John Wetton - King's Road 1972-1980 (1987)
John Wetton『King's Road 1972-1980』について
John Wettonの『King's Road 1972-1980』は、1987年にUKのEGから出たコンピレーションで、タイトルが示す通り1972年から1980年までの活動をまとめた一枚です。Wettonは英国ロックの中でも、ベース、ボーカル、ソングライティングを兼ねる存在として知られた人物で、King Crimson、Uriah Heep、Roxy Music、UKといった重要なバンドを渡り歩いてきました。この作品は、そうしたキャリアの流れを一望できる編集盤として位置づけられるものです。
1987年の時点でJohn Wettonは、すでに単なる「有名バンドの元メンバー」ではなく、70年代プログレッシブ・ロックの主要な担い手の一人として見られていたはずです。特にキング・クリムゾン期の重心の低いベースと、UKでの前面に出た歌唱は、彼の個性をはっきり示した時期としてよく語られます。この『King's Road 1972-1980』は、その8年のあいだに残した仕事を、時系列の見通しをつけやすい形でまとめたものとして読むことができる盤です。
作品の性格と聴きどころ
このアルバムはスタジオ作品というより、活動の足跡を整理する性格が強い編集盤です。収録曲の並びを追うことで、Wettonがどの場面でベーシストとして機能し、どの場面で歌い手として前へ出ているのかが見えやすい構成になっています。70年代前半のハードな音作りから、後半のプログレッシブ・ロック寄りの展開、さらに80年に向かう時期の整理されたバンドサウンドまで、ひとりの音楽家の輪郭が段階的に浮かぶ内容です。
実際に聴くと、まず耳に入るのは低音の押し出しと声の存在感です。Wettonのベースは、単にリズムを支えるだけでなく、フレーズ自体に動きがある場面が多い。そこにやや硬質で、前へ出る歌声が重なることで、アンサンブルの中でも輪郭が崩れにくい。プログレッシブ・ロックの文脈で語られることが多い人ですが、演奏の組み立ては意外に直接的で、曲の芯を見失いにくい印象があります。
King Crimson期に通じる重さと緊張感
1972年前後のWettonを語るなら、やはりKing Crimsonの存在は外せません。『Larks' Tongues in Aspic』期から『Starless and Bible Black』期にかけての仕事は、彼のキャリアの中でも特に重要な位置にあります。Robert Frippのギター、Bill Brufordのドラムと並ぶ中で、Wettonのベースは音数以上に圧を持ち、歌は鋭さと抑制を同時に抱えたものとして機能している。この時期の演奏は、技巧の誇示よりも、緊張感の持続に重きがある。
この編集盤の中でその時期の曲が並ぶと、Wettonの役割がかなり明確になるはずです。King Crimsonは同時代のプログレの中でも即興性と構築性の振れ幅が大きいバンドですが、Wettonはその中心で、音の密度を下げずに進行させるタイプのプレイヤーだったと言えるでしょう。Emerson, Lake & PalmerやYesのように鍵盤や高音域の華やかさで押す方向とは少し違い、下支えの強さと歌の重心で引っ張る感覚がある。
UKでの前景化したボーカル
1978年に結成されたUKは、John Wettonのキャリアの中でも特に「歌うベーシスト」としての面が前へ出たプロジェクトです。Eddie JobsonやBill Brufordと組んだこのバンドでは、演奏の精度が高く、曲の設計も明快で、Wettonのボーカルがサウンドの中心に置かれています。King Crimson期の緊張感を引き継ぎつつ、より整理された構造の中で彼の声がはっきり聴こえるのが特徴です。
『King's Road 1972-1980』を通して聴くと、Wettonが70年代の終わりに向かって、単なるサポート役ではなく、フロントマンとしての存在感を固めていった流れが見えてきます。UKの音は技巧的でありながら、曲そのものの推進力が比較的わかりやすく、Wettonの歌のメリハリもそこに合っています。プログレッシブ・ロックの中でも、演奏の複雑さと聴きやすさの接点に位置するバンドとして、この時期のWettonを理解するうえで重要なパートです。
編集盤としての意味
1987年にEGから出たこの盤は、Wettonの70年代を後追いで整理する役割も持っているように見えます。EGはプログレやアートロックの文脈で重要なレーベルで、Robert Fripp周辺やBrian Eno系統とも近い印象のあるカタログを持っていたため、Wettonの作品集がここから出ることにも納得感があります。派手な装丁や大きな売り文句より、内容でキャリアを示すタイプのコンピレーションという印象です。
このアルバムは、John Wettonという人物を「どのバンドにいた人か」だけでなく、「どんな音で70年代を渡った人か」という見方に変えてくれる編集盤でもあります。ベース、歌、バンドの中での立ち位置、その変化がまとまっているため、個別の名演を点で追うだけでなく、70年代英国ロックの流れの中にWettonを置いて眺めやすい。そういう意味で、彼のキャリアを俯瞰する入口として機能する一枚です。
トラックリスト
- A1 Nothing To Lose 3:57
- A2 In The Dead Of Night 5:17
- A3 Baby Come Back 3:24
- A4 Caught In The Crossfire 5:02
- A5 Night After Night 5:10
- B1 Turn On The Radio 3:41
- B2 Rendezvous 6:02 4:02
- B3 Book Of Saturday 2:54
- B4 Paper Talk 3:57
- B5 As Long As You Want Me Here 4:59
- B6 Cold Is The Night 5:23