Vinyl Record Reviews
Beverly Glenn-Copeland(ビヴァリー・グレン=コープランド)は、アメリカ・フィラデルフィア生まれ、カナダを拠点に活動するシンガー・ソングライター/作曲家/マルチ奏者だ。1944年7月23日に生まれ、モントリオールのマギル大学でクラシック声楽を学んだ後、カナダの音楽シーンで活動を開始した。
フォーク、ジャズ、クラシック、ブルース、そしてエレクトロニックやアンビエント/ニューエイジに至るまで、多種多様な領域を横断する深遠な音楽性で知られている。
1970年、アシッド・フォークとジャズ、クラシックの要素が交錯する『Beverly Copeland』および『Beverly Glenn-Copeland』という2枚のアルバムを発表。卓越したボーカル・コントロールと先鋭的なアレンジメントで、早くから異才ぶりを発揮した。
その後はブルース・コバーンらの録音への参加に加え、『セサミ・ストリート』のソングライターとしても活動。さらにカナダの国民的人気子ども番組『Mr. Dressup』に25年間にわたりレギュラー出演し、親しみやすいパーソナリティで世代を超えて愛された。
彼の名を世界的なものとしたのは、1986年に自主制作カセットテープとして発表されたアルバム『Keyboard Fantasies』だ。カナダ北部の森の自然に囲まれた静寂の中で、ヤマハDX7シンセサイザーとローランドTR-707リズムマシンを用いて録音された。
当時は数百本しかプレスされず長年埋もれていたが、2015年に日本のレコード・ディーラー増子亮太がこのテープを発見し、本人に連絡を取って残されていたデッドストックを輸入・紹介したことで国際的な大反響を呼んだ。ニューエイジ、アンビエント、ソウル、フォークが清らかに融け合ったサウンドは、各国のリスナーやミュージシャンを魅了し、 Séance Centreなどのレーベルからアナログ再発が実現した。
彼の歌声は、クラシック仕込みの伸びやかなバリトンと、聴く者を優しく包み込むような温もりが特徴だ。トランスジェンダー男性としてのアイデンティティや、あらゆる生命と自然への愛を讃える歌詞は、混迷を深める現代社会において強い希望と癒やしを与えている。
2019年にはポジー・ディクソン監督によるドキュメンタリー映画『Keyboard Fantasies: The Beverly Glenn-Copeland Story』が公開され、世界的な評価が定着した。2023年には名門Transgressive Recordsからスタジオ・アルバム『The Ones Ahead』をリリースするなど、70代・80代を迎えてなお瑞々しい創作を続けている。