Michael Franks - The Art Of Tea (1975)
Michael Franks『The Art Of Tea』――言葉と音色で聴かせる、都会派ジャズ・ポップの出発点
Michael Franksの『The Art Of Tea』は、1975年に発表されたデビュー作で、のちの“クワイエット・ストーム”系の感覚を先取りするような、ジャズとポップスのあいだを滑らかに行き来する作品だ。アメリカ文学を学び、ソングライターとしても映画音楽の作曲家としても活動してきた人物らしく、このアルバムではメロディ以上に言葉の運びが印象に残る。日本盤は1976年リリースで、Warner Bros. RecordsのP-10255R。オリジナルの1975年作を日本で早い時期に受け止めた一枚として見てよさそうだ。
作品全体を通して感じるのは、歌の主役が“声”だけではないことだ。フランクスの歌唱は前に出すぎず、楽器のひとつのように配置されている。その上で、デイヴィッド・サンボーン、マイケル・ブレッカー、ラリー・カールトン、ジョー・サンプル、ウィルトン・フェルダーといった一流どころが、音の輪郭を細かく支えていく。クルセイダーズ周辺の空気感を思わせる部分もあり、同時代のスティーリー・ダンに通じる、緻密で都会的なスタジオ感覚もある。
デビュー作としての位置づけ
『The Art Of Tea』は、単なる“ジャズ寄りのシンガー・ソングライター盤”では終わっていない。フランクスがこの時点で、すでに作詞とメロディ、編曲の間合いをきっちり理解していたことが伝わる。ジャズの演奏力を土台にしながら、ポップソングとしての分かりやすさも失っていないあたりが重要で、以後の彼の作風を決める骨格がこの時点でほぼ見えている。
録音は1975年5月から6月にかけて、ロサンゼルスのキャピトル・レコーディング・スタジオで行われた。アル・シュミット、ブルース・ボトニック、リー・ハーシュバーグが担当しており、音の見通しがよく、各パートの配置が明確だ。歌、サックス、ギター、キーボード、リズム隊が互いに干渉しすぎず、それでいて隙も少ない。聴き進めるほど、細部の作り込みが効いてくるタイプのアルバムだ。
代表曲「Popsicle Toes」
本作を語るうえで外せないのが「Popsicle Toes」だ。タイトルだけでも十分にフランクスらしいが、曲の中身はさらにその印象を強める。言葉遊びのセンスが前面に出ていて、少し艶のある視線と、ユーモアを含んだ描写が同居している。メロディは耳に残りやすく、リズムの置き方も軽やかで、ジャズの演奏が敷居の高さではなく流れの良さとして機能している。
この曲では、歌詞の機知とアレンジの抜け感がきれいに噛み合っている。ラリー・カールトンのギターやサックスの入り方も含めて、過度に主張しないのに印象が残る構成だ。フランクスの作品の中でも、後年に至るまで語られやすい理由が分かる一曲で、アルバムの入口としても機能している。
「Eggplant」に見える遊び心と質感
「Eggplant」もまた、本作の性格をよく示す楽曲だ。タイトルの時点で少しひねりがあり、実際の曲でもその感覚は保たれている。フランクスはここで、ジャズのコード感や演奏の細やかさを背景にしながら、歌詞の視点をあくまで軽快に運ぶ。重さを出さずに色気を漂わせるあたりが巧みで、聴き手の注意を露骨に引くのではなく、じわじわと残していくタイプの曲だ。
この曲の面白さは、表現が過剰にならないことにある。演奏はきちんと練られているのに、完成品としての硬さがあまりない。そうしたバランスが、『The Art Of Tea』全体の魅力でもある。ジャズ・ロックやAORの文脈で聴いても、単なるバックの豪華さではなく、曲そのものの書き方に耳が向く。
音の作りと参加ミュージシャン
参加メンバーを見ると、当時の西海岸スタジオ・シーンの強さがよく分かる。デイヴィッド・サンボーンとマイケル・ブレッカーのサックス、ジョー・サンプルのキーボード、ラリー・カールトンのセミアコースティック・ギター、ウィルトン・フェルダーのベースといった顔ぶれは、それだけで音の方向性を示している。演奏は技巧の見せ場よりも、曲の輪郭を整えることに重点が置かれている印象だ。
その結果、このアルバムは“歌もの”としても“演奏盤”としても成立している。フランクスの声は決して派手ではないが、その控えめさがむしろ曲の説得力につながっている。都会的で、少しひねりがあり、しかし耳当たりは柔らかい。そうした感触が、1970年代半ばのジャズ・ポップの中でも独自の位置を作っている。
日本盤としての聴きどころ
1976年リリースの日本盤は、オリジナル発表から間を置かずに届けられた盤で、この時期の洋楽を日本で追っていたリスナーにとっては重要な一枚だったはずだ。Warner Bros. Recordsの国内プレスらしく、当時の洋楽カタログの中でも比較的洗練された都会派サウンドをそのまま受け取れる内容で、ジャズ、ポップス、AORの境界をまたぐ音楽として自然に聴ける。
『The Art Of Tea』は、マイケル・フランクスの出発点でありながら、すでに完成度の高い作りを見せるアルバムだ。言葉の面白さ、演奏の精度、録音の明瞭さがそろい、1970年代のジャズ・ポップの中でも長く参照される理由が分かる。デビュー作でここまで自分の輪郭を示している点に、この人の強さがある。
トラックリスト
- A1 Nightmoves 4:03
- A2 Eggplant 3:34
- A3 Monkey See-Monkey Do 3:33
- A4 St. Elmo's Fire 3:58
- A5 I Don't Know Why I'm So Happy I'm Sad 4:16
- B1 Jive 3:16
- B2 Popsicle Toes 4:35
- B3 Sometimes I Just Forget To Smile 3:45
- B4 Mr. Blue 4:03
動画
- Nightmoves
- Eggplant
- Monkey See-Monkey Do
- St. Elmo's Fire
- I Don't Know Why I'm so Happy I'm Sad
- Jive
- Popsicle Toes
- Sometimes I Just Forget to Smile
- Mr. Blue