Vinyl Record Reviews
Tot Taylor(トット・テイラー)は、英国ケンブリッジ生まれ、ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライター、ピアニスト、作曲家、音楽プロデューサー、作家、アートキュレーター。1980年代初頭のポスト・パンク/ニュー・ウェイヴ期において、洗練されたノスタルジーと洒脱なモダン・ポップを提示したインディペンデント・レーベル「The Compact Organization(コンパクト・オーガニゼーション)」の創始者・主宰者として名高い。
1970年代後半、パワーポップ/ニュー・ウェイヴ・バンドのAdvertising(アドバタイジング)を率いて注目を集めた後、1981年に自身の美学を具現化するレーベル「The Compact Organization」を設立。同レーベルを通じてマリ・ウィルソン(Mari Wilson)やヴィルナ・リント(Virna Lindt)らをプロデュースし、1950〜60年代のラウンジ、ジャズ、キャバレー、スパイ映画音楽の瀟洒なエレガンスを80年代のポップス感覚と融合させた独自の「レトロ・フューチャリズム」の潮流を創り出した。
ソロ名義でも精力的に傑作を世に送り出し、『Playtime』(1981年)、『The Inside Story』(1983年)、『Box Office Poison』(1986年)、『My Blue Period』(1987年)などを発表。ジョージ・ガーシュウィンやコール・ポーターの系譜を継ぐクラシカルなピアノ・プレイと洗練されたコード進行、華麗なオーケストレーション、そして英国的な皮肉とウィットに富んだ歌詞が織りなす極上のチェンバー・ポップ/ピアノ・ポップを確立した。
ギター主体の直線的なロックとは一線を画し、ピアノや室内楽、映画音楽の語法を巧みに取り入れたソングライティングは、同時代のポップ・ロック・シーンにおいて異彩を放った。
音楽プロデュースやソロ活動にとどまらず、映画音楽や舞台演劇、CMの劇伴作曲家としても多数の作品を手掛けている。さらに、ロンドン・ソーホーの現代美術ギャラリー「Riflemaker」の共同創設者・キュレーターを務めるなど美術界でも手腕を発揮。作家としても長編小説『The Story of John Nightly』を上梓し、音楽、アート、文学の領域を自在に行き来する多才な文化人として世界中からリスペクトを集めている。