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宮下富実夫(Fumio Miyashita、1949年1月1日 - 2003年2月6日)は、日本のプログレッシブ・ロック/サイケデリック・ロックの草創期を牽引し、のちに日本におけるヒーリング・ミュージックや環境音楽、アンビエントの先駆者・第一人者として巨大な足跡を残した音楽家、シンセサイザー奏者、音楽療法研究家である。
フルート、アコースティック・ギター、ハーモニカ、シンセサイザーを自在に操り、1969年のブロードウェイ・ロック・ミュージカル『HAIR』日本初演への参加を出発点に、1970年代のスペース・ロックやクラウトロックとの交錯を経て、1980年代以降は音と心身の共鳴を探求する独自の音楽療法・奉納演奏の境地へと達した。
1971年、宮下はプログレッシブ/サイケデリック・ロックバンド「Far Out」を結成し、名盤『日本人』を発表した。1973年には喜多郎らを迎え「Far East Family Band」へと発展させる。タンジェリン・ドリームやアシュ・ラ・テンペル等のプロデュースで知られるジャーマン・ロック/クラウトロックの巨匠クラウス・シュルツをプロデューサーに迎え、ロンドン録音を含む『多元宇宙への旅(The Cave Down to Earth)』や『地球空洞説』などを発表した。
この時期にはヨーロッパや全米ツアーを成功させるなど、日本のロックバンドとしていち早く国際的な評価を獲得した。バンド解散後の1977年に単身渡米し、カリフォルニアで東洋医学、鍼灸、中国哲学、瞑想を修めるなかで、音波が人間の心身に与える影響に着目し、音楽療法研究へと舵を切った。
1981年、長野県の飯綱高原に本格的なレコーディング環境と自然を一体化させた「琵琶スタジオ(Biwa Studio)」を設立した。シンセサイザーによる豊かな持続音を基軸に、せせらぎや鳥の声、波音といった環境音を有機的に融合させ、「1/fゆらぎ」の音響理論を取り入れた独自のヒーリング・ミュージックを確立した。
モーグ、ローランド、シーケンシャル・サーキットなどのヴィンテージ・アナログシンセサイザーや初期デジタルシンセサイザーを駆使し、西洋の電子音楽理論と東洋の精神性・瞑想的世界観を高度に融合させた壮大かつ静謐なサウンドスケープを構築した。
1980年代以降、自主レーベル「琵琶レコード」を中心に膨大な作品を発表した。『瞑想』シリーズや『誕生』『やすらぎ』などはロングセラーを記録し、一般のリスナーのみならず医療施設やヨガ、瞑想の現場でも重用された。
映像音楽の分野でも卓越した手腕を発揮し、手塚治虫原作のアニメ映画『火の鳥 鳳凰編』(1986年)や『魔界都市〈新宿〉』(1988年)の劇伴・サウンドトラックを担当した。ドラマティックかつ深遠なシンセサイザー・スコアはアニメーション音楽史においても高い評価を得ている。
さらに、伊勢神宮、出雲大社、奈良の天河大弁財天社など全国の名だたる神社仏閣において精力的に奉納演奏を敢行した。「音による禊(みそぎ)」や精神性の探求をテーマとした奉納コンサートはライフワークとなり、日本古来の信仰空間と電子音響を融合させた唯一無二の表現領域を開拓した。
2003年に54歳で急逝するまでに、ソロ名義だけで100作を超えるアルバムを残した。近年の世界的なジャパニーズ・アンビエント/ニューエイジ・ミュージック再評価の潮流の中で、宮下富実夫の先駆的ワークスは国内外のDJやプロデューサー、エレクトロニック・ミュージック愛好家から再発見され、熱い支持を集めている。
プログレッシブ・ロックの骨太な演奏力と、東洋医学・精神世界に裏打ちされた緻密な音響設計が結実したその作品群は、単なるリラクゼーション音楽の枠を超えた日本音楽史の重要な遺産として輝き続けている。