線的な印象になる。ギターの存在感が強く、Michael Jacksonのアルバムの中でも、ロックの要素がはっきり前に出る1曲だ。ポップ・ロックという枠の中で、彼がどこまで攻められるかを示した楽曲ともいえる。
「Smooth Criminal」は、『Bad』後半の山場のひとつだ。再発盤ではキック・ドラムがより重く、ベース・シンセも太くなったミックスが採用されている。細かい打ち込みと身体的なグルーヴが同居していて、曲の緊張感が高い。呼吸音の扱いなど、ミックスの違いが印象に残る曲でもあり、同じアルバムの中で複数回聴くと変化が分かりやすい。
作品の位置づけ
『Bad』は、Michael Jacksonのキャリアの中で、前作『Thriller』の巨大な成功を引き継ぎながらも、次の段階へ進もうとした作品として見られることが多い。実際、収録曲の多くが後にシングルとして展開されており、アルバム全体がヒット曲の集合体のようでもある。それでも、単なる寄せ集めにはならず、曲調の振れ幅とアレンジの統一感が保たれているのが強いところだ。
1980年代のポップ・ミュージックを語るうえで、『Bad』は外しにくい1枚である。US盤のオリジナル・リリースとして聴くと、当時のEpicの大作感と、Michael Jacksonの表現力がそのまま封じ込められている。シングルごとの強さ、アルバムとしての流れ、そして後年の再発で見えてくるミックス違いまで含めて、資料的にも聴取体験としても見どころの多い作品だ。
トラックリスト
- A1 Bad 4:06
- A2 The Way You Make Me Feel 4:58
- A3 Speed Demon 4:01
- A4 Liberian Girl 3:52
- A5 Just Good Friends 4:05
- B1 Another Part Of Me 3:53
- B2 Man In The Mirror 5:18
- B3 I Just Can't Stop Loving You 4:23
- B4 Dirty Diana 4:52
- B5 Smooth Criminal 4:16