Astrud Gilberto - The Astrud Gilberto Album (1965)
Astrud Gilberto 1965

Astrud Gilberto - The Astrud Gilberto Album (1965)

Pop Jazz Latin Vocal Easy Listening Bossa Nova

Astrud Gilberto『The Astrud Gilberto Album』について

Astrud Gilbertoの『The Astrud Gilberto Album』は、1965年にUSのVerve Recordsから出たアルバムで、彼女のソロ作品としては初期の重要作にあたる一枚だ。ボサノヴァがアメリカのジャズ/ポップの文脈にしっかり根を下ろしていった時期の作品で、Astrudのやわらかな声を中心に、ラテン、ジャズ、ポップの感触が自然に混ざっている。録音は1965年1月27日と28日、カリフォルニア州ハリウッドのRCA Studiosで行われた。

Astrud Gilbertoといえば、やはり「The Girl from Ipanema」で知られる存在だが、このアルバムではそのイメージを土台にしつつ、ひとりの歌い手としての輪郭がよりはっきり見えてくる。Stan Getzとの共演で広く知られるようになった彼女だが、本作では“あの曲の人”という枠に収まりきらない、静かな存在感が前に出る。大きく押し出す歌い方ではなく、息の流れや語尾の置き方で曲を進めていくタイプの歌唱で、そこがこの時代のボサノヴァ作品の中でも独特だ。

作品の位置づけ

1960年代のVerveは、ジャズを軸にしながらポップやラテンへも広がっていたレーベルで、Astrud Gilbertoはその中でも重要な顔ぶれのひとりだった。Creed Taylorのディレクション下で、Stan Getz、Ella Fitzgerald、Jimmy Smithらと並ぶ商業的にも強いラインの一角に置かれていたことが、この時代の彼女の存在感をよく示している。ボサノヴァが米国で定着していく過程において、Astrudの声は“ブラジルのリズムを英語圏の耳に届く形へ橋渡しする声”として機能していたように見える。

このアルバムも、そうした流れの中で聴くと輪郭がつかみやすい。派手な展開や強いビートで引っ張る作品ではなく、コードの流れと声の距離感で聴かせる作りだ。録音時期が1965年という点も重要で、ボサノヴァが単なる流行ではなく、ジャズやイージーリスニングの領域にしっかり組み込まれていた時期の空気がそのまま残っている。

注目曲「The Girl from Ipanema」

このアルバムを語るうえで外せないのが「The Girl from Ipanema」だ。Astrud Gilbertoの名を世界に広げた代表曲であり、彼女のイメージそのものに近い楽曲でもある。もともとこの曲はボサノヴァを象徴するスタンダードとして知られ、英語詞で歌われたことで米国のポップ・ジャズの聴き手にも広く届いた。Astrudの歌唱では、曲の持つ都会的な距離感が前に出て、感情を大きく揺らさずに流していくところが印象に残る。

同じ曲でも、ここでは“ヒット曲の再演”というより、彼女の持ち味を確認するための軸として置かれているように聴こえる。旋律のなめらかさと英語の発音の軽さが合わさって、曲全体がすっと前へ進む。ボサノヴァの中でもこの曲が特別視される理由は、メロディの強さだけでなく、こうした抑制された歌い方にあるのだろう。

アルバム全体の聴きどころ

本作の魅力は、Astrudの声が前に出すぎず、しかし埋もれもしないバランスにある。伴奏はきっちり整えられていて、各曲の輪郭が崩れない。その上で、彼女の歌はフレーズの頭を強く立てるのではなく、少し遅れて入るような感覚や、息を含んだ語り口で曲を運ぶ。ジャズの即興性を前面に出すというより、ポップスの明快さとボサノヴァの間合いを保ったまま進む構成だ。

この時期の同系統の作品と比べると、Astrud Gilbertoの歌は華やかさよりも均衡感が際立つ。João Gilbertoのようなギターと声の緊密な関係とも、Stan Getzのサックスが前に出るジャズ作品とも少し違い、ここでは“歌そのもの”が中心になっている。だからこそ、1960年代半ばのラテン・ジャズやイージーリスニングの文脈の中で聴くと、彼女の役割がよく見えてくる。

まとめ

『The Astrud Gilberto Album』は、Astrud Gilbertoがボサノヴァの象徴的存在から、ソロの歌い手として輪郭を固めていく過程を伝える作品だ。1965年という時代の空気、Verveというレーベルの文脈、そして彼女特有の静かな歌唱が一つの形にまとまっている。大きなドラマを作るアルバムではないが、声の置き方、間合い、曲との距離で聴かせるタイプの記録として、1960年代ボサノヴァの流れを知るうえで外せない一枚といえる。

トラックリスト

  1. A1 Once I Loved 2:10
  2. A2 Agua De Beber 2:16
  3. A3 Meditation 2:39
  4. A4 And Roses And Roses 2:30
  5. A5 O Morro (Nao Tem Vez) 2:55
  6. A6 How Insensitive 2:45
  7. B1 Dindi 2:40
  8. B2 Photograph 2:10
  9. B3 Dreamer 2:00
  10. B4 So Finha De Ser Com Voce 2:15
  11. B5 All That's Left Is To Say Goodbye 3:09

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