Fonográf - Jelenkor (1984)
Fonográf『Jelenkor』について
ハンガリーのカントリー・ロック・バンド、Fonográfが1984年に発表した『Jelenkor』は、グループ後期の到達点として語られることの多いアルバムだ。Fonográfは1973年結成、1985年解散という活動期間の短いバンドで、Levente Szörényi、János Bródy、László Tolcsvay、Szabolcs Szörényi、Mihály Móricz、Oszkár Némethという編成で知られる。フォーク寄りの語法、ロックの推進力、そして歌ものとしての分かりやすさを同居させたバンドで、その中でも『Jelenkor』は、後年の回顧で特に評価が高い一枚として扱われている。
リリースはハンガリーのFavoritから。レーベルはLocomotiv GTのメンバーによって1983年に設立されたもので、当時のハンガリー・ロックの流れの中でも重要な存在だ。『Jelenkor』はタイトル初出年の作品で、バンドにとって最後のスタジオ作として見られることが多い。結果として、Fonográfの活動を締めくくる位置づけのアルバムになった。
作品の位置づけ
このアルバムは、単なる晩年作というより、バンドの持っていた要素がまとまった一枚として受け取られている。ブローディの詞世界と、演奏面のまとまりが特に評価されており、Fonográfの中でも「最良クラス」とみなす声が後年に出ている。商業的には大きく伸びた作品ではなかったとされるが、評価の軸は販売数よりも内容の完成度に置かれている印象だ。
制作背景で重要なのは、ロックオペラ『István, a király』の大成功の影響下にあったことだ。ブローディは、あのヒットのあとにこのアルバムが作られたことで、バンド活動への意欲が次第に弱まっていったと振り返っている。1984年12月のブダペスト・スポーツホール公演が、事実上の別れになったという文脈も残っている。
サウンドと聴きどころ
『Jelenkor』を聴くと、演奏の整理された感触がまず目に入る。ギター、スティール・ギター、キーボード、ベース、ドラムが、それぞれ前に出すぎずに組み合わさり、歌を中心に据えた作りになっている。フォーク由来の土台を持ちながら、ロック・バンドとしてのまとまりを崩さないところが、このグループらしさだと思う。派手な技巧を見せるというより、曲の輪郭をきっちり保つ方向の演奏で、アルバム全体に統一感がある。
また、ハンガリーの80年代ロックとして見ると、同時代の大きな流れの中で、個人の表現とバンドの合奏を両立させようとする姿勢がはっきりしている。Locomotiv GTのような都市的なロック感とも、純粋なフォーク・リバイバルとも少し違い、歌詞とメロディを前面に出しながら、バンド編成で押し切るタイプの作品だ。
注目曲について
『Jelenkor』では、János Bródyの詞が大きな軸になっている。彼はFonográfの中でも言葉の設計に強い人物で、社会の空気や時代の感覚を、直接的に言い切らずに歌へ落とし込む書き方が目立つ。このアルバムでも、曲ごとの表情は異なりながら、全体として「今この時代」を見つめる視線が通っている。タイトルが示す通り、現在という時間そのものをテーマに置いた構えが感じられる。
代表曲としてひとつの曲名を大きく挙げるより、アルバム全体がまとまりとして語られることが多い作品だが、そのぶん各曲のつながりが聴きどころになる。歌メロの運び、コーラスの重ね方、スティール・ギターの入れ方など、細部が整っていて、派手さよりも構成の確かさが印象に残る。実際に聴くと、終盤に向けてバンドとしての結束が強くなっていく感触がある。
当時の受け止められ方
後年の回顧では高く見直されている一方、発売当時はファンからの評価と商業的な結果が一致しなかった作品として語られている。ブローディは販売枚数について8万枚と述べており、十分なヒット作というよりは、バンドの歩みの中で静かに位置づけられるアルバムだったことがうかがえる。文化統制の事情でジャケット案が差し替えられ、歌詞にも修正が入ったというエピソードも、この時代のハンガリー作品らしい背景として残っている。
Fonográfのディスコグラフィーの中では、最後期の空気をそのまま封じ込めたような一枚だ。ロック、フォーク、歌詞表現がそれぞれ独立しているのではなく、ひとつの作品としてまとまっている点が、このアルバムの強さだといえる。バンドの終盤に生まれた作品でありながら、単なる終着点ではなく、グループが積み上げてきた方法の集約として聴こえる。
トラックリスト
- A1 Tiltott Forrás
- A2 A Show Folytatódik
- A3 Három Az Igazság
- A4 Vihar Előtt
- B1 Visszatérés
- B2 Várj Még
- B3 A Bengázer
- B4 A Jelenkor Ítélete