Nujabes - Metaphorical Music (2003)
Nujabes『Metaphorical Music』レビュー
Nujabesの『Metaphorical Music』は、2003年に発表された初のソロ・アルバムとして知られる作品で、ジャズ、ヒップホップ、電子音楽を横断する彼の作風を最初期にまとめた一枚だ。Shing02、Substantial、Five Deez、Cise Starrらが参加し、ラップとインストゥルメンタルが自然に行き来する構成になっている。日本のヒップホップの中でも、サンプリングの使い方とビートの置き方がかなり早い段階で整理されていた作品として語られることが多い。
作品の位置づけ
NujabesことJun Sebaは、渋谷のレコード店「Tribe」の店主としても知られ、選盤の感覚そのものが制作に直結していた人物だ。本作では、その耳の良さがはっきり出ている。クール・ジャズやソウルの断片を細かく組み替え、ラップのための土台にするだけでなく、曲そのものをひとつの流れとして聴かせる作りになっている。初のソロ作でありながら、すでに個人の美学がまとまっている点が印象的だ。
タイトルの通り、日常で感じたことや考えたことを音で置き換える発想が軸にある作品として紹介されてきた。実際、各曲は強い主張を前に出すというより、短いフレーズや反復を積み重ねて、聴き手の中で意味が立ち上がるような構成になっている。ラップ曲でも、声がビートの上に乗るというより、トラックの一部として溶け込む感覚がある。
サウンドの特徴
このアルバムを聴くと、まずドラムの置き方が目立つ。音数は多くないが、キックとスネアの位置が細かく調整されていて、前に出すぎないのに流れが止まらない。そこにピアノ、ギター、ホーン、断片的なヴォーカル・サンプルが重なり、曲ごとに空気の温度が変わっていく。いわゆる“jazzy hip hop”の代表例として挙げられることが多いのも納得できる内容だ。
また、インストゥルメンタル曲とラップ曲の並びが分断されていない。たとえば「Aruarian Dance」のようなインスト曲は、アルバムの中で単独で成立しつつ、前後の楽曲とのつながりも強い。こうした配置によって、作品全体がひとつの長いセットのように聴こえる。後年のローファイ・ヒップホップ文脈で参照されることが多いのも、この流れの作り方に理由がありそうだ。
参加アーティストと楽曲の印象
Shing02が参加する楽曲では、言葉の密度とトラックの余白がきれいに噛み合っている。SubstantialやCise Starr、Five Deezの面々も、それぞれのラップを強く押し出すというより、Nujabesのビートに合わせて呼吸を整えている印象だ。結果として、アルバム全体の統一感がかなり高い。
代表曲としてまず触れられるのは「Aruarian Dance」だろう。歌ものではないが、後年まで長く聴かれてきたインスト曲で、Nujabesの名前を広く知らしめた楽曲のひとつと見てよさそうだ。メロディの運びが明快で、ビートの細部も過度に主張しないため、アルバムの入口としても機能している。
一方で、ラップ曲では言葉数の多さよりも、トラックとの距離感が印象に残る。押しの強いフックで引っ張るタイプではなく、曲の空気を維持しながら進んでいく作りだ。ここに、当時の日本のヒップホップの中でも少し違う立ち位置が見える。
2003年当時の文脈
2003年の日本では、ヒップホップがすでに広がりを見せていたが、ジャズの質感をここまで滑らかに取り込んだアルバムはまだ多くなかった。海外ではDJ ShadowやJ Dilla、Pete Rock、The Rootsなど、サンプリングや生楽器感覚を重視する流れが比較対象になりやすいが、Nujabesはその文脈を日本で独自に整理した存在として見られてきた。単なる模倣ではなく、渋谷のレコード文化と結びついた具体性がある。
制作面では、サンプルの選び方にかなり慎重だったことが知られている。中古レコード店での経験や、長い時間をかけて曲を組み立てる姿勢が、そのまま音の細やかさにつながっている。派手な展開よりも、短いフレーズの配置で印象を残す作りは、このアルバム全体に通じる。
2018年盤について
今回の盤は2018年のリリースで、オリジナルの2003年盤から時間を置いた再登場となる。紙ジャケットのハードなゲートフォールド仕様で、外装はシールドではなく上部開口の薄いプラスチック保護袋に収められている。バーコードのステッカーがジャケット本体ではなく、保護袋の背面に貼られている点も特徴だ。オリジナル盤と比べると、現行流通向けの再発らしいパッケージングになっている。
まとめ
『Metaphorical Music』は、Nujabesの初期代表作であると同時に、日本のジャジー・ヒップホップがひとつの形として見えた作品でもある。ラップ、インスト、ジャズの断片が無理なく並び、曲単位でもアルバム単位でも聴ける構成。発売から時間が経っても語られ続けているのは、音の質感だけでなく、曲の置き方に一貫した意識があるからだろう。2000年代の日本のヒップホップを振り返るうえで、外せない一枚だ。
トラックリスト
- A1 Blessing It -Remix 3:23
- A2 Horn In The Middle 4:08
- A3 Lady Brown 3:18
- A4 Kumomi 3:53
- B1 Highs 2 Lows 4:38
- B2 Beat Laments The World 4:22
- B3 Letter From Yokosuka 3:10
- B4 Think Different 3:17
- C1 A Day By Atmosphere Supreme 3:59
- C2 Next View 4:35
- C3 Latitude -Remix 3:56
- C4 F.I.L.O. 3:31
- D1 Summer Gypsy 4:19
- D2 The Final View 3:35
- D3 Peaceland 8:19
動画
-
Nujabes - Blessing It -remix (feat.Substantial & Pase Rock from Five Deez) [Official Audio]
-
Nujabes - Horn in the middle [Official Audio]
-
Nujabes - Lady Brown (feat. Cise Starr from CYNE) [Official Audio]
-
Nujabes - Kumomi [Official Audio]
-
Nujabes - Highs 2 Lows (feat.Cise Starr from CYNE) [Official Audio]
-
Nujabes - Beat laments the world [Official Audio]
-
Nujabes - Letter from Yokosuka [Official Audio]
-
Nujabes - Think Different (feat.Substantial) [Official Audio]
-
Nujabes - A day by atmosphere supreme [Official Audio]
-
Nujabes - Next view (feat. Uyama Hiroto) [Official Audio]
-
Nujabes - Latitude -remix (feat.Five Deez) [Official Audio]
-
Nujabes - F.I.L.O. (feat. Shing02) [Official Audio]
-
Nujabes - Summer Gypsy [Official Audio]
-
Nujabes - The Final View [Official Audio]
-
Nujabes - Peaceland [Official Audio]