Tot Taylor - Box-Office Poison (1986)
Tot Taylor『Box-Office Poison』(1986)
伝説のインディー・レーベル「コンパクト・オーガニゼイション(The Compact Organization)」の首謀者であり、英国ポップ界きっての粋人として知られるトット・テイラー(Tot Taylor)が、1986年に発表したソロ通算3作目のスタジオ・アルバム『Box-Office Poison』(ボックス・オフィス・ポイズン)。古き良きハリウッド・ミュージカルやティン・パン・アレイの洒脱な精神を80年代インディー・シーンに蘇らせた、チェンバー・ポップ/オーケストラル・ポップの金字塔である。
コンパクト・オーガニゼイションと「ひとりオーケストラ」の美学
ケンブリッジ出身のトット・テイラーは、1980年代初頭に自ら「コンパクト・オーガニゼイション」を立ち上げ、マリ・ウィルソン(Mari Wilson)やヴァーナ・リント(Virna Lindt)らをプロデュース。ポストパンクやニューウェイヴの熱狂に沸く英国シーンにあって、1960年代のポップス、ジャズ、ラウンジ、映画音楽のエレガンスをレトロモダンな意匠で再構築し、カルト的な熱狂を巻き起こした。
自身のレーベル「London Popular Arts」から放たれた本作『Box-Office Poison』は、テイラーの美意識が最も純度の高い形で結実した一枚である。タイトルはかつてハリウッドで「興行的に客を呼べないスター」を指した映画界のスラングに由来しており、ショービジネスへのシニカルなアイロニーと深い愛着が表裏一体となったコンセプトが貫かれている。ピアノを中心とした弾き語りに、華麗でノスタルジックなストリングスや管楽器が寄り添うサウンドは、「ひとりオーケストラル・ポップ」の極致と称される。
映画的ストーリーテリングと洒脱な名曲群
全編にわたって繰り広げられるのは、コール・ポーターやジョージ・ガーシュウィンの系譜を引くウィットに富んだリリシズムと、極上のメロディである。壮大な旅立ちを想起させるオープニングの「Australia」、自嘲を込めて騎士叙任をテーマにした演劇的ナンバー「Arise, Sir Tot」、フランク・シナトラへのオマージュと告解を歌うビタースウィートな「I Was Frank」、そして躍動するピアノとストリングス・アレンジが息を呑むほど美しい「Spoil Her」「Mr Strings」など、まるでモノクロームの短編映画を観ているかのような芳醇な世界が展開する。
日本における受容と渋谷系への架け橋
本作は本国イギリスのみならず、日本においても特別な存在感を示した。セゾングループの文化発信拠点であった六本木WAVEの自社レーベル「WAVE」から国内盤LP(品番SP25-6018)がリリースされ、感度の高い洋楽リスナーやネオアコ/インディー・ポップのファンに熱烈に迎えられた。
テイラーが提示したクラシック、ミュージカル、映画音楽、60年代ポップスの粋を集めたハイセンスな編集感覚は、1990年代初頭に花開く「渋谷系」ムーブメント(フリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴら)の美意識と完全に共振するものであった。現在に至るまで、エバーグリーンな魅力を放ち続けるチェンバー・ポップの名盤として高く評価されている。
トラックリスト
- A1 Australia
- A2 Arise, Sir Tot
- A3 I Was Frank
- A4 Spoil Her
- A5 Mr Strings
- A6 Nevermore
- B1 The Ballad Of Jacky And Ivy
- B2 People Will Talk
- B3 I Never Roam
- B4 Babysitting
- B5 Mr Strings
- B6 My Independent Heart
動画プレイリスト
このアーティストについて
Tot Taylor(トット・テイラー)は、英国ケンブリッジ生まれ、ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライター、ピアニスト、作曲家、音楽プロデュー...
Tot Taylor のプロフィール・作品一覧